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TEXT:高橋 優
50万円EVでお馴染みの「ウーリン」が500km走れるコンパクトEVを200万円でリリース! BYDも驚異の値下げでEV価格戦争が激化している

激安EVで話題になったウーリンに再び脚光 中国市場において、あの50万円から買える超小型EVをスマッシュヒットさせた中国メーカーが、なんと航続距離500km以上を実現するコンパクトEVを200万円で発売してきました。そして、このコスパ最強EVに対して、中国BYDがシーガルとドルフィンをさらに値下げして新参EVを挟み撃ちする戦略を取ったそうです。熾烈な中国第二次EV値下げ戦争を解説します。 まず、今回取り上げていきたいのが中国の自動車メーカーである「Wuling(ウーリン)」の存在です。このWulingについては、2020年から発売をスタートした超小型EVであるHong Guang Mini EVの存在がもっとも印象的でしょう。 その当時の値段設定で50万円程度から発売したことによって、中国の農村地帯における足としての需要を中心にスマッシュヒットを記録しました。いずれにしても、中国のEV販売台数急上昇の火付け役となったことで、Wulingの知名度が世界に広まったという背景が存在します。 そして、今回新たに明らかになってきたことというのが、そのWulingが新たな格安EVを発売してきたということで、それが、Bingo PlusというコンパクトカーセグメントのEVです。 じつは、すでにWulingは2023年初頭にもBingoを発売済みでした。この中国国内のコンパクトカーセグメントの月間販売台数の変遷を示したグラフを見てみると、緑で示されたBingoについては、発売開始後、瞬く間に販売台数を伸ばして、2023年12月単体で2.7万台以上の販売台数を実現するという、これまたHong Guang Mini EVに続くスマッシュヒットを達成していました。 このBingoは、全長3950mm、全幅1708mm、ホイールベースが2560mm、4人乗りのコンパクトEVであり、最小17.3kWh、最大31.9kWhというバッテリーを搭載することで、中国CLTCサイクルベースで203kmから最長333kmという航続距離を実現しています。 そして、その値段設定が、6万元未満、日本円でおよそ123万円からのスタートと、驚異的なコスト競争力を実現しています。 一方でこのBingoは、発売当初から絶対的なライバルとの競争に晒され続けていたという点が極めて重要です。その絶対的なライバルというのが、中国BYDが同じ時期に発売をスタートしたシーガルです。 そのシーガルは、Bingoを遥かに凌ぐ販売ペースを実現。2023年12月単体で4.1万台という尋常ではない販売台数を叩き出しており、まさにBingoとともに、中国コンパクトカーセグメントを席巻している状況です。 その勢いは、これまでコンパクトカーとして存在感を示していたホンダ・フィットやトヨタ・ヤリスの販売台数が低迷してしまっていることからも明らかです。中国国内でコンパクトカーといえば、すでにバッテリーEVの選択肢が圧倒的となっており、それをリードしているのが今回のBingoとシーガルなわけです。 そしてBYDは、シーガルよりもひとまわり大きいサイズ感で日本でも発売中のドルフィンもラインアップしており、Bingoはシーガルとドルフィンに完全に挟み撃ちされてしまっている状況です。Wulingについては、ドルフィンの対抗車種となる、Bingoよりもひとまわり大きくてEV航続距離を伸ばした上級グレードの設定が待望されていたわけです。 そしてWulingが追加設定してきたのが、Bingo Plusと名付けられた上級グレードです。全長4090mm、全幅1720mm、ホイールベースが2610mmと車両サイズをひとまわり大きくしながら、その上で搭載バッテリー容量を大幅に増量し、EV性能も向上させています。まさに、ドルフィンのガチンコの競合として、BYDの包囲網に対抗してきた格好です。 Bingo Plusについては、37.9kWhと50.6kWhという大容量バッテリーをラインアップすることによって、その航続距離はなんと最大で510kmと、コンパクトカーとしては驚異的な航続距離を実現しています。 もちろん急速充電にも対応させながら、個人的に注目したいのが、車両剛性および衝突安全性に直結する車両ボディに対する高張力鋼の使用比率です。 今回のBingo Plusについては74.8%と、その配合割合を大幅に高めてきており、ドルフィンも78.2%と非常に割合が高いです。 よって、ドルフィンの衝突安全性は、Euro NCAPにおいても最高評価の5つ星を獲得していることからも、その車両剛性の高さが見て取れるわけです。 いずれにしても、ただ安いだけではなく、その衝突安全性の高さにも注力していることが見て取れると思います。 ただし、Bingo Plusには、運転席と助手席、および1列目のサイドエアバッグこそ標準搭載なものの、シーガルとドルフィンについてはさらにサイドカーテンエアバッグも搭載されていることから、エアバッグの搭載数という点では、BYDがより安全装備を徹底している様子も見て取れます。

TAG: #コンパクト #中国 #激安EV
TEXT:高橋 優
新たなEV購入補助金は「メーカーの充電設備充実度」「車両性能」などで異なる! 中韓EVはかなり厳しい結果に

