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TEXT:小鮒康一
ロードスターにRAV4! リーフやi-MiEVの前から日本のメーカーはEVに取り組んでいた

メーカーによる試作コンバートEVを振り返る いまでは街なかで見かけても特別感もなくなり、すっかり日常に溶け込んだ感のあるEV。しかし、過去にはさまざまなクルマをベースにEV化を実現したカスタマイズカーやコンセプトカーが数多く存在していた。 なかには実際にナンバーを取得したり、市販されたりしたモデルもあったのだが、今回はそんな黎明期に生まれたEVモデルを振り返ってみたい。 トヨタRAV4 2025年度内に新型の6代目モデルの登場がアナウンスされている、トヨタのクロスオーバーSUVであるRAV4。新型はハイブリッドとPHEVの2種類のパワートレインが用意される電動車となることが明らかとなっているが、じつは初代モデルにはいち早くEVが存在していた。 1996年8月に発売を開始したRAV4のEVモデルは、3ドアモデルをベースに高効率永久磁石式同期モーターと世界初のニッケル水素バッテリーを搭載。 高性能回生ブレーキや、ヒートポンプ式エアコン、電動油圧パワーステアリング、フロントシートヒーターなど、現代のEV車が多く採用している要素を多く採用していた。 満充電時の航続距離は215km、駆動方式は前輪駆動で価格は495万円と決して安いものではなかったが、官公庁や法人ユースで選ばれることもある1台だった。 日産プレーリージョイ 前輪駆動レイアウトの乗用車をベースとしたミニバンタイプの元祖として、三菱シャリオとともに知られているプレーリー。その2代目の後期モデルとして登場したプレーリージョイをベースにEV化をしたモデルが1997年にリース販売されている。 この車両にはソニー製のリチウムイオンバッテリーが搭載されており、市販車初のリチウムイオンバッテリーを搭載したEVとなっていた。 満充電時の航続距離は200kmで、2000年から国立極地研究所北極観測センターの支援車として使用された個体は、極寒の気象条件でも6年間無故障で稼働し、高い信頼性を誇ったことでも話題を集めたのだった。

TAG: #旧車 #試作車
TEXT:高橋 優
テスラ以外は低迷気味の日本のEV市場! 国産勢はリーフ・eビターラ・N-ONE e: らの新型モデルで浮上なるか?

日本ではEVシフトが下降気味 日本国内における最直近の8月のEV販売動向が判明しました。とくにテスラのEV販売台数が大幅増加する一方、日本メーカー勢は深刻なEV販売低迷が続いています。2025年末以降の日本国内EVシフトの展望を含めて解説します。 まずこのグラフは、2018年以降のBEVとPHEVの月間販売台数を示したものです。2025年8月の販売台数は約6500台弱と、前年同月比でマイナス成長に留まりました。ただしこの直近月は商用軽EVである日産クリッパーEVとホンダN-Van e:の販売台数は含まれていないため、この2車種を含めると、概ね前年と同等水準のEV普及台数に留まる見通しです。 とはいえ、今回着目するべきは全体需要という観点です。じつはこの8月は自動車販売全体が大きく沈んでしまった月であり、とくに乗用車セグメントは前年比-11.4%という落ち込みです。軽自動車セグメントも前年比-4.3%と同様に下落。それを含めると、8月は前年と同等のEV販売台数を達成見込みであり、全体としてはEVシフトがわずかに進んだと見ることもできそうです。ちなみに普通車セグメントに限ると、トヨタは前年比-13.9%、ホンダも前年比-12.9%、日産は前年比-28.4%と壊滅的な販売台数減少です。 次に、新車販売全体に占めるBEVとPHEVの販売台数の合計比率について、直近の8月は速報値で2.36%と、前年同月に記録した2.49%と比較してシェア率は横ばいとなりました。確定バージョンであれば前年比はわずかにプラス成長となる見込みであり、やはり2024年のEV減速のトレンドが底を打ち始めている様子が見て取れます。 さらにBEV単体の販売動向を詳細に確認しましょう。普通車セグメントの日本メーカーと輸入車メーカー、さらに軽自動車セグメントにわけてみると、輸入EVは2356台と、前年同月比+23.4%と販売増加を記録している一方で、日本メーカーの普通車セグメントのBEV販売台数はたったの293台と、前年同月比-62.1%という壊滅的な状況です。この293台という数値は2代目リーフのモデルチェンジ直前の2017年9月以来の少なさと同等。まさに、日本国内で日本メーカーの普通車セグメントのEVが、まるで売れていない様子が見て取れます。 また、年間ベースにおけるBEVとPHEV販売台数、およびそれぞれのシェア率の変遷を確認すると、データが確定した2025年7カ月間でのBEVシェア率は1.49%と、2023年以降のBEVシェア率後退トレンドに歯止めがかかっていません。下半期に挽回して、2025年シーズン通しで前年越えを達成できるのかが注目ポイントでしょう。 それでは、日本国内でどのようなEVが人気であるのかを確認しましょう。まず初めに、2025年累計での主要自動車メーカー別のBEV販売台数の変遷を見てみると、やはり日産が頭ひとつ抜けた存在感を見せています。また2位にはテスラがつけています。 日産は2025年8カ月間で1.44万台強を発売したものの、2025年シーズンは2月から7カ月連続で前年比マイナスです。新型リーフの納車は2026年初冬が濃厚で、2025年のEV反転攻勢にはあまり期待できない状況です。いずれにしても、新型リーフが日本国内でどれほどの値段設定で発売されるのかは、2026年の日本のEVシフトを占う上で最重要動向のひとつといえるでしょう。

