急速充電は「公衆トイレ」
では、急速充電の意味とは何か。
CHAdeMO協議会の現会長である姉川尚史は、かつて急速充電を「公衆トイレのようなものだ」と例えた。まさにその通りで、移動途中に電力が不足した際の緊急措置なのである。人の用足しも、基本的には自宅でまず済ませて出掛けるだろう。目的地でもトイレを借りるかもしれない。一方、公衆トイレは何かの事情で臨時に使いたいときに役立つ。そうした施設があれば、安心して外出できる。急速充電器の価値は、そうした安心材料なのである。
ところが、現在の充電の基盤となる設置の仕方は、公衆トイレばかりを増やし、自宅や目的地にトイレがない状態に似ている。
しかし、いよいよ東京都は、新築マンションへの充電設備の設置を義務付けるとした。また既存のマンションについては、充電器設置の補助金を倍増することになる。都民の約70%がマンション住まいだからだ。集合住宅の住民が73%に及ぶ神奈川県の川崎市でも、集合住宅への充電器設置へ向け動き出している。集合住宅住まいの人がEVを選べるようにすることが、川崎市のブランド力を高めるからだ。そして住民が増えれば、税収を確保できる。
高層住宅のエレベーター・メーカーでも、万一の停電に際しEVの車載LIBから電力を得て、エレベーターを稼働させることを考えている。日産自動車は、日立ビルシステムと共同で、停電時のエレベーターへの電力供給の実験を行い、6階建ての試験棟で軽EVのサクラとリーフそれぞれ、263回の昇降を行ったと発表した。なおかつ、走行のための電力を残しての実証実験だ。
住民だけが入れる保安機能の付いたマンションでも、停電になれば棟の表玄関の扉は開きっぱなしになる。同時にエレベーターでの昇降もできなくなる。上層階への水道のポンプも稼働しなくなる。さまざまな不安材料に対し、集合住宅の駐車場にEVがあり、建物への電力供給装置が設置されていれば、臨時の電力供給を実現できる。
すでに戸建て住宅では、ヴィークル・トゥ・ホーム(V to H)が実現している。
自宅で普通充電による基礎充電をできることが、EV利用のはじまりである。そこを勘違いし、あたかもガソリンスタンドの代替のように急速充電器を増やしても、あるいは高性能化のため資金を投じても、EVを単にエンジン車の代替としか認識できない行き詰まりになる。基礎充電さえできれば、駐車している間も役に立つのがEVなのである。