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TEXT:陶木 友治
「EVシフトが急速に進み始めた裏側にあるもの」伝説の自動車アナリスト、中西孝樹教授に訊く:第1回

電気自動車の登場と普及は、国内外の政治・経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。「伝説の自動車アナリスト」として知られる中西孝樹さんに、様々な疑問をぶつける連載企画の第1回です。 Q.ここ2~3年で、EVに対する関心が急激に高まり、普及に向けた取り組みも急速に進んだ印象があります。何か理由があるのでしょうか? 一言で説明することは難しいですね。順を追ってひも解いていきましょう。 ポイントとなるキーワードをいくつか挙げるとすると、一つ目は「カーボンニュートラル」になります。昨今、地球温暖化を抑制するために世界各国がCO₂削減に向けた取り組みを進めていますよね。その対策のひとつとして、CO₂を排出するガソリン車からCO₂を排出しないEVへのシフトを図る動きが本格化し始めたのが理由です──というのが一般的な回答になりますが、実際のところは、気候変動対策をめぐる世界的な潮流を利用して、それぞれの国、なかでも欧州が自分たちの強みを生かしたルールメイキングを図り、自らが有利になる競争を仕掛けてきているというのが実情です。 EVシフトは、エネルギー問題と密接に関係しています。地球温暖化防止策としてCO₂排出量を大幅に減少させる可能性が高いEVは、将来の自動車の姿として重要な役割を担うとかねてより期待されてきましたが、動力となる電力を化石燃料で発電していてはCO₂を削減したことになりません。 そのためEVには再生可能エネルギー経由の電力を使用することが望ましく、その分野で強みを持っていたのが欧州です。だから彼らには、「カーボンニュートラル」の取り組みを機にEVシフトを加速させ、他国に先行したいという思惑があったのです。 カーボンニュートラルは「地球のため」「環境のため」という本来の崇高かつ純粋な目標がスタートにあったとしても、どちらかと言うと欧州のビジネス利益を拡大するための方策、具体的には「自国の経済安全保障の構築・強化」という意味合いが昨今は強まっている政策なのです。これが二つ目のキーワードです。 三つ目は「新型コロナウイルス感染症の流行」です。コロナ禍によって、世界は戦後最悪の経済危機に直面しました。対面によるコミュニケーションの制限や移動の停滞で生産活動や物流がストップするなど、あらゆる業界に影響を与えています。 自動車分野ももれなく影響を受け、多くのメーカーが減産を余儀なくされたことは記憶に新しいところです。とはいえコロナはプラスの影響ももたらしています。例えば多くの会議がオンラインで開催されるなど、コロナの感染拡大が進化圧となって様々な分野のデジタル化が促進されることになりました。 社会のデジタル基盤やユーザーのデジタル嗜好の強まりが、デジタルと相性が良いEVシフトを強めている背景があります。 もともと自動車業界では、100年に一度とも言われる大変革期を象徴して「CASE」という言葉が使われていました。CASEは、Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の略で、従来は保有から利用への転換である「MX(モビリティトランスフォーメーション)」を実現する技術革新の意味合いから注目されてきました。 ところが昨今の議論を見ていると、「GX(グリーントランスフォーメーション)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉とともにCASEが語られるようになってきています。 どういうことかと言うと、EVシフトは「MX」を実現するためのものというよりも、カーボンニュートラルを達成する「GX」や「DX」を実現するためのものとしての文脈で語られる風潮が強まっています。その変化を促したのが、デジタル化への進化圧となったコロナです。 Q.まさかコロナがEVシフトに影響を与えているとは思いませんでした。 CO₂もウイルスも、どちらも人間の目には見えません。カーボンニュートラルは、目に見えないCO₂削減の取り組みをマネーに変える欧州発の新しい経済ルールです。ウイルスやCO₂のような微小なものが企業の行動指針に影響を及ぼすようになったのがここ2~3年に起こった出来事なのですが、そのきっかけとなったのは、アメリカ・トランプ前政権の崩壊です。 トランプ前政権は欧州のルールメイキングに抗い、その流れに歯止めをかけようとしていました。トランプ前政権時、アメリカが「パリ協定」から脱退したことを覚えている人も多いと思いますが、あれもその動きの一つです。 端的に言ってしまえば、カーボンニュートラルに向けた行程の策定をめぐって、各国間の争いが激化しており、トランプ前政権は欧州のルールメイキングに「待った」をかけようとしていたのです。トランプ政権が巨大なダムとなってカーボンニュートラルへの流れをせき止めようとしていたわけです。 ところがトランプ大統領は再選を果たせず、2020年にバイデン政権が誕生しました。バイデン政権は方針転換し、EVシフトに舵を切って欧州と同じようにルールメイキングで主導権を握ることを狙い始めました。 「トランプ政権」という名のダムが決壊した結果、自動車業界においてEVシフトが激流のように進むようになったのです。EVシフトが加速した背景には、こうした政治的・経済的な動きが潜んでいるのです。 (インタビュー:TET編集長 田中 誠司) <つづく>