TAG: #市場 #新車 #販売台数
TEXT:御堀直嗣
クルマのエンジンはオーバーヒートするけどEVのモーターやバッテリーは? 性能面でも重要なEVの熱事情

熱問題はエンジンがなくともつきまとう 電気自動車(EV)でも、温度管理は必要だ。つまり、冷却機能を備える必要がある。ただし、ガソリンエンジンほど高熱を発するわけではない。 ガソリンは、エンジンで燃やすことで千数百℃の高温になる。そこでエンジン内部に水路を張り巡らせ、ラジエターで冷却し、80℃ほどに維持して事なきを得ている。EVのモーターも、高回転で回せば多くの電流が流れ、永久磁石式同期モーターでも固定子(ステーター)の電磁石の銅線が熱をもつようになる。ちなみに回転子(ローター)は永久磁石なので、電気は流れない。 ことに連続して高速走行をしたり、登り坂を走り続けたりするとモーターの回転数が高いまま維持されるため、モーターの温度があがりやすい。一時的には100℃近くになることもあるだろう。そこで、水冷によって50℃ほどに保つようにしている。 そもそも、モーターが過熱してもガソリンエンジンに比べ圧倒的に低い温度までなので、初代リーフが発売されて以降15年が経つが、モーターのオーバーヒートでEVが走行不能になったとか、壊れたという話は耳にしていない。またモーターは、丈夫な原動機であり、車体などが廃車になる時期が来ても、別のクルマで使えるといわれるほど耐久性がある。モーターに起因する故障や問題はあまり気にする必要はないのではないか。 ただし、コンバートEVのようにエンジン車をEVに改造する場合は、使うモーターの種類により冷却が不十分で、空冷のまま高回転運転を続けたりすると故障する可能性はある。かつて、直流直巻モーターを使ったコンバートEVでサーキット走行をした際に、ブラシが焼けるといった症状が出たことがある。 次に、リチウムイオンバッテリーも発熱する。放電でも充電でも、電気の出入りによって発熱する。バッテリーには内部抵抗があり、電気の流れにくさが熱を生み出す。電気の流れは、川にたとえることができる。通常は川幅を超えて水が流れることはないが、集中豪雨があると、川幅を超えて水があふれだし、洪水になる。 電気の流れも、電線の太さに適した流れであれば問題ないが、より多くの電気を流すと、水のようにあふれ出しこそしないものの、流れにくさが熱となって大気へ放出される。バッテリーが熱くなって、ケースが熱を帯びたり、周囲の空気が温まったりするのは、いわば川の洪水のようなものだ。 リチウムイオンバッテリーが快適に作動する温度範囲は、15~35℃といわれる。いわば人が快適に過ごせる温度範囲に近い。もちろん、35℃以上は猛暑日といわれ、熱中症の危険があるわけだが……。リチウムイオンバッテリーも高温が続くと、熱暴走といって異常発熱や発火の危険性が出てくる。こうなると、オーバーヒートというより事故になってしまう懸念がある。 逆に、低温では化学反応が遅くなって性能が落ちる。そこでリチウムイオンバッテリーも、適切な温度管理をすることが大切で、水冷や液体冷却が施されるようになった。そして低温に対しては、温めることも行うようになっている。一方、日産の初代リーフは、空冷を採用していた。 当初のバッテリー容量は24kWhで、軽EVの日産サクラとくらべ4kWh多いだけだった。したがって高速で長時間走ることは限られ、リチウムイオンバッテリーが高温にさらされる機会も限られたはずだ。なおかつ、もしそのような状況になった場合は出力電流を抑えることで温度上昇を抑えた。走行性能は落ちるが、そうした電力制御による温度管理が行われたのである。 低温に対しては、起動すれば間もなくリチウムイオンバッテリーからの放電がはじまり、それによってバッテリー自体も温められていく。充電においても、普通充電を基本にすれば一気に大電流を流さないため、温度変化に対する適応が可能だった。 ところが初代リーフ以降、大容量バッテリーを車載し、一気に長距離を移動したり、それによって消耗した電力を急速充電器で繰り返し充電したりするといった使い方がされるようになり、水冷などにすることで積極的な温度管理が行われるようになった。

