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企業同士の協力が新エネルギーを普及させる……現役EV開発エンジニアによる「スマートエネルギーWeek」探訪後編[THE視点]


TEXT:福田 雅敏 PHOTO:福田 雅敏
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「スマートエネルギーWeek 春」は、新エネルギーの総合展である。「FC EXPO 水素・燃料電池展」「PV EXPO 太陽光発電展」「二次電池展」「スマートグリッドEXPO」「WIND EXPO 風力発電展」「バイオマス展」「ゼロエミッション火力発電 EXPO」の7つの展示会で構成されている複合イベントだ。今回はその中からEV/FCEVに関連するブースの内容を紹介する。

全固体電池の実用化間近も量産化は先

「スマートグリッドEXPO」では、前編[詳細はこちら]で紹介したホンダのブース以外にもトピックが盛りだくさんであった。

ソリッドバッテリー(全固体電池)ブースでは、最新の全固体リチウム電池が展示されていた(残念ながら撮影は厳禁)。エネルギー密度は、今のリチウムイオン・バッテリーと同程度の200~300wh/kgだが、寿命がリチウムイオン・バッテリーの数十倍あるという。しかし現状は少量での生産体制になるので、量産EVへ搭載されるのはまだ先であろう。

ただ全固体電池の量産が実現できれば、充電時間も早くなるうえEVの電池寿命の心配がなくなり、EVの価値の向上にも大きく貢献する。全固体電池で量産EVを発売すると伝えられているのは日産で、2028年がその元年になる予定である。5年先だが、開発体制などを鑑みても、実際問題としてそれぐらいかかるだろう。

各社が模索する充電への課題

「パワーエックス」は、電気で動き電気を運ぶ電気運搬船「Power Ark 100」の模型を展示した。この性能は航行可能距離100~300km(電力推進のみの場合)で、速度は巡航:10ノット(約18km/h)/最大:約14ノット(約25km/h)。搭載電気容量は222MWh。なんと、100kWhのEVに換算して、2,220台分の容量である! 船はスケールが違う。

シャープエネルギーソリューションのブースでは、「トヨタ・プリウスPHV」に高効率太陽光パネルを張り付けた実証試験車を展示。この太陽光パネルの効率は何と34%以上で、発電能力は860W。1日充電すると、走行距離換算で56.3km相当分を充電できるという。この距離を太陽光で充電できるならば、通勤程度の使用は日中駐車場に置いておくだけで、太陽光の発電のみで賄えてしまうことになる。

パナソニックエレクトリックワークス社のブースでは、太陽光パネルを車庫の屋根に置き、その電気でEVを充電できるものが提案されていた。災害時等で停電になった場合には、住宅への給電能力も備えている。

ベルエナジーのブースでは、EVの電欠時のお助け隊「電気の宅急便」を紹介していた。充電サービスカーの「日産サクラ」にバッテリーを積んで展示。これがあれば電欠時にレッカー移動せずその場で回復できるので安心である。

サンエイ工業では「レイモ」という電池交換式のラジコン式芝刈り機が展示されていた。これなら土手など人が作業しずらい場所でも手軽に作業が行えるうえ静かでクリーンである。

そのほか、エネチェンジが「テスラ・モデル3」とともに6kWの普通充電器を展示していた。

「二次電池展」には、テンフィールズファクトリーが急速充電機を「テスラ・モデルⅩ」とともに展示していた。2月24日の「デイリーEVヘッドライン」でも取り上げた、従量課金型のものである[詳細はこちら]

ジェイテクトのブースでは、水素燃料電池(FC)を使用したドローンが展示されていた。FCを補助電源装置として活用しているという。今の電動ドローンと比較して60~80分の長時間飛行が可能となるのが特徴だ。

大豊産業のブースでは、EVカーシェアリング「eemo」で使われるEV「FOMM ONE 」が展示されていた。

各社の協力関係で水素エネルギーを普及

「FC EXPO 水素・燃料電池展」では、まずトヨタグループのブースが目立っていた。

トヨタ製の燃料電池(FC)モジュールが展示され、その横には、その燃料電池のセルを使ったBMWのFCモジュールが展示されていた。これは2月に発表されたBMWのSUV「X5」をベースにした燃料電池車「iX5ハイドロジェン」用のもので、今後約100台生産し、実証テストを世界規模で行うと発表されたもの。ブースのスクリーンには、その走行試験のムービーも流れていて、雪の中でドリフト走行も披露した。

BMWの関係者はいなったが、トヨタの関係者に話を伺うと、展示されているトヨタのFCモジュールは現行のFCEV「ミライ」のものだが、BMWのFCモジュールは、そのセルをさらに多く使い出力をあげ、高出力の二次バッテリーと併せ、非常にハイパワーになっているという。FCEVとはいえ、寒さを苦手とするFCEVでドリフト走行を可能とするとは、BMWらしさが前面に出ているのではないだろうか。

そしてトヨタの隣のブースはホンダで、次世代FCモジュールが展示されていた。出力は80kWとされ、GMと共同開発したもの。2024年に市場投入が予定されている「CR-V」ベースのFCEVに搭載されるものと同じユニットだという。価格を従来のFCモジュールの1/3まで抑え込んだというもので、今後外販もしていくとのことだ。

さらにトヨタの前には川崎重工業のブースがあり、オーストラリアから水素を輸入するための水素運搬船の模型と、ブースの壁には「トヨタ・ガズー・レーシング」の「スーパー耐久シリーズ(S耐)」参戦車両である水素エンジン仕様の「カローラ」のポスターが大きく張られていた。トヨタと川崎は水素を通じて協力関係にあり、S耐車両に使用する水素を、川崎の水素運搬船が運んでいる。

少し離れたところだが、東京アールアンドデーもブースを構えていた。そこにもトヨタのFCモジュールが展示されており、小型燃料電池バスのプレゼンテーションが行われていた。トヨタのモジュールを使うことで、これまでより室内空間が広くなるという。

また、水素エンジンのトラックもiLABOのブースに展示されていた。ディーゼルエンジン車を改造したもので、70MPaの水素タンクを運転席キャビンと荷台の間に積んでいた。

このFC-EXPOで感じたのは、企業同士のアライアンスが前面に出ていたこと。水素を普及させるためには、欠かせないものなのかもしれない。

今回のスマートエネルギーWeek 春、7つのテーマからなるイベントだけに、EVだけでなく、それに関連する多くの企業が出展していた。企業同士の協力関係など、普段はなかなか知ることができない取り組みも多く見られ、とてもユニークで学びにもなるイベントである。秋にも開催予定なので【幕張メッセ(千葉市美浜区)/9月13日(水)〜15日(金)】、是非会場に足を運んでいただきたい。

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