2024年度CEV補助金の詳細が発表された 令和5年度補正予算で策定されている、電気自動車向けの購入補助金の詳細や具体的な補助金額が判明しました。日本メーカーのEVについてはこれまでどおりの金額が維持されたものの、中国BYDのEVについては、その半分も割り当てられないという、中国製EV排除の動きをとってきたという最新動向について、解説します。 まず、EV補助金については、安倍政権時代までは最大40万円程度の金額であったものの、カーボンニュートラルを宣言した菅政権下において、その1台あたりの補助金額が最大80万円に倍増されたことで、がぜん注目が集まっている状況です。 そして、そのような背景において今回判明したのが、充電インフラに対する整備費用を含めた、その令和5年度補正予算で策定された1291億円もの予算において、とくにEV購入補助金における、具体的な補助金額の算定基準、EVそれぞれの補助金額の内訳です。 まずは、その補助金額の算定基準のなかで、とくに注目するべきポイントをピックアップします。 初めに、今回のEV補助金の評価基準の概要については、EV自体の航続距離や電費性能、および外部給電機能を有しているかであったり、さらには型式登録されているかという観点だけではなく、追加で自動車メーカー側の取り組みとして、充電インフラを充実させているかであったり、修理メンテナンスのアフターサービス体制の充実度合い、バッテリーのリユースリサイクルに取り組んでいるかなど、さまざまな項目を総合的に勘案した上で、合計200点満点で採点。 その得点に応じて、例えば130点以上を獲得すれば、満額の85万円を獲得可能となります。 車両性能の向上という観点では、型式指定されているEVの場合は、航続距離に160を引いた後、0.4をかけながら、さらに電費をかけ算するという計算式を適用することで、その得点に応じて最大40ポイントが加算されます。 また、これも最大40ポイントが配点されている充電インフラ普及にどれだけ貢献しているのかという観点では、急速充電器のみが要件の対象となります。 充電インフラ普及に関しては、公共性が担保されてる場合のみがその要件の対象となると思われていたものの、それ以外にも、2023年のEV・PHEVの販売台数あたりどれほどの急速充電器を整備したかという評価軸も存在。この場合は、公共性が担保されていない急速充電器も評価の対象となることから、テスラやフォルクスワーゲングループについても、スーパーチャージャーやPCAが評価の対象となるわけです。 この点は、実際のユーザーの利便性を担保しているという点を正当に評価する上でも、公平な評価基準であるといえるでしょう。 そして、整備体制という観点についても、最大40ポイントと配点割合が高く、主に整備拠点数が評価対象となるものの、モバイルサービスであったり、無料レッカーサービスなども評価対象となります。よって、いわゆるディーラーネットワークを有していないテスラなどについても、一定程度評価される仕組みとはなっているわけです。 いずれにしても、この3つの評価軸だけで最大120ポイントが割り当てられており、それ以外の整備人材の育成、サイバーセキュリティへの対応、ライフサイクル全体での持続可能性の確保および外部給電機能の有無については、それぞれ20ポイントが割り当てられ、合計200ポイントとなる計算です。

TAG: #2024年度 #国産車 #補助金 #輸入車
TEXT:高橋 優
BYDのターゲットは内燃機関車! 最大125万円級の大幅値下げを全モデルで開始ってマジか

アップグレードして値下げするBYDの戦略 中国BYDが2024年モデルへの切り替えとともに、ほとんどすべての車種で最大125万円級の大幅値下げを行い、いよいよ、内燃機関車との値下げ戦争に終止符を打ってきました。とくに日本メーカーの収益源であったトヨタ・カムリやホンダ・アコードに大打撃を与えるであろう、新型Hanの存在、またトヨタRAV4やホンダCR-Vに大打撃を与えるであろうSong Plusなどのアップデート内容を中心として、中国EV値下げ戦争をリポートします。 今回取り上げていきたいのが、中国最大の自動車メーカーであり、世界最大のEVメーカーでもあるBYDの動向です。 すでにBYDについては、売れ筋モデルの大衆セダンQin Plusに対して、Honor Editionと名付けられた2024年モデルを投入し、内外装の装備内容をアップデートしながら、それでいてむしろ値段設定を一律で引き下げてくるといった大規模な値下げ戦略を断行していました。 