F1をも凌ぐ加速力「GEN3 Evo」マシンを全車使用
3月に日本初の公道を使用した四輪レースが開催されたことで、国内でも注目度が上昇した電気自動車(EV)によるレース「ABB FIA フォーミュラE 世界選手権」の新シーズン、シーズン11がいよいよ開幕する。
2024年12月17日にブラジルのサンパウロで行われる第1戦を皮切りに、年をまたいで2025年7月27日にイギリス・ロンドンで行われる最終戦まで、世界10か国を巡り全16戦が行われる。
このシーズン11から、マシンは新世代の「GEN3 Evo」に進化する。主な変更点は、四輪駆動になったこととレース中の急速充電に対応すること、さらにレース中の回生エネルギー量がそれまでより10%増え、50%まで回生できるようになったことだ。
最大出力は350kWと従来マシンのGEN3から変更はない。しかし、フロントパワートレインキットが解禁されたことで、グループ予選を勝ち抜いたあとに行われる1対1のトーナメント形式によるデュアル予選、ならびに決勝レースのスタート時とレース中に一時的なパワーアップが可能なアタックモードの使用時に限り、フロントにも駆動を与えて四輪駆動としてそのパワーを路面に伝えることが可能になった。つまり、決勝レース中はシチュエーションに応じて駆動方式が後輪駆動と四輪駆動に切り替わる。これにより、0-100km/h加速はわずか1.86秒しかかからず、F1より30%も速い加速力が備わった。
レース中の急速充電はシーズン10でも実施が検討されたが、技術的なハードルにより実現せず、シーズン11からの採用に先送りされていたもの。オフシーズンのテストでは、ピットレーンでロールフープ後方の充電口にケーブルを接続しているシーンが見られたものの、開幕戦では使用しないことが確定している。
しかし時期は未定ながら、今シーズン中の採用は決定しているため、シーズン中に急速充電を用いた新しいレース戦略への転換が各チームには要求される。
ちなみに、フォーミュラEの初代マシンGEN1の頃は、約60分のレース距離を走りきるだけのバッテリー容量が確保できず、レース中にピットでフル充電されたマシンに乗り換えてレースを続行するという、前代未聞のレース形式がされていたことを考えると、フォーミュラEもようやくここまで進化したかと感慨深いものがある。
一方でレース中の回生エネルギーにも進化が見られる。ブレーキング時の最大回生量は600kWであることには変わりがないものの、これまでレーススタート後から走行中にバッテリーの約40%分のエネルギーを回生することができていたものが、エネルギーマネージメントシステムの進化により約50%まで高められることになった。すなわち、従来に比べ積極的にエネルギーを消費してもよくなったわけで、昨シーズンに見られたアタックモードで過度なエネルギー消費をしないようケアして走るというようなことは、減少するかもしれない。
各チームは、この著しく性能が向上した新世代マシンGEN3 Evoを如何にして手なずけるかに手腕が発揮されるし、パワートレインを供給する各マニュファクチャラーはもっとも効率の良いパワートレインを開発できるかに、その成否がかかっているといっても過言ではない。
また、細かな部分ではあるが、全車共通のボディフォルムに手が加えられ、より堅牢で空力効果が高められたフロントノーズとボディワークが採用された。これによりフォーミュラE特有の肉弾戦とも呼べる超接近バトルが、より激化する可能性がある。
これらの性能向上に合わせて使用するハンコックのワンメイクタイヤも、グリップを従来から5~10%程度向上する取り組みがなされている。その一方、リサイクルされた持続可能素材を35%用いて製造されているあたりは、環境配慮型レースのフォーミュラEならではといえそうだ。