TAG: #バッテリー #メカニズム #冷却
TEXT:山本晋也
EV乗りだけが知ってる日々の生活での「お得感」! エンジン車じゃ味わえない幸せ3つ

EVに乗って得したこと 筆者は2010年代からEVに乗っている。途中、住居の関係でエンジン車をメインで利用していた時期もあったが、いまは自宅や職場に普通充電設備が整っていることもあり、日常使いはEVが担っている。そんな筆者が「EVに乗り換えてトクした意外なこと」をお伝えしよう。 クルマ好きであれば「EVでオトクになる」と聞いて、新車購入時に数十万円の補助金が給付されることを想像するかもしれない。また、自動車税の割引や、車検時に収める自動車重量税の免税といった税制優遇もご存じだろう。しかし、ここで紹介するのは、そうした誰もが知っているランニングコストを抑えられるという話ではなく、筆者の実体験に基づいた、想定外にオトクと感じた3つのエピソードだ。 まずは「買い物の交通費が実質無料になる」というテーマからお伝えしたい。 郊外型の大型ショッピングモールは、クルマでの来客を前提に広大な無料駐車場を備えていることが多い。駐車料金がかからなければ、交通費は無料と感じてしまうが、よくよく考えてみると、自宅からショッピングモールに行くまでの燃料代はユーザーの負担となっている。「そんなの当たり前じゃないか」と思うかもしれないが、EVオーナーになるとその認識が変わるのだ。 なぜなら、一部のショッピングモールなどには無料の普通充電サービスが備わっていることがあるから。とはいえ、たいていは3kW級の普通充電なので、1時間つないでいても3kWh相当の充電しかできないが、実際に利用すると十分に役立つ充電量であると感じる。 たとえば、筆者の乗っているフィアット500eの場合、渋滞などにハマらないときの街乗り電費は10km/kWhを超えてくるし、冷暖房を使わない時期であれば8km/kWh前後の電費で走行できる。 3kWhの電力量というのは24~30km走行分に相当する。あくまで筆者の生活圏の話になるが、これだけ充電できれば自宅とショッピングモールを往復するときに消費した電力をカバーできる。つまり無料で買い物に行けることになる。 ただ、30km程度であれば燃費のよいハイブリッドカーだと、1リットルくらいのガソリンで走れる距離といえるため、金銭的には大したことがないと感じるかもしれない。それでも、「買い物の交通費がタダになる」という感覚は、そのショッピングモールを利用するインセンティブになる。だからお店は無料充電設備を用意するのだろうし、無料充電につられているのはお店側の術中にハマっているのかもしれないが……。

TAG: #EV #カーライフ #コスト
TEXT:石橋 寛
天下のポルシェに携帯屋のクルマが勝っただと? ニュルでタイカン・ターボGTをぶっちぎったシャオミSU7の衝撃