とくに、PHEVバージョンであるQin Plus DM-iに関しては、EV航続距離55kmのエントリーグレードが7万9800元、日本円でおよそ166万円という、2023年モデルと比較しても一律で41万円以上もの値下げを行ってきていたわけです。 問題は、この大衆セダンセグメントにおいて強さを発揮していたのが、我々日本メーカーであるという事実です。 とくにこれまでは、日産シルフィ、トヨタ・カローラ、ホンダ・シビックなどという安価な内燃機関車が人気だったのですが、PHEVであれば、中国国内で車両を購入する際にかかってくる車両購入税が免除されるという税制優遇措置、およびガソリンよりも電気自動車のほうが安いという経済的なメリットによって、PHEVを選択肢に入れるユーザーが急増しているとのことです。 そして、今回のQin Plusの大幅値下げによって、いよいよ競合の内燃機関車と遜色のない値段設定になったというわけです。 このグラフは、大衆セダンセグメントの人気車種それぞれの値段設定、およびPHEVの場合はEV航続距離との相関関係を示したものになります。 このとおり、PHEVであるQin Plusについては、内燃機関車であるシルフィやカローラと同等の値段設定を実現していることから、同じ値段設定であれば、内燃機関車よりもPHEVを選ぶのは当然です。 そして、それ以上に注目するべきは、このシルフィやカローラなどの内燃機関車たちは、メーカー小売価格ではなく実際の販売ディーラーにおいて値引きが行われたあとの値段設定であるという点です。つまり、内燃機関車たちについては、これ以上値下げする余力が残されていないということを意味します。 2024年中旬からは、本格的にシルフィやカローラなどの日本メーカーの大衆セダン販売台数に大きな悪影響が出てくる可能性が濃厚なわけです。 そして、このBYDの2024年モデルであるHonor Editionが、それ以外のモデルに対しても続々とスタートしている状況です。 まず、2月末に発売がスタートしたのが、BYDのフラグシップセダンであるHan、およびフラグシップSUVであるTangです。とくにHanに関しては、2020年7月の登場以降、急速に販売台数を伸ばしており、月間3万台ペースという中国国内のトップセラーの一角に君臨しています。 他方で、2023年に突入すると、このHanに対抗するためにトヨタ・カムリやホンダ・アコード、フォルクスワーゲン・パサートなどの内燃機関車が、大幅値下げを展開していました。しかもBYDは、Hanとそこまで装備内容やEV性能に遜色がないプレミアムセダンのSealの発売により、HanとSealのカニバライズも発生してしまいました。 とくにHanのバッテリーEVモデルについては、PHEVとプラットフォームを共有しているために、2023年で重要な指標となっていた超急速充電に対応することができていないということ、またプレミアムセグメントにおけるさらなる重要指標である高速や市街地を含めた自動運転支援であるレベル2プラスに対応できていないということで、商品力のテコ入れが急務となっていたという背景が存在したわけです。 そして、今回のHonor Editionについては、BYDブランドのフラグシップモデルとして、内外装の質感とEV性能、ADAS性能のすべてにテコ入れしてきました。 まず、内外装の質感については、新色を追加設定しながら、スマホのワイヤレス充電を50Wへと急速充電化、シートヒーターやベンチレーションだけではなく、シートマッサージ機能も追加設定。EV性能についても620Vシステムにアップグレードすることによって、最大155kWの急速充電出力へと改善。 そして、目玉となるのがプレミアムセグメントにおける必須機能であるレベル2プラスのADAS機能です。 今回のHanのHonor Editionでは、BYDが出資しているHorizon Robotics製のJourney 5のADASプロセッサーを搭載。その演算能力は毎秒128兆回と、テスラのハードウェア3.0に匹敵する能力を有することで、高速道路上における、追い越しや分岐を含む自動運転に対応させる、いわゆるレベル2プラスにBYDブランドとしては初めて対応してきました。 すでに高級ブランドであるDenzaやYangwangについては対応済なものの、いよいよ大衆ブランドであるBYDでも、レベル2プラスの導入を始めてきた格好となります。

