シーガルを導入しても販売拡大には繋がらない
さらに追い打ちをかけたのがサクラの再販価値の伸び悩みである。ICE軽自動車は5ナンバーコンパクトハッチバック車と比べるとはるかに再販価値が高い。N-BOXなどの人気軽自動車では残価設定ローンを組んで購入すると、残価率が高いので月々の支払い負担は予想以上に軽いものとなる。
しかし、サクラだけというか、現状BEV全体のネックにもなっているが再販価値の伸び悩みがサクラでも目立っており、このまま補助金交付による4年しばり終了を待って乗り換えを勧めるよりはということで、2024年秋あたりからは補助金(残り期間分)を返還してもらい、ノートやノートオーラを中心にICE搭載車種への乗り換えを勧める動きが、販売現場で目立ってきていると筆者は聞いている(時期として発売当初にサクラが納車されたユーザーならば乗り換えを予算面で勧めやすくなったとみている)。
ヒョンデとしてはそのようなこともあり、5ナンバーサイズ登録乗用車タイプBEVに日本市場を託したように見える。コナはSUVスタイルとなるし、全長も4mを超えているのでキャラが被ることもなく、インスターで新規ヒョンデユーザー獲得も可能となるだろう。
話をBYDに戻せば、すでにドルフィンがあるなか同じ3ナンバーサイズのシーガルを新たに導入してもブランド全体の販売拡大にはまず貢献しないだろう。日本におけるBEVの販売状況(台数)を見れば、いたずらにラインアップを拡大するような規模にはまだ育っていない。
BYDがラインアップを予定しているのは軽自動車規格BEVとなるが、サクラほど生活圏内移動車(シティコミューター)色の強いものにもならないだろう。ただし、登録乗用車と同じような販売手法はいたずらに体力を消耗するだけとなってしまう。
スズキやダイハツは正規ディーラーではなく協力業者による業販比率が高い。さらに、ダイハツではトヨタ系正規ディーラーがダイハツ系正規ディーラーと委託販売契約を結び、トヨタ系ディーラーから直接発注することはできないが、ダイハツブランドの軽自動車をトヨタディーラーを通して手に入れることは可能で、このトヨタ系ディーラーでの委託販売が想像以上に販売台数上積みに貢献し、スズキとブランド別販売台数で日々激しい競争を優位にしているとも聞いている。
日本国内ではオンライン販売に特化しているヒョンデでは、軽自動車はたとえBEVでも継続販売していくのは難しいだろう。一方のBYDは、日本国内でも販売ディーラーの積極展開を進めているので、現状の軽自動車販売の実状を把握し、BYDらしい販売手法を確立して攻めることができるので筆者としてもその戦略に期待している。
中国でも微型車という日本の軽自動車のようなカテゴリーがあるが、この微型車派生の5ナンバーサイズBEVではなく、しかも3ナンバーサイズとなってしまうシーガルが日本国内に導入されることは、今後もまずないと考えていいだろう。かつてはリッターカーなどと呼ばれた、日本におけるコンパクトクラスではまだまだ5ナンバーか否かが重要になっているのである。
本稿執筆のためいろいろ調べてみると、タイで航続距離などスペックを少々抑えるかわりに割安感があることで大ヒットした、中国哪吨汽車のローコストBEVとなる哪吨AYA(タイでの車名はNETA V)の寸法をみると、全長4070×全幅1690×全高1540mm、つまり日本の5ナンバーサイズに収まっているのである。NETA Vはすでにタイで現地生産されており、タイから日本への輸出も可能。日本市場で販売可能な基準を満たしているかは定かではないが、タイやインドネシアですでに販売されていることを考えれば……。商社が輸入し、家電量販店でオール電化住宅、家電製品、そしてBEVをワンストップでそろえることができる環境を整えれば(メンテナンスなカー用品量販店に依頼)……、とついつい妄想が広がってしまう。
BYDは軽自動車規格BEVを選択したようだが、日本市場における5ナンバーサイズBEVは、インスターの成否次第では外資ブランドでこちらも盛り上がってしまうというのもまったく非現実的な話ではないとも考えている。