シャオミとポルシェがニュルでガチンコバトル 大の大人が正面切ってムキになれるのがレースというもの。ラップタイムを競い合うのに、建前やしがらみは一切不要。これをリアルに体現しているのが、近年のシャオミSU7対ポルシェ・タイカン・ターボGTのガチンコ対決ではないでしょうか。 つい先ごろ、シャオミSU7はスペシャルバージョン「トラックパッケージ」と禁じ手かのような「ニュルブルクリンク・リミテッドエディション」の2タイプをラインアップ。両車のバトルはいよいよ佳境へと突入したようです。 ご存じの方も多いと思いますが、そもそもシャオミは中国の携帯電話メーカー。そこが突如EVビジネスに参入したのが2021年のことで、SU7は彼らにとって最初のモデルでした。高級4ドアセダンの市場に投入され、FRモデル(299馬力)・全輪駆動(673馬力)あたりが一般的なモデルですが、「世界一のEVメーカーになる!」というCEOが掲げたモットーのとおり、シャオミはとんでもないEVを発売したのです。 SU7 ウルトラと呼ばれるトップエンドモデルは、578馬力を発揮するモーターを2基、392馬力のモーターを1基搭載し、合計出力1548馬力というハイパワー。ポルシェがニュルブルクリンクのラップレコード向けにチューンしたタイカン・ターボGT「バイザッハ・パッケージ」が1108馬力とされているので、いかにシャオミがムキになっているかがよくわかる数字かと(笑)。 もちろん、プロモーションの一環としてSU7 ウルトラはニュルブルクリンクにチャレンジ。プロトタイプとしながら、6分22秒091と驚異的な数字を叩き出しています。 ちなみに、市販車の最速モデルとしてはメルセデスAMGが6分35秒183、シャオミSU7プロトタイプが挑戦したオープンクラスは、ポルシェ919ハイブリッドが5分19秒546という記録になります。

TAG: #中国 #輸入車
TEXT:琴條孝詩
こんなオシャレEV商用車がトヨタにあったのか! 英国で大人気の「プロエースEV」は知れば知るほど日本でも乗りたい!!

日本にはないトヨタの商用バン トヨタ自動車が英国をはじめとする欧州市場で展開している「プロエース」シリーズをご存じだろうか。トヨタといえば「プリウス」をはじめハイブリッドカーのパイオニアとして知られるが、近年は欧州を中心に純粋な電気自動車(EV)の展開も進めている。このシリーズでは電動化を積極的に推進しており、とくに英国市場では電動商用バン「プロエースEV」が高い評価を獲得している。日本国内では正規導入されていないため知る人は少ないが、欧州の商用車市場においてトヨタの存在感を示す重要なモデルだ。 <プロエースEVとはなにか? 英国で活躍する商用バンの正体> プロエースは、トヨタがヨーロッパで販売する全長5mクラスのLCV(Light Commercial Vehicle:小型商用車)だ。その歴史を振り返ると、2012年にトヨタとPSAプジョー・シトロエン(現ステランティス)が提携し、PSAからのOEM供給という形でスタートした。しかし、2016年のジュネーブショーで発表された2代目モデルでは、トヨタ・プジョー・シトロエンの共同開発となり、トヨタの技術やノウハウがより深く反映されるようになった。 プロエースEVは、シトロエンe-ディスパッチ、プジョーe-エキスパート、オペル/ヴォクスホール・ヴィヴァーロ-eと兄弟車関係にある。つまり、これらの車両はすべて同じプラットフォームを共有しているが、トヨタならではの品質管理や顧客サービスが加わることで差別化が図られている。イギリスでは2021年から本格的な販売が開始され、英国商用車市場において着実にシェアを拡大している。 <実用性の高さが光る! プロエースEVの優れた性能と特徴> プロエースEVの最大の魅力は、商用車として求められる実用性を妥協なく追求している点にある。モーター出力は100kW(136馬力)でトルクは260Nmと、ディーゼルエンジン車に引けを取らない力強さを発揮する。加えて、EVならではの静粛性と即時応答の加速がドライバーの疲労を軽減する。トヨタはこのモデルを通じて、商用車の電動化が単なる環境対策ではなく、業務効率の向上にもつながることを示している。 バッテリーは50kWhと75kWhの2種類が用意されており、それぞれWLTP基準で142マイル(約228km)と205マイル(約330km)の航続距離を実現。とくに興味深いのは積載量との関係で、軽量な50kWhバッテリー搭載車は最大1253kgの積載量を誇る一方、大容量75kWhバッテリー搭載車でも1000kgの積載量を確保している。これは、多くの電動商用車の課題である積載量の制約を克服した設計といえる。 充電性能も実用的で、DC急速充電では約45分で80%まで充電可能だ。これは、ビジネスユースで重要なダウンタイムを最小限に抑える工夫である。さらに、トヨタのMyToyotaアプリを活用すれば、遠隔でバッテリー残量を確認したり、プリコンディショニング(事前空調)を行ったりすることも可能だ。こうしたデジタル機能は、現代の商用車に求められるスマートさを体現している。