TAG: #中国 #値下げ #新車
TEXT:高橋 優
利益度外視で中国EV戦争に挑むZeekr! 「001」は大幅進化でコストアップもまさかの値下げで勝負

中国EVメーカーのZeekrが順調 今回取り上げてきたいのが、中国ジーリーのプレミアムEV専門ブランドであるZeekrの存在です。2021年10月から、初のEVであるステーションワゴンタイプの001の納車をスタートして、月間1万台のスマッシュヒットを記録しました。 2023年に突入してからは、ミニバンセグメントの009およびコンパクトSUVのX、そして2024年の元旦からは、ミッドサイズセダンの007の納車もスタートし、2023年末の月間販売台数は1.3万台強。直近の1月の販売台数は12月からほとんど低下せず、どの自動車メーカーも販売台数を大きく落としている月であるということを考慮に入れると、とくに最新モデルである007が順調に納車されている様子を確認可能なわけです。 とくに007については航続距離が最長870kmを実現しながら、Zeekr独自内製LFPバッテリーである「Golden Battery」を初搭載することで、最大4.5Cという驚異的な充電性能を実現しています。 その上、内外装の装備内容については、プレミアムセダンセグメントで考えられうるほぼすべての装備内容を標準装備。市街地における自動運転支援にも対応可能という最新のADASを搭載しています。 この007の存在が、とくにプレミアムセダンの王者であったテスラモデル3に対して、どこまで迫れるのかに大きな注目が集まっている状況です。 そして、このZeekrに関して注目したいのは、001のフルモデルチェンジバージョンの正式発売がスタートしたということです。 001については、すでに納車スタートから2年以上が経過していたということから、とくに競争が極限レベルに達している中国EV市場においては、EV性能や装備内容が陳腐化している状況であり、いち早くモデルチェンジを行う必要に迫られていたわけです。 まず初めに、EV性能が大幅に進化しました。これまで001は400Vシステムであったものの、800Vシステムに刷新され、搭載バッテリーも刷新されました。すでに009や007でも採用されているCATL製の100kWh「Qilin Battery」を採用しています。 さらにその上、CATLの最新型LFPバッテリーパックである「ShenXingバッテリー」を世界初採用してきました。95kWhという大容量バッテリーを搭載しながら、極めつけはその驚異的な充電性能です。最大5C充電に対応させることによって、充電残量10%から80%までにかかる時間が、驚愕の11.5分という地球上最速クラスの充電スピードを実現。5分間の充電で256km分の航続距離を回復可能です。 そしてZeekrは、最大800kW級のV3超急速充電器の設置をスタートしていることから、すでに設置している600kW級のV2超急速充電器をあわせると、中国全土で800V超急速充電の恩恵を受けることが可能です。 また、第二世代のヒートポンプ式空調システム、および熱マネージメントシステムを採用することによって、マイナス10度という極寒環境における急速充電時間を30分にまで短縮することにも成功。マイナス30度まで動作可能という性能を担保してきました。 動力性能についても大幅に向上させることに成功しています。元々001に採用されていたドライブユニットについては、日本電産製のイーアクスルであったものの、Zeekr独自内製のドライブユニットに置き換えることによって、最高出力が200kWから310kWへと大幅に向上しました。 よって、後輪駆動グレードであったとしても、0-100km/h加速が5.9秒、AWDグレードの場合3.3秒という驚異的な加速性能を実現しています。 さらに、001の強みというのが、連続可変ダンピングコントロール付きのエアサスペンションを搭載しているという点です。 これらにより、中国市場では3倍以上も高価な、メルセデスマイバッハやポルシェタイカンに匹敵するような乗り心地や操縦性を確保していると主張しています。 そして、001の弱点ともされていたADASについても、LiDARが全グレード標準搭載されることになり、市街地における自動運転支援にも対応可能になりました。第二四半期からリリースがスタートするというタイムラインであり、現在Xpengやファーウェイが大きくリードする市街地ADASの分野で、どこまで支持を広げることができるのか、Zeekr単独ではなく、ジーリーグループ全体においてどのようなロードマップを描いてくるのかにも注目です(ちなみにZeekrのADAS「ZAD」は期間限定で完全無料提供とアナウンス)。 また、装備内容の充実という点も極めて注目に値します。まず、最大2トンの牽引能力を確保しながら、ガラスルーフに調光機能を装備。極めつけが、なんと28ものYAMAHA製スピーカーを搭載することによって、 そのシステム出力は3000Wに到達。この出力は、メルセデスマイバッハやアウディA8、ロールスロイス・カリナンなどの超高級車すらも凌ぐ、地球上最強の音響システムであると説明されています。 さらに、インフォテインメントまわりを駆動するプロセッサーについても、007に続いて、最新のQualcomm Snapdragon 8295を採用するなど、とにかく装備内容という観点ではほとんど死角がない状況です。