TAG: #EV経済学 #カーボンニュートラル #中西孝樹
TEXT:御堀 直嗣
知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀直嗣 第4回:EVを走らせるモーターの基本

磁場を利用して作動するモーター 電気自動車(EV)を駆動しているのは、モーターだ。そのモーターを動かすため、電気を蓄える(リチウムイオン)バッテリーが車載されている。 モーターは、あらゆるものに使われている。電子レンジや洗濯機などの家庭電化製品はもちろん、スマートフォンでさえマナーモードの振動機能はモーターで行っている。エンジン車でも、パワーウィンドウや電動パワーステアリング、パワーシートなど、様々にモーターは使われており、身近な存在だ。 電気を流すと、なぜモーターは回るのか。 モーターは、回転軸(ローター)と、それを囲む筒状の構造(ステーター)で構成されている。ステーターの磁石を利用した磁場の効果で、ローターを回転させる。 もっと噛み砕けば、磁石にはN極とS極があり、NまたはSの同じ極同士は反発しあい、異なる極は引きあう力が働く。同じ極同士が反発する力を使って、モーターは回転軸を回すのだ。 EVで使われるモーターは、ステーターだけでなくローターも磁石になっている。互いの磁石のN極とS極が反発しあうことを利用している。しかし回転するとN極とS極が向きあい、引きあって回転を止めてしまいかねない。そこで、N極とS極が向きあわないように電流の方向を変え、常に反発しあう同じ極同士が向くようにしている。 直流と交流、それぞれの方式 電気には、直流と交流がある。直流は、プラスからマイナスへ一方向に電気が流れる。身近なものでは乾電池がそれだ。+と-の表記があり、逆に装填すると電気が流れず、機器は動かない。電気が一方向にしか流れない証だ。 もうひとつが交流だ。これは電気が流れながら、+と-が交互に入れ替わる。家のコンセントに流れてくる100ボルトの電流はこの交流である。したがって、コンセントの差込で、プラスとマイナスを確認しなくていい。 電流の+と-が交互に入れ替わることで、モーター内の磁石のN極とS極を切り替え、ローターを回転させるのが交流モーターだ。これがEVで使われている。 しかし直流モーターという事例もある。これは直流の電気を流しながら、ローターの軸受けのところにN極とS極を切り替える仕組みがあり、NまたはS極が同じ極同士で向きあうよう電流を切り替え、ローターを回転させている。ローターの端には整流子と呼ばれる部品がある。菓子のバームクーヘンを切り分けたような形をしている。軸受け側にはブラシと呼ばれる部品があり、ここに整流子が触れたり触れなかったりを繰り返すことで、電流を切り替え、N極とS極が向きあわないようにしている。 直流モーターでも、ブラシのないブラシレスという種類がある。ステーター側の電磁石に流す電流を、トランジスターを使った回路で切り替え、同じ電極同士が向きあうようにしている。 市販EVはすべて交流モーターを使っているが、エンジン車をEVに改造したコンバートEVでは、手に入りやすく安価な直流モーターを使う場合が多い。ただ近年では、改造用の交流モーターも手に入るようになり、コンバートEVでも交流モーターを使う事例がある。 永久磁石式か、巻き線式か? 市販EVで使われているのが、永久磁石式同期モーターと呼ばれる交流モーターだ。これは、ステーターに電磁石を用い、ローターには永久磁石を使う。 電磁石は、鉄芯に銅線を巻き付け、これに電気を流すと磁石になる。電気を使う磁石なので電磁石と呼ばれる。 永久磁石は磁力を備えた金属で、子供のころに遊んだフェライト磁石が代表例だ。しかしEVで使うには磁力が弱く、1トンを超える重さのEVを自在に加速させることはできない。そこで磁力を高める改良が施されている。 磁力を増すために使われるのが、希土類(レアアース)と呼ばれる元素だ。具体的にはネオジムが使われている。元素の周期表で60番目の金属だ。これを混ぜることで、フェライト磁石の約10倍の磁力が得られる。どれほど磁力が強まったかというと、一度、N極とS極が向きあい、くっついてしまうと、人の力では引き離せないほどの強さだ。ネオジム磁石は、1984年に住友特殊金属(現・日立金属)の佐川眞人らによる日本の発明である。 ネオジム磁石の何よりの利点は、優れた磁力で力強くモーターを回せるのはもちろん、ローターにも電磁石を使う場合に比べ小型化できるところにある。したがって、EVのみならず、エンジンとモーターを搭載するハイブリッド車では不可欠な存在となっている。 ネオジム磁石はしかし、120℃を超えると磁力が失われてしまう。このため、高温対策としてディスプロシウムという希土類元素を添加物として加え、熱への耐久性を高めている。 こうして市販EVの多くが、永久磁石式同期モーターを採用している。 一方、世の中の多くがEVへ移行していくと、資源問題に直面しかねない。希土類元素と呼ばれるほど、希少で資源量が限られるからだ。そこでローターにも電磁石を使う、巻き線式と呼ばれる交流モーターを使うEVも市販されている。 たとえば、ドイツのアウディやメルセデス・ベンツ、あるいはテスラにも採用例があり、日本車では日産アリアが巻き線式モーターを使っている。 巻き線式モーターは、鉄芯に銅線の巻き数を増やせば出力を高められる。しかし巻き線数が増えるほど寸法が大きくなりやすい。そこでいかに効率よく銅線を巻き付けるかがカギを握る。 巻き線式モーターを使うEVは、電気を流さなければ磁力を持たない鉄と銅だけでの回転となるため、走りだしたあとではアクセルを戻したときの滑空感が一段と高まり、EVならではの滑るような走りをいっそう強調することができる。 この先、EVの台数が増えれば増えるほど、素材の調達で影響の少ない巻き線式モーターを見直すようになっていくのではないか。すでに巻き線式の交流モーターを使うメーカーは、EV時代の一歩先の試行錯誤をはじめているといえる。