TAG: #商用バン #商用車 #国内未導入モデル
TEXT:渡辺陽一郎
買おうと思ってもほしいクルマがない! 国産EVが売れない理由は「車種の少なさ」が大きな原因

日本のEV市場はサクラが支えている 2025年上半期(1〜6月)の国内販売状況を見ると、乗用車に占める電気自動車の販売比率はわずか1.4%だ。 ハイブリッド(マイルドタイプを含む)の販売比率は50%を超えるが、エンジンを搭載しない電気自動車は、ほとんど売られていないことになる。 その少数の電気自動車のなかで、どのような車種がどの程度売れているのか。国産電気自動車の販売ランキングを見てみたい。 ■2025年上半期/国産電気自動車(乗用車)販売ランキング *販売台数は1カ月の平均値。 1位:日産 サクラ:1460台 2位:日産 リーフ:約330台 3/4位:日産 アリア:約150台 3/4位:三菱 eKクロスEV:約150台 5/6位:トヨタ bZ4X:約30台 5/6位:レクサ スRZ:約30台 7/8位:マツダ MX-30EV+ロータリーEV:20台 7/8位:スバル・ソルテラ:約20台 上記が乗用電気自動車/8車種の販売ランキングだ。Honda e:はすでに販売を終了しており、上記のランキングに入らない。 1位は日産サクラで、2位の日産リーフに圧倒的な差を付けた。上に挙げた電気自動車8車の販売総数の内、サクラが60%以上を占める。N-VAN e:のような軽商用車や輸入車を含めても、サクラの日本の電気自動車市場に占める販売比率は32%と高い。日本の電気自動車は、サクラが支えているといっても大げさではない。 そして、上記の販売ランキングからわかるとおり、国産電気自動車は車種が少なすぎる。小型/普通車市場で50%以上のシェアを維持するトヨタでさえ、乗用電気自動車はbZ4XとレクサスRZだけだ。これでは電気自動車の販売比率が乗用車全体の1.4%でも仕方がない。 国産の電気自動車が少ない一方で、メルセデスベンツやBMWなどの輸入車には豊富に設定されている。そのために国内で売られる電気自動車の約40%を輸入車が占める。1車種当たりの売れ行きは少ないが、車種数が多いから、総数では販売比率が増えた。そこにサクラの32%を加えると70%を上まわる。 日本で電気自動車を普及させるには、サクラのような軽自動車がもっとも効果的だ。その意味で、今後登場する軽自動車のホンダN-ONE e:が注目される。2025年8月1日に予約受注を開始して、9月12日に発売をスタートさせている。 そのあとに輸入車のBYDも、軽自動車規格の電気自動車を発売するから、ようやく電気自動車の本格普及が始まりそうだ。

TAG: #EV #新車 #新車販売ランキング
TEXT:御堀直嗣
クルマに長期間乗らないとバッテリーが上がる! だったら満充電のEVでも長期間乗らないとバッテリーは空になる?