TAG: #中国 #新車
TEXT:高橋 優
国を挙げて急速にEVシフトを推し進めるタイ! 中国製BEVだけ関税ゼロでBYDの勢いが止まらない

EVシフトが急進するタイ市場 新興国である東南アジアのタイ市場において、直近の2024年1月度の電気自動車の登録台数が歴史上最高を更新しました。2024年シーズンはさらにEVシフトが進むという予測とともに、そのEVシフトが加速するタイ市場の展望を解説します。 まず、タイ市場に関してもっとも重要なのが、現在急速にEVシフトが加速しているという観点です。 タイ政府については、2030年までに国内の車両生産台数のうち30%をバッテリーEVを中心とするゼロエミッション車にするという「30 30」という政策を掲げながら、EVの販売台数も増やすために、EV購入に対するさまざまな支援策を導入しています。 まず、バッテリーEV一台あたり、7万から15万バーツ、日本円にして最大で60万円級というEV購入補助金を提供。他方で、2023年シーズンに補助金を受けて輸入販売したEVの台数分だけ、2024年中にEVをタイ国内で生産しなければならず、仮にその工場の操業スタートが2025年に遅れてしまった場合は、2023年にEV購入補助金を適用した台数の1.5倍を支払わなければなりません。 よって、現在中国からEVを輸入販売している中国メーカーは、一斉にタイ国内にEV生産工場を建設している真っ最中です。その2024年中に国内でEVを生産して、補助金の要件を満たそうとしているわけです。 さらに、中国製EVについては、中国とASEANの自由貿易協定によって、輸入EVに対する関税が完全ゼロとなっています。ところが、たとえば欧米からEVを輸出しようとすると、その関税率は80%と、とてつもない高額車となってしまい、韓国については40%、日タイ経済連携協定を結んでいる日本については、その関税率は20%で済んでいるものの、それでも、中国製EVの関税ゼロと比較すると、現状では不利な条件であることには変わらないわけです。 そして、2024年から施行されるEV普及政策として、新たに「EV3.5」と名付けられた制度が施行されました。具体的には、EV購入に対する補助金額については、2023年よりも減少して2万バーツから10万バーツ、最大でも40万円級となり、さらにその補助金を適用するための条件である国内のEV生産台数についても、さらに条件が厳格化。具体的には、2026年中に生産をスタートする場合は、2024年シーズンから輸入したEV販売台数の2倍以上を生産しなければならず、2027年シーズンに操業をスタートする場合は、それまでに輸入して補助金を適用した台数の3倍以上のEVを生産しなければならなくなりました。 また、タイ国内で物品を購入する際にかかってくる物品税については、通常乗用車にかかってくる8%という税率が、EVであれば2%と、EV購入補助金や関税率とともに、さらなる優遇措置も実施されています。 いずれにしても、これらの政策によってEV普及を推し進めながら、自動車産業をEVシフトさせていくために、国内へのEV生産拠点の誘致も同時に進めようとしていることが見て取れます。 そして、今回新たに明らかになってきたことが、そのタイ国内における2024年1月のEV普及動向です。 まず初めに、1月のバッテリーEVの登録台数は1万3660台と、歴史上最高の登録台数をぶっちぎりで更新しました。前年同月と比較しても4倍以上という、驚異的な成長を実現しています。2023年から急成長を継続中であったタイのEVシフトが、2024年シーズンも継続することを予感させる普及状況です。 他方で、2022年以降のバッテリーEVの登録台数とともに、新車登録全体に占めるバッテリーEVの登録台数の比率を示した黄色のラインを追ってみると、1月のシェア率は17.2%と、歴史上最高を記録していた2023年12月の20%よりも、わずかに低下した月であることも見て取れます。 したがって、登録台数ベースではオールタイムベストを更新したものの、あくまでもガソリン車を含めた登録台数全体が大きく伸びた1ヶ月であったわけです。 ただし、2023年1月のバッテリーEVのシェア率が3.6%程度であったということを踏まえれば、たったの1年間で、5倍程度のシェア率急増を実現したことになるわけで、やはりタイ市場のEVシフトのスピード感が凄まじいことが見て取れるでしょう。 また、このタイ市場のEVシェア率が、日本市場と比較してどれほどの水準に達しているのかを比較してみると、最直近の1月単体で行くと、タイが17%オーバーを実現しているのに対して、日本はたったの1.6%程度と、すでに10倍以上の差が開いていることが見て取れます。 そもそも、タイが日本のシェア率を抜いたのは2022年末と、1年ほど前であったことを踏まえると、たったの1年間でタイは日本のEVシェア率に追いつき追い越し、10倍の差をつけたことになります。タイのEVシフトのスピード感を実感するのと同時に、日本市場のEVシフトの停滞模様も実感できるでしょう。 それでは具体的に、タイで人気の電気自動車について詳細に確認していきたいと思います。 まず初めに、2024年1月にタイ国内で人気だったバッテリーEVトップ20を確認しましょう。トップに君臨したのが、中国BYDのDolphinです。月間3000台オーバーという、Dolphin史上最高の登録台数を更新しました。 また、第2位につけてきたのが、同じくBYDのプレミアムセダン、Sealです。その登録台数も3000台と、3位以下を寄せ付けない、とてつもない登録台数を実現しています。 Sealに関しては、Dolphinと比較しても倍程度の値段設定であることから、それでいて月間3000台というのは、まさにスマッシュヒットといえるレベルだと思います。 とくにシールの売れ行きの好調さを示すのが、ガチンコの競合となるテスラ・モデル3の登録動向です。1月については、たったの15台と、確かにロジスティックの関係上、登録台数は低下する傾向にあるのは間違いないものの、じつは2023年シーズン全体で、モデル3の年間登録台数というのが2300台程度であったことを踏まえると、テスラが1年かけて売り捌いた台数を、たったの1カ月でBYDが売り捌いてしまったとイメージしてみれば、タイではプレミアムEVセダンで圧倒的にBYD Sealが選ばれていることが見て取れます。 この理由については、販売ネットワークの拡充度合いなども要因として考えられるものの、EV性能とコストのバランスが優れているという点が挙げられるのではないでしょうか? このグラフは、タイ国内で販売されている主要なバッテリーEVの航続距離と値段設定の相関関係を示したものです。 モデル3と比較しても、Sealはより航続距離が長いにもかかわらず、それでいてさらに値段も安いという、圧倒的なコストパフォーマンスを実現していることが見て取れます。 さらにその上、2024年シーズンに関しては、ちょうど納車がスタートしている、同じくプレミアムセダンセグメントとして、Shenlan(グローバル名:Deepal)と呼ばれる中国EVブランドの、L07という競合も登場しています。 L07については、モデル3と同等の航続距離を実現しながら、圧倒的に安価な値段設定を実現。Sealのエントリーグレードと同等の値段設定すら実現しているレベルです。いずれにしても、2024年シーズンもモデル3が苦戦する1年となることは間違いありません。 また、Shenlanについては、ミッドサイズSUVセグメントのS07の納車もスタートしており、早速11位にランクインしています。まさにテスラモデルYとガチンコの競合関係となることから、モデルYのシェアを奪うことが予想されます。 当然、BYDに関しても、すでに中国本土では発表済みであるSong LやSea Lion 07という、モデルYの対抗車種をタイ国内でもラインアップするでしょう。2024年シーズンというのは、モデルYがどこまで販売規模を維持することができるのかに注目が集まる一年になるのかもしれません。 そして、このランキングトップ20のうち、黄色で示された16車種というのが中国メーカーのEVたちです。まさに、タイ国内でEVといえば中国製のEVであり、中国製EVが市場を支配している様子を確認可能です。

