充電の仕方を考えれば遠出も十分可能
サクラやeKクロスEVを所有し、あるいは利用している人たちは、単に日々の短距離で使うだけでなく、遠出もしているだろう。
たとえばサクラに乗っている私も、都内(といっても23区の場所によるが)に住み、約8km先の瀬田の入り口から御殿場まで東名高速道路での往復を、航続距離が180km程度あるサクラなら、経路充電なしで済ませられる計算だ。
事実、御殿場インターまでバッテリー電力の50%以下で到着でき、東京への戻りは、御殿場から大井松田まで下り坂が多く、電力消費が往路より少なくなるから足りることになる。そのうえで、取材先に普通充電の設備がもしあれば、仕事をしている間の数時間、200Vで充電すれば、まったく支障なく軽EVを利用できる。これが軽EVの実態だ。
このことは、海外においても同様ではないか。
ことに自動車先進国のひとつである欧州は、小型ディーゼル車が庶民の足として定着してきた。しかし、それに代わる適正な小型EVが十分に選択肢となっていない。大容量バッテリーを搭載した高価で大柄なEVばかりが数を増やしている。ディーゼル車から乗り換えができない庶民は困っているはずだ。
理由は、EVへの移行が遅れたからだ。日産と三菱は15年近く前からEVを販売し、リーフやi-MiEVは小型車や軽自動車だった。性能と価格の調和をとったEVを販売する難しさと知見は豊富だ。そこから生まれたのが、サクラとeKクロスEVである。経営面でも、軽自動車を主体に運営するNMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)という会社が生まれ、効率よく軽EVを生産できている。
中国は、EVの要となるリチウムイオンバッテリー製造で世界の先頭をいく。リン酸鉄を電極に使うバッテリーを有効活用し、低価格のEVを生産できるようにした。中国は、1990年代からバッテリーやEVに目を向けてきた。
欧米が、中国製EVに追加関税をかけ、課税で競争力を削ごうとする姿勢はすなわち、経験や技術、生産性において、すでに中国に負けた証ではないか。
広報車を借りていきなり遠出をして電欠をしたといった無謀な取材でEVを語るような媒体がいまなお消えず、消費者にEVの真価を適正に伝えない責任も大きい。
サクラとeKクロスEVを、欧州やアジア地域に販売できれば、喜ぶ庶民は多いはずだ。
EVは、使用実態と性能の適切な判断が不可欠である。エンジン車と違う移動手段であることをしっかり理解する必要がある。
そのうえで、軽EVに限らず、適切な小型EVに自動運転が加われば、老若男女、健常者も障害者も、免許証を所持していても所持していなくても、万人のための個人の移動の自由が成り立つ。それこそが、電車やバス、航空機や船舶などの公共交通機関と異なる、クルマの存在意義であり、真価ではないだろうか。