クルマに使われるバッテリーにはいくつかの種類がある バッテリーに充電した電力が、これといって電気を使っていないのに時間の経過とともに減ってしまうことを自己放電という。バッテリー自らが放電してしまうという意味だ。 バッテリーに充電した電力は、バッテリーの電極と電解質によって化学的に貯められていて、倉庫に物を収めたというような物理的保管とは異なる。したがって、バッテリー内に生じた化学反応や、バッテリーが置かれている環境としての気温や湿度の違いにより、電力が徐々にではあるが自然に減ってしまう。 クルマの補器用バッテリーとして長年使われてきた12ボルト(V)の鉛酸バッテリーは、ひと月で4~8%ほど自己放電するといわれる。しばらくクルマに乗らずにいると、バッテリー上がりをするひとつの要因といえる。ただし、バッテリー上がりは鉛酸バッテリーの自己放電だけでなく、近年のクルマはキーを差し込まなくてもボタン操作で錠を開閉できるオートロック機能がついていたり、盗難防止の装置が働いていたりというように、待機電力といえる電気がずっと使われているので、そうした機能が電力を消費してもいる。 電気自動車(EV)の駆動用として用いられるリチウムイオンバッテリーはどうか? リチウムイオンバッテリーも自己放電するが、それはひと月に1~5%ほどであるという。鉛酸バッテリーと比べかなり小さな値だ。しかも、車載バッテリーは容量が大きいので、自己放電で充電が空になってしまい、動かなくなるというようなバッテリー上がりの懸念はないに等しいのではないか。 では、EVで補器用として使われる鉛酸の12Vバッテリーは、どうなのか? もちろん、鉛酸バッテリーとしての特性に変わりはない。とはいえ、そもそもEVには駆動用リチウムイオンバッテリーに大容量の電力が貯めてあるので、電気そのものは存在するのだから、そこから鉛酸バッテリーへ充電を行うことで、エンジン車で起こりがちなバッテリー上がりで始動できない懸念は減るだろう。 ただし、自動車メーカーによっては、駆動用リチウムイオンバッテリーから駐車中でも鉛酸バッテリーへ電力を提供し、バッテリー上がりを防ぐ機能を備えていない例もあるようだ。この場合は、EVといえども、長期間駐車したままにしておくと、そもそも鉛酸バッテリーの電力がないことにより、起動しなくなる恐れはある ハイブリッド車で多く使われてきたニッケル水素バッテリーは、自己放電が多いといわれる。ひと月で30%に及ぶこともあるようだ。EVにニッケル水素バッテリーが使われない理由がそこにありそうだ。もちろん、EVの開発初期段階では、鉛酸バッテリーより容量が大きいのでニッケル水素を搭載し、一充電走行距離を伸ばしてきた経緯がある。 しかし、ニッケル水素バッテリーの多くがハイブリッド車(HV)で用いられてきた背景にあるのは、基本的にエンジンで発電したり、走行中の回生により充電したりすることでクルマは走り、充電による大容量の電力への依存度が低いことが、ニッケル水素バッテリーの特性に適していたといえるからではないか。

TAG: #バッテリー #充電
TEXT:石橋 寛
話題のフォルクスワーゲンID.Buzzは50年の準備期間の末に登場ってマジ? EVバスは一日にして成らず!!

たくさんの雛形を経てID.Buzzは市販化された ついに日本に導入されたID.Buzzですが、これまで何台ものコンセプトカーが発表されてきたことご承知のとおりです。ブリー・コンセプトやBudd-eなどなど、そりゃもうたくさんあったのですが、フォルクスワーゲンはおよそ50年前からID.Buzz、すなわちワーゲンバスの電動化を目論んでいたことはさほど知られていません。それだけ長期間にわたって研究していれば、トライ&エラーも増えるというもの。ID.Buzzに辿りつくまでの紆余曲折をざっくりご紹介しましょう。 T2(1972) 1970年、VWは電気駆動システムを備えたクルマを設計する「フューチャー リサーチ」開発部門を設立しました。先見の明というよりも、ドイツは第二次大戦中から電気駆動の開発に取り組んでおり、自国産エネルギーの乏しさを補うことが主目的だったかと。 そこで生まれたのが、ワーゲンバスをベースに880kgものバッテリーを荷台に積んだT2でした。発売当時の1972年はバッテリーの性能も低く、これだけ積んでも航続距離は85kmとわずかなもの。しかも、充電ステーションなどは存在しないため、VWは充電済みバッテリーと積み替えるシステムを考案。およそ5分で交換できたといいますが、やはり荷室を占拠する大型バッテリーは実用的とはいえず、数台を市販したのみでT2プロジェクトは終了しています。 この苦い経験がのちのMEB(モジュラー・エレクトリック・ドライブキット)と呼ばれるEV専用プラットフォームの開発につながったことはいうまでもないでしょう。 マイクロバス・コンセプト(2001) 連綿と続いていた電動Bulli(ブリ:T1バスの愛称、ドイツ語でブルドッグや剛健さの意味)プロジェクトは2000年代初頭、突如としてマイクロバス・コンセプトを発表。ちょうど北米にミニバンブームが訪れていた時期で、VWとしては往年のブリを意識したスタイリングで人気を勝ち取ろうと考えたのでしょう。 ただし、中身はEVでなくV6エンジンを搭載することが予定されていました。時代を考えればプリウスが発売されて間もなく、市場はEVどころかハイブリッドさえスタートしたばかり。もしかすると、1970年代の失敗がEVとして発表することを躊躇わせたのかもしれません。 とはいえ、カリフォルニアのスタジオでデザインされたボディは、数あるコンセプトモデルのなかでも生産型Buzzにほど近いもの。デトロイトショーでの評判も上々で、2002年には量産も計画されたものの、ミニバン市場のヒートアップに輸入車のVWは分が悪いと判断。2004年にあっけなく生産計画の中止が発表されました。 ブリー・コンセプト(2011) ID.Buzzの生産より10年前、早くもEVコンセプトカーとして登場していたのがブリー・コンセプト。スタイルの流れとしてはマイクロバス・コンセプトを受け継ぐものながら、VWの汎用プラットフォーム「MQB」を採用するなど、文脈はまったく違うといっていいでしょう。また、EVとしてお披露目したのも現実性を担保するもので、この翌年にはVWからEVへの大規模投資がほのめかされています。 MQBを使用したためか、マイクロバス・コンセプトよりもコンパクトになりつつ、スペースユーティリティも最適化されています。これには、バッテリーの搭載位置などが奏功しており、T2時代からの研究成果が現れているはず。当時としては破格といっていい40kWhのリチウムイオン電池を積み、航続距離は300kmをベンチマークとしていました。