TAG: #タイランド #新車 #販売台数
TEXT:高橋 優
2024年は国産EVの新車デビューがほぼなし!? 注目はボルボやBYDの輸入車種の登場

グローバルにおいて日産アリアの販売台数が伸びていない 日本国内の2024年1月における電気自動車の普及動向、および人気のEVが公開されました。2024年シーズンの日本国内の最新EV動向について解説するとともに、日本製EVのそれぞれのライバルの動向も確認していきたいと思います。 まず初めにこのグラフは、自動車メーカー別のバッテリーEVの販売台数を示したものになります。トップは圧倒的に日産であり、2010年末の日産リーフの発売以降、2024年シーズンに突入したとしても、この日産の独走というトレンドが変わることはないと思います。 ただし、そのなかでも、リーフとアリアの販売台数の合計がたったの553台と、記録的な販売台数の落ち込みが見て取れます。 とくに日産のEVシフトという観点でもっとも懸念するべきはアリアの販売動向です。緑で示されている、アリアの日本国内の販売動向については減少が止まらない状況です。この販売減少の理由に関しては、アリアの販売が停止しており、ようやく受注分の販売を捌くことができていることが要因であると推測可能ではあります。したがって、すでに発表されているとおり、アリアNISMOとともに販売が再開されると、日本国内のアリアの販売台数が、再度月間1000台近い水準に戻る可能性はあります。 ところが、このグラフにおいて注目するべきは、グローバル全体におけるアリアの販売台数が、2023年に突入して以降、ほとんど伸びていないという点です。 つまり、日本国内の販売が再開したとしても、欧米という主要マーケットのアリアの販売台数が伸びていないことによって、アリアの生産能力が過剰となる恐れがあるわけです。 アリアの競合車種でありひと足早くグローバルで発売されていた韓国ヒョンデのIONIQ5と比較しても、販売台数では雲泥の差です。IONIQ5のほうがグローバルにおける納車スタートが1年以上早いということを踏まえれば、アリアの需要がまったく伸びていないことが見て取れると思います。 いずれにしても、2024年シーズンについては、一時的に日本国内のアリアの販売台数が伸びる見込みであるものの、グローバルでは大苦戦する1年であることは間違いありません。 すでに入手している情報では、アリアが大幅値上げして販売が再開される見通しであるものの、もしかしたら、欧米中という主要マーケットについては、需要喚起のためにむしろ値下げ対応に迫られる可能性すらあります。円安という観点だけではなく、日本人にとってアリアをはじめとする電気自動車が、さらに遠い存在になる1年となる可能性もあるのではないか? この点を危惧せざるを得ません。 また、2024年の販売動向で注目していきたいのがテスラの存在です。1月単体では305台と前年同月と比較しても圧倒的な成長を実現しているものの、それと同時に、テスラジャパンについては現在、主力モデルであるモデルYで一律30万円以上の値下げを実施中です。補助金を適用すると、実質464万9000円からという、非常に魅力的な値付けを行っています。 ただし、このテスラジャパンに対する逆風というのが、65万円という補助金の金額変更という観点です。2024年度の補助金制度については、いまだに詳細は不明であるものの、整備拠点の充実度合いであったり、さらには充電インフラ拡充への貢献度合いなどが考慮される方針です。 すると、直販体制を採用することで販売ディーラーを持たないテスラとしては、補助金額という観点で、マイナス評価となる可能性が濃厚です。 しかもその上、確かにスーパーチャージャーネットワークを独自に整備してはいるものの、その充電器普及の貢献という観点も、一般向けに開放されていることが条件となれば、テスラ車への補助金減額に拍車がかかる可能性も出てきます。 いずれにしても、2024年度に申請可能なEV補助金については、少なくともこれまでの65万円から減額される可能性が濃厚であり、この点は、テスラジャパンの販売にとって大きな悪影響となる可能性があるでしょう。 ちなみに、そのテスラスーパーチャージャーの普及動向について、2024年2月中旬の最新時点で、日本国内に累計106カ所、526ものスーパーチャージャーが設置されています。ただし、1月中に神戸スーパーチャージャーが閉鎖されたことによって、現在日本全国に104カ所のスーパーチャージャーステーションが稼働中です。 いずれにしても、テスラ独自の急速充電ネットワークがさらに普及する一年となることは間違いないとは思います。

TAG: #新車 #販売台数
TEXT:高橋 優
日産アリアが販売再開も100万円以上の大幅値上げ! 期待のNISMOは1000万円弱!!

発表から3年半経っても発売されなかったB9とe-4ORCE これまで長らく販売を停止していた日産アリアが、ついに正式に販売再開される方針が明らかになった一方で、なんと120万円という大幅値上げを行なって販売が再開されるという、驚きの動向も判明しました。 今回取り上げていきたいのが日産アリアです。このアリアについては、2020年の7月15日に初公開を迎えながら、2021年中旬に正式発売をスタートするとアナウンスされていたものの、2021年中旬に、初回生産限定グレードとしてLimitedの発表を行い、その発売が、2021年の冬にずれ込んでいました。 ところが、その2021年の冬の発売も後ろにずれ込んでしまい、結局Limitedの納車がスタートしたのが2022年の3月中旬のことでした。しかも、当初はエントリーグレードのB6しか納車されず、B9やe-4ORCEについては、さらに2022年の冬へと発売が追いやられてしまっていたわけで、結局、そのB9やe-4ORCEのLimitedの納車がスタートしたのが、2022年末のことでした。 さらにその上、一部のアリアユーザーに不満をもたらしていたのが、Limitedの納車が優先されるといいながら、じつはB6グレードのみ、通常グレードの発売を一時的に行なっていたという点です。その納車も、Limitedのすぐあとである2022年5月ごろから行われていたことで、Limited注文者からすれば、なぜLimitedよりも先に通常グレードの納車がスタートしているのかと、不満の声が多く聞かれていたわけです。 いずれにしても、通常グレードは数ヶ月間、B6のみが発売されていただけであり、B9やe-4ORCEグレードに至っては、3年半以上が経過してもなお、一度も発売すらされていないという状況だったわけです。 また、アリアのパフォーマンスグレードとしてNISMOを追加設定し、アリアの発売を再開する方針を表明してきたわけです。