TAG: #EV知識・基礎の基礎 #御堀 直嗣
TEXT:岡崎 宏司
岡崎宏司の「EVは楽しい!」第5回:Audi e-tron Sportsback 55 quattro 1st editionで開眼した

プジョーe-208GTで、EV生活に大満足な岡崎宏司さん。「EVは楽しい!」と気づいたのは「Audi e-tron Sportsback 55 quattro 1st edition」。「恍惚」と感じ入ったストーリーの今回です。 未来ではなく、現実となった この連載の1回目……「最新のアウディEVの走りに心を奪われ、恍惚状態で箱根を走った!」と書いた。 そして、EVを「未来ゾーンから現実ゾーンへ招き寄せるキッカケになった」とも書いた。 そのEVとは、アウディe-tron スポーツバック 55クワトロ 1st edition。日本に初導入されたアウディのBEVだ。 試乗会は2020年10月に開かれた。会場はFUJIMI CAFE。御殿場から乙女峠を登り、乙女トンネルに入る直前に位置する。 木造りのカフェの前には広いオープンスペースがあり、パラソルを立てたテラス席が設けられている。 そして、その正面には、富士山がほぼその全容を見せる。最高のロケーションだ。 試乗車は、たしか5~6台用意されていたと記憶しているが、クリーンなBEVの試乗会には、まさにぴったりの環境設定だった。 クールで先進的なEV 4900×1935×1615mmのサイズは大きいが、クーペライクなルックスは、グッと引き締まって見えた。アウディならではのクールで精度感の高い内外装にも惹きつけられた。 小型カメラを用いた「バーチャル・エクステリア・ミラー」の形状が、そして、カメラが捉えた映像を映し出す7インチのパネルが、クールで先進的な印象をさらに高めていた。 心地よいテラスでコーヒーを一杯飲んでスタート。そして、箱根路を自由に走った。 より正確にいえば「自由自在に」走った。僕が意図し期待した以上に走った。走り出した瞬間から、レスポンスと瞬発力の高さに惹きつけられた。すぐ夢中になった。 システム・パワー/トルクは230kW(408ps)/664Nmと強力。前後2基のモーターの出力をコントロールすることで、クワトロ=4WDシステムをも成立させている。 走りは文字通り「意のまま!」。発進は滑らかであり軽やか。アクセルを深く踏み込むと、直線的な加速で、周囲のクルマをあっという間に置き去りにする。 追い越しでも同じ。低速でも、中速でも、高速でも……アクセルを踏み込んだ瞬間、滑らかに、軽やかに、強力に加速する。 Sレンジのブースト機能を使ってのフル加速は「快感そのもの!」。クワトロシステムが強力なトルクをしっかり受け止め、無駄なく前進する力に変えてくれる。 そんな加速ぶりを表現するには、「速い!」とか「すごい!」というよりも、「快感!」という方が当たっている。 重量は2560kgあるが、そんな重さを感じさせられることはまるでない。 バッテリーは低い位置に配分よく積まれる。なので、重心は低く、前後重量配分もよく、心地よい走り味、乗り味をもたらしている。 また、大きな重量と低重心がもたらす重厚な乗り味、エアサスペンションがもたらす優しくフラットな乗り味……このコンビネーションも素晴らしい結果を生み出している。 体感する運動性能、そして上質さに恍惚 EVの静粛性の高さは当たり前だが、各部遮音のレベルは高く、ロードノイズまでもしっかり抑え込まれている。 僕はあえて、中小のコーナーが連続するコースを選んだが、背の高いSUVがまるで、よくできたスポーツカーのように走った。 