TAG: #コンセプトカー #ミニバン #輸入車
TEXT:高橋 優
EVの王者BYDの勢いに陰り! 中国の新興勢力やテスラの影響で暗雲立ちこめる

BYDのセールスが下落傾向に 中国 BYDの2025年第2四半期の決算が発表され、収益性が悪化し始めているという驚きの決算内容であることが判明しました。 まず初めに、BYDの第二四半期の販売台数は114.5万台と、前年比+16.1%と成長を実現した一方で、BYDが2025年シーズン通しでの販売目標として社内で当初掲げられていたとされる550万台という数値目標と比較すると、その達成は厳しくなっていると言えます。実際にロイターなど一部メディアによれば、すでにBYDは2025年の販売台数目標を460万台にまで下方修正したとされており、2025年シーズンは成長が鈍化する見通しです。 次に売り上げは2009.2億元(日本円で約4兆1436億円)と、前年同四半期比で+14.0%の成長幅であり、販売単価が横ばいに留まったと言えます。BYDはすでにDenzaやYangwangという高級ブランドを立ち上げ、4月にはHan LとTang LというBYDブランドのフラッグシップを投入済みです。ところがこれらの高級ブランドや高級モデルの販売は芳しくなく、実際に販売単価が伸びていません。 次に、BYDのEVで稼ぐ力を見極める上で重要といえる粗利益について、Q2単体のグループ全体の粗利益率は16.27%と、2022年Q2以来となる3年ぶりの低水準に留まってしまいました。さらに、BYDグループから電子部品や半導体の受託製造部門を担当するBYD Electronicsの粗利益を差し引いてみると、その自動車部門に絞った粗利益率は18.74%と、前年同四半期の22.42%と比較してみても、大きく減少しています。つまり自動車部門においてマージンが顕著に落ちていることを示すのです。 とはいえ、自動車マーケット全体を見渡すと、ドイツ勢やアメリカ勢、日産などのマージンは低下傾向にあり、粗利益率18.74%というのは業界平均レベルの水準を維持しています。 次に、販管費や研究開発費などを差し引いた営業利益率は3.83%と、前年同四半期の6.54%と比較しても大幅に悪化しています。この営業利益率の低さは2022年Q1以来の水準です。その一方で、研究開発費についてはQ2単体で153.7億元(日本円で約3200億円)であり、前年同期比+70.6%と大幅に増加。売り上げ全体に占める研究開発比率も上昇し続けており、直近のQ2も7.65%と史上最高水準です。 よって、営業利益は低下しているものの、研究開発という将来への種まきは加速。ちなみに、世界最大の自動車メーカーであるトヨタは2025年4-6月期で3558億円という研究開発費が計上されていたことから、BYDはすでにトヨタと同等規模の研究開発費を投入していることになります。

TAG: #BYD #セールス #中国市場
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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