TAG: #値上げ #国産車 #販売再開
TEXT:高橋 優
サクラ&eKクロスEV以外は苦戦! 日本のEV販売を分析すると国産普通車EVの停滞が気になる

「これからはEVの時代だ!」とはまったくいえない落ち込みっぷり 日本国内の2024年1月における電気自動車の普及動向、および人気のEVが公開されました。2024年シーズンにおいて注目するべき新型EVについても含めて、2024年シーズンの日本国内の最新EV動向について解説します。 まず初めに、今回取り上げていきたい日本国内のEV普及動向について、直近の2024年1月度における、バッテリーEV、およびプラグインハイブリッド車の販売台数の合計が8000台強と、前年同月と比較してもなんと30%以上という販売台数の落ち込みを記録しました。 とくに、この販売台数の低さというのは2022年10月以来の低水準であり、2023年シーズンは8月を除き、月間1万台をコンスタントに販売していたことを踏まえると、日本国内におけるEV販売が明らかに減速している様子が見て取れます。 実際に、2016年以降のバッテリーEVとPHEVの月間販売台数の変遷を見ても、すでにEV販売台数は頭打ちを迎えながら、さらに販売減速の兆候さえ見て取れます。 とくに注目するべきは、黄色のラインで示されている、新車販売に占めるバッテリーEVとPHEVの合計台数のシェア率を示した電動化率の変遷です。 直近の1月度については2.81%と、2023年以降、コンスタントに下落している様子を確認可能です。 これまでの最高の電動化率は、2022年12月に記録していた4.12%という電動化率であり、それと比較すると、日本国内の電動化が停滞していることが見て取れます。 次に、そのEVのなかでもバッテリーEVに絞った販売動向を詳細に確認していきたいと思います。 まず初めに、このグラフは、軽自動車セグメントのバッテリーEVと、それ以外のバッテリーEVの販売動向をそれぞれ示したものです。 このとおり、水色で示された軽自動車セグメントについては、この1年ほど安定した販売台数をキープしているものの、1月の販売台数で落ち込みを見せているのは、普通車セグメントのバッテリーEVの存在なわけです。 つまり、電気自動車のなかでも、軽自動車以外の普通車のバッテリーEVの売れ行きが芳しくないということを示しているわけです。

TAG: #シェア #販売台数 #電気自動車
TEXT:高橋 優
テスラ追撃へポルシェが本気! EVのみのモデルに生まれ変わる「マカン エレクトリック」がバカ売れ必至

最新マカンはEVのみをラインアップ ポルシェがタイカンに続く新型EVとして、マカンのEVバージョンをワールドプレミアしました。800Vシステムを採用しながら、後輪操舵機能も搭載することで取りまわしをよくするなど、ポルシェのエントリーモデルとしてオールラウンダーなEVに仕上がっているようです。 まず、ポルシェに関しては2030年までに発売する車両の8割をバッテリーEVに置き換えるという電動化方針を表明しています。これは、911以外は完全にバッテリーEVに置き換えるという意味であると思います。 2019年に初のバッテリーEV、スポーツセダンのタイカンを発売し、そのタイカンについては、パナメーラを上まわり、911に匹敵するような販売台数を実現しています。さらに今後は、ケイマンのバッテリーEVバージョンを2025年中に投入しながら、カイエンのバッテリーEVバージョンも2026年ごろの登場を予定しています。 そして、タイカンの次のバッテリーEVとして長らく注目されていたのが、マカンのEVバージョンの存在です。このミッドサイズSUVであるマカンについては、ポルシェのラインアップのなかでもっとも安価なエントリーグレードということもあり、ポルシェでもっとも売れ筋なモデルでもあります。 なんといっても今回発表されたマカン エレクトリックについては、内燃機関車をラインアップせずに、純粋なバッテリーEVモデルとなりました。新型マカンを購入したいのであれば、バッテリーEVしか選択肢がなくなることを意味するわけで、その意味において、ポルシェのEVに対する本気度が伝わってくるわけです。 それでは、今回ワールドプレミアが開催されたポルシェの新型EVであるマカンエレクトリックについて、とくに気になるEV性能についてを確認していきたいと思います。 まず初めにグレード設定については2種類、マカン4とマカンターボをラインアップしています。どちらも同じく、前後にふたつの永久磁石同期モーターを搭載したAWDシステムを採用、搭載バッテリーについても、グロスで100kWh、ネットで96kWhのバッテリーを搭載しています。 満充電あたりの航続距離については、欧州WLTCモードにおいて最大613kmという航続距離を実現しています。他方で、今回のマカンに限らずEV全般で気をつけるべきは、その装着タイヤによってEVの航続距離はかなり変わってくるという点です。 マカンエレクトリックは、20インチから22インチを装着可能であるものの、22インチの場合、リヤ側は295/35R22と極太タイヤになることによって電費性能は悪化します。なんと22インチ装着の場合の航続距離は516kmと、20インチと比較しても100kmほど変わってくることから、航続距離や電費性能を気にする方は、装着タイヤのサイズをどれにするのかに関してを、デザイン性以外でも気にしたほうがいいと思います。 また、高速道路を時速100kmでクーラーをつけても達成可能であるというような、実用使いにおいてもっとも信用に値するEPAサイクルベースの航続距離はまだ公開されていないものの、おそらく最長で500km弱を実現見込みであることから、とくに日本でマカンエレクトリックを購入検討されている方は、この最大500km弱程度という数値を、高速走行の際のマックスの航続距離とイメージしておくのがベターかと思います。 次に、充電性能に関して、マカンエレクトリックはタイカンと同様に最大270kWの充電出力に対応、充電残量80%まで21分間で充電を完了できるとしています。 このマカンの充電性能について特筆すべきは、バッテリーのプレコンディショニング機能を搭載していることで、ベストコンディションと説明している、バッテリー温度20〜25度に自動的に温度を調整することが可能となり、急速充電時間の最速化を実現します。 また、今回のマカンに搭載される800Vシステムのバッテリーパックについては、バンク充電システムを採用している点も注目です。仮に400V対応の急速充電器で充電を行った場合、バッテリーパックの片側半分が充電されることで、最大135kWという充電出力を許容可能となります。 これまでのタイカンであれば、800V対応の急速充電器で充電する場合は、別途DC-DCコンバーターを搭載することで、800Vへと昇圧を行なっていましたが、バンク充電システムを採用し、片側のバッテリーを使い分けることで、より効率的な800Vシステムへの対応が可能となったわけです。 そしてなんといっても、このポルシェについてもっとも特筆するべきは、日本国内にも独自の急速充電ネットワークが存在するという点です。 ポルシェ正規ディーラーとともに、アウディとフォルクスワーゲンの販売店に設置しているPCA(Premium Charging Alliance)の最大150kW級急速充電器を、全国24時間365日利用することが可能であり、実際に私自身もアウディRS e-tron GTで、PCAの充電ネットワークを使用しながら長距離走行テストを行いましたが、やはり24時間365日使用可能という点は非常に安心感がありました。 いずれにしても、この日本国内でマカンエレクトリックを購入するという際は、非常に大きな強みになるといえるでしょう。