3段階の回生ブレーキの効きを、パドルでコントロールするのもすごく楽しかった。とくに、ワインディングロードの下りでの楽しさにはすっかりはハマってしまった。 パドルのデザイン、触れた感触、クリックの節度感等々の上質さが、楽しさをより一層加速していたことをも報告しておこう。 僕は、中小の複雑なコーナーが連続する、上記ワインディングロードを何度も往復した。 初めに書いた「恍惚状態で箱根を走った!」とは、主にこのことを指す。 その日、EVは「未来ゾーンから現実ゾーンへと入ってきた!」。そして僕は、真剣にEVに乗ることを考え始めたのだ。 第6回はこちら

TAG: #EVは楽しい! #岡﨑 宏司
TEXT:生方 聡
[ID.4をチャージせよ!:その6]「e-Mobility Power」ネットワークは頼みの綱

自宅に充電設備がない私にとって、なくてはならないのが急速充電できる充電スポット。なかでも「e-Mobility Power」(以下eMP)の充電ネットワークは頼みの綱です。 コンビニからサービスエリアまで 前回のコラムでは、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェの各オーナーが利用できる「プレミアムチャージングアライアンス(PCA)」を紹介しました。いまのところ比較的空いていて充電スピードも早いということで便利に使っていますが、2022年末の時点で全国に222基の設置で、高速道路などでは利用できないことから、おもに利用しているのがeMPの充電ネットワークです。 eMPの充電ネットワークは、急速充電器だけでも全国に約7,800口(2023年3月時点)あり、日産や三菱、トヨタ、メルセデス・ベンツ、BMWといった自動車ディーラーをはじめ、高速道路のサービスエリア/パーキングエリア、道の駅、ショッピングモール、コンビニエンスストア、ガソリンスタンドなど、さまざまな場所にある急速充電器が、専用の充電カードをかざすだけで利用できます。 フォルクスワーゲン・ジャパンでも、ID.4やeゴルフのオーナー向けに、eMPの充電ネットワークが利用できる「フォルクスワーゲン充電カード」(以下、VW充電カード)を用意していて、私もすでに入手したことは[ID.4をチャージせよ!:その3]で紹介しました。 実は以前eゴルフを所有していたときにもVW充電カードを利用していましたが、その当時と現在では料金体系が異なっています。eゴルフのときに加入していた「プレミアムプラン」では、月額5720円で急速充電と普通充電がなんと使い放題! 最強の充電カードといっても過言ではありませんでした。残念ながらこのプランはeゴルフオーナー専用で、2022年12月31日で新規受付は終了しています。 代わりに登場したのが「普通・急速充電器併用プラン」です。会費が月額7810円に値上がりしたうえに、急速充電は1分あたり16.5円、普通充電は2.75円の料金が発生します。月90分の急速充電料金が含まれているので、実質の月会費は6325円ということになりますが、eMP自身が発行する充電カードと比べて割高です。ただ、ID.4を新車で購入した場合、月会費が1年間無料となるので、そのあいだはVW充電カードを利用しない手はありません。

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TEXT:岡崎 宏司
岡崎宏司の「EVは楽しい!」第4回:MINI Eのヤンチャぶりに惹かれた!

わが家にMINI Eがやってきた 前回は、主にスマートed のあれこれを書いたが、今回は「MINI E」について書く。 MINI Eとは、「EVの可能性や問題点を世界規模で掬い上げること」を目標に作られた実証実験車。アメリカ市場の450台を筆頭に、世界の市場に送られた。 日本での実証実験は、2011年の早い時期から始まったと記憶している。 ちょっと乗るだけの安易な試乗ではなく、一定期間続けて乗ってもらい、日常的な使用条件下での評価やデータを引き出す…といった、大規模で真剣な取り組みだった。 日本に何台来たのかは忘れたが、わが家には、たしか2週間ほど滞在したかと思う。 艶やかなチタングレーにライトイエローのアクセントが素敵 それより半年ほど前、MINI E は日本でお披露目された。東京ビッグサイトで開催された「BMW Group Mobility of the Future -Innovation Days in Japan 2010」がその舞台。 外見的にはMINIそのもの。だが、艶やかで深みのあるチタングレーのボディ、ライトイエローのルーフとドアミラーという装いは、とてもスタイリッシュ、かつ未来的に見えた。 ボディサイドの……これもライトイエローで描かれた「MINI+ 電気プラグを表すEmoji」もカッコよかった。 会場の照明は落とされ、舞台だけが、それもMINI E だけが、非日常的なインパクトで浮かび上がっていた。この演出とライティングは巧みだった。僕は完全に惹き込まれた。 もし、MINI Eが市販され、このデザインがカタログにあったら、僕は一も二もなく、これを選ぶだろうと思った。 印象的なライトイエローはインテリアにも使われていた。ダッシュボードとドアトリムに組み込まれたライトイエローのアクセントにも、僕はコロリとイカれてしまった。 基本的には市販モデルと同じインテリアなのに……僕には強烈なインパクトだった。まだ乗ってもいないのに、「僕の次のクルマはこれだ!」と心に決めた。 僕のクルマ選びに当たって、いちばん大事なのはデザイン、次に大事なのはブランドだが、どちらも文句なし。加えて、新たな時代を駆け巡ることになるだろうEVなのだから、これは買うしかない。そう思ったのだ。 2シーター、50:50、低重心、鋭い加速と強力な効きの回生ブレーキ……。楽しくて仕方がない 35kWhのリチウムイオン電池は後席部に搭載する。だから、MINI E は二人乗りだ。この潔さも僕は気に入った。「さすが、MINIのやることはカッコいい!」とさえ思った。 電池重量は260kgとされたが、現在の電池よりはるかに重い。ちなみに、僕のプジョー e-208GTは50kWhで235kg。これからも電池はどんどん進化してゆくだろう。 後席を潰して2座席化したが、重量配分はほぼ50:50にされ、当然重心も低い。 ルックスは一目惚れだったが、ステアリングを握って、その気持ちはさらに加速。それも猛烈に加速した。 発進する時、下手にアクセルを踏み込むと前輪は激しく空転。強いトルクステアもでた。でも、そんなヤンチャぶりにも惹かれた。 EVの楽しさは、アクセルを踏んだ時の鋭角なトルクの立ち上がり、加速のレスポンスにあるが、MINI Eはその見本のようだった。 もうひとつ、惹きつけられたのは「回生ブレーキ」。「こんなのあり!?」と思ってしまったほど強力な効きに、初めは戸惑った。でも、慣れるにつれて「楽しくて仕方がない」状態に引き込まれていった。 文字通り「アクセルペダルのコントロールだけ」で自在に走らせられた。縦横無尽に加減速をコントロールできた。僕は完全に依存症状態になってしまった。 一般論で言えば、明らかに過剰な設定だったとは思う。……が、僕は「このまま」市販してほしいと心から思った。 MINI Eの開発者たちは「EVの楽しさ」をフルに詰め込んだ。市販モデルには無理だとしても、実験車に触れる人たちには「EVって、こんなにドキドキ、ワクワクするんだよ!」と伝えたかったのだろう。 もし、MINI Eが、ほぼあのままで市販されていたら、僕の「EV第1号」になっていたのは間違いない。そして毎日、「走りたくてしょうがない症候群!?」にかかっていたのも間違いないだろう。 第5回はこちら

TAG: #EVは楽しい! #岡﨑 宏司
TEXT:生方 聡
[ID.4をチャージせよ!:その5]90kW急速充電はこんなに速い!

「ID.4をチャージせよ!」は連載5回目にしてようやく“チャージ”、すなわち、実際に充電する話題に漕ぎ着けました。まずは「プレミアムチャージングアライアンス」の90kW急速充電をチェックします。 最高75kWをマーク! ID.4オーナーは、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェの各ディーラーにある90kW超の急速充電器が相互に使用できる「プレミアムチャージングアライアンス(PCA)」が利用できます。[ID.4をチャージせよ!:その3]で触れたとおり、すでにPCAの加入手続きを済ませているので、いつでも利用することが可能な状態です。 使い方は簡単で、クルマに充電プラグを挿し、PCA専用アプリで充電器のQRコードを読み取り、あとはアプリの指示にしたがって進めていけば、自動的に充電が始まります。果たして、どれくらいの電力で充電できるでしょうか? ID.4ではセンターディスプレイで充電中の電力をリアルタイムに確認することができます。ずっと監視している必要はないのですが、面白いので眺めていたら最高で75kWをマーク! 90kW急速充電器といっても実際には90kWで充電が行われるわけではなく、その数字より低めというのが現実です。フォルクスワーゲン・ジャパンの担当者によれば、90kW急速充電器で75kWというのはほぼ最速とのこと。それでも、40〜50kW急速充電器に比べて2倍近いパフォーマンスです。ちなみに、150kW急速充電器では94kWが上限。本来125kWの急速充電に対応するID.4ですが、日本の環境ではその実力が発揮しきれないのが残念なところです。

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TEXT:御堀 直嗣
知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀直嗣 第3回:バッテリーを活かす制御

バッテリー使用の適正温度とは 寒い冬を迎えると、バッテリーの容量が足りないと実感することがあるかもしれない。電気自動車(EV)で駆動用に車載されるリチウムイオン・バッテリーも同様だ。 バッテリーの出力や充電の性能は、電流と内部抵抗の掛け算によって算出される。内部抵抗とはいわば損失で、温度が下がると電解液の性状やリチウムイオンの移動が低下する特性がある。このため、寒い時期には充電しにくくなったり、あるいは温かな季節にはもっと走行距離を延ばせていた充電残量でも、どんどん電力が減って早めに充電しなければならなくなったりする。 エンジン車でも、たとえば軽油を使うディーゼル車は、寒冷地仕様の燃料でないと冬場に始動できなくなる場合があり、特性を知ったうえで利用することが望まれる。 リチウムイオン・バッテリーに話を戻せば、逆に高温になり過ぎても、熱暴走などといわれる異常な発熱や発火の恐れがある。そこで車載バッテリーを冷却したり、出力を抑えることで温度上昇を防いだりする必要がある。高速道路を走ったあと、急速充電をしようとしてもなかなか充電できないといった事例があるが、これは熱暴走を起こさせないための制御が働くためだ。 一般的に、バッテリーは人が快適に暮らせる温度が適しているともいわれ、昨今のEVは冷却や暖房機能を備えることで、適正温度の範囲で使えるような対策が施されている。ことに液体冷却を採用すると、温度を管理しやすくなる。 三元系リチウムイオン・バッテリーの特徴 初代の日産リーフは空冷によって冷やしながら、正極にマンガン酸リチウムを採用することで熱暴走を防ぐ対策が行われていた。空冷であることによって、廃車後のリチウムイオン・バッテリー再利用のための分解作業がしやすい利点もあった。液体冷却のような強制冷却でなくても、車載バッテリー容量が多くなかったので、走行風を利用することで適性に冷却できた。そのうえ、正極のマンガン酸リチウムはスピネル構造と呼