BYDが騰勢(Denza)を完全子会社化
ドイツのメルセデス・ベンツは中国BYDとの合弁事業を見直す。両社は、BYDの高級ブランド「騰勢(Denza)」を手がける、深圳騰勢新能源汽車を共同で運営してきたが、ここからメルセデス・ベンツが完全に手を引く。
時計の針を戻せば、いまから13年前の2011年、メルセデス・ベンツ(当時のダイムラー)が中国の新興勢力であるBYDとEVなどを共同開発するというニュースに、世界の自動車業界関係者は大いに驚いた。当時、BYDはまだ「知る人ぞ知る」といった存在であり、いまのようにグローバルでのEVリーダー的な役目を担うと想像した人はいなかったはずだ。
筆者は、2000年代に入ってから、いわゆるBRICsと呼ばれる新興国での取材活動が増え、そのなかで中国市場についても各方面での現地取材を行うようになっていた。
深圳に本拠を持つBYDについて記事として取り上げることも多かったのだが、まさかメルセデス・ベンツ(当時のダイムラー)がBYDとの事業提携を行うとは予想していなかった。メルセデス・ベンツ(当時のダイムラー)としては、アメリカでテスラと「スマート」を活用したEV共同開発を行う事例もあった。
つまり、メルセデス・ベンツにとっては、市場拡大が未知数のEVに関して、当時の世界最大自動車市場であったアメリカと、近年中にアメリカに代わって世界最大自動車市場の座につくことが予想された中国において、それぞれの国で将来有望なベンチャーEV企業の「お手並み拝見」といったスタンスだったのかもしれない。
それが2010年代から2020年代にかけて、中国はEV黎明期から一気に世界最大のEV市場へと躍進し、いまやBYDが日本を含むグローバル市場でも注目される存在となっている。
技術面から見れば、メルセデス・ベンツとしては、BYDとのファーストステージを解消する時期だと判断したものであろうし、BYDにとってはメルセデス・ベンツとの協業で十分な知見を得たということであろう。
法律上の観点から見れば、中国政府は2022年に乗用車向けの国内・販売についての外資規制を撤廃したことが、今回の2社の提携解消の背景にあると思われる。
外資が中国市場に参入する際、出資比率は最大で50%とされていた。EVに限れば、この規制は2018年に撤廃されている。メルセデス・ベンツは直近で、出資比率を10%まで下げていたが、これをBYDが買い取る形で、深圳騰勢新能源汽車は100%BYD傘下となったのだ。
メルセデス・ベンツとBYDによる合弁事業の解消は、中国自動車市場が大きな転換期に入ったことを象徴する出来事に思える。