TAG: #MACAN #PORSCHE #SUV #モデルチェンジ
TEXT:高橋 優
中国市場でファーウェイのEVが爆発的人気! ライバルを凌ぐ激安っぷりと超豪華内装のAITO M9とは

スマホでお馴染みファーウェイが作った新型EV 中国市場において、ファーウェイの新型EVとなるフラグシップSUVのAITO M9の正式発売がスタートしました。現状考えられる最高レベルのスペックやありとあらゆる装備内容をフル搭載しており、2024年のベンチマーク的なEVとなっています。実際、発売2時間で1万台以上の確定注文が入り、現在もファーウェイストアは人でごった返しているとのこと。この2024年のEV動向を語る上で避けては通れない新型EVについてを解説します。 今回取り上げていきたいのが、中国市場における「AITO」ブランドの存在です。このAITOというのは、中国の巨大テック企業であるファーウェイと、中国の中堅自動車メーカーであるSeresがタッグを組んで立ち上げたEV専門ブランドです。実際の車両開発や販売についてはファーウェイが主体で行い、あくまでもSeresについては、その車両生産を中心に担うという分業体制をとっています。 ところが、2021年末から発売をスタートしているAITOの販売ペースを確認してみると、発売開始後1年となる2022年末以降、むしろ販売台数は減少していたという背景が存在します。 やはりいくらファーウェイといえども、EVの知名度という観点では劣るわけであり、その時点ではまだ大規模にファーウェイストアにおいて車両を展示することもできておらず、販売プロモーションも追いついていませんでした。 その一方で、ファーウェイについては、最新スマートフォンであるMate 60を発売し、現在iPhone15を大きく上まわる爆発的なヒットを記録中です。そして、それに合わせて、AITOのEVたちの展示も精力的に展開することによって、知名度が急速に高まり、実際に販売台数につながり始めたわけです。 直近の12月については、月間3万台の販売台数を実現し、すでにXpengやNIOなどという主要な中国EVメーカーを超えるような販売規模にまで急成長しています。 このような背景において今回、新たにAITOが3車種目の新型EVとして、3列目シートを搭載した大型SUVとなるM9の正式な発売をスタートしてきたのです。このM9については、これまでラインアップしていたM5と同様に、バッテリーEVとともにレンジエクステンダーEVもラインアップすることで、長距離走行に不安を抱えるユーザーのニーズにも対応しています。 レンジエクステンダー版については、42kWh、もしくは52kWhという大容量バッテリーを搭載することで、EV航続距離は最大275kmに到達しています。さらに、発電専用エンジンを併用することで、その航続距離は最大で1400kmオーバーを実現しています。バッテリーEV版については、100kWhを搭載することで630kmという航続距離となっています。 また、燃費性能についても、レンジエクステンダー版は100km走行あたり6.9リットルと、たとえばM9の競合として設定されている、BMW X7などのドイツメーカーのフラグシップSUVと比較しても、かなりの優位性を発揮しています。 さらに、バッテリーEVについては、800Vシステムを採用することによって充電時間を短縮し、最高出力は390kW、最大トルクも673Nmを発揮することで、0-100km/h加速も4.3秒、制動距離についても34.9mと、運動性能にも優れていると言われるドイツメーカーを凌駕しています。 そしてM9に関しては、これらのEV性能や動力性能だけではなく、それ以外の装備内容にこそ魅力が存在します。 まず注目するべきは、エアサスペンションの搭載によって、乗り心地や静粛性までも向上させていることです。後席から乗り降りする際は40mm車高を自動で調整し、最大渡河性能も540mmと、都市型SUVとは思えないほどのオールラウンダーな実力を発揮しています。 静粛性についても、時速120kmの巡航時における静粛性は、メルセデス・ベンツGLSやBMW X7を凌いでいるといいます。 音響システムについても、ファーウェイ独自開発の最大2080Wの25スピーカーシステムで、7.1.4システムにも対応。ヘッドライトも、X Pixelと名付けられたマトリックスヘッドライトを採用することで、対向車線の複数車両を、それぞれうまく避けて照射することが可能であり、しかもこのヘッドライトから、最大100インチもの映像を投影することさえ可能です。まさに、EVならではの大電力を使用しながら、屋外で映画を楽しんでキャンプするなんて使い方だってできてしまいます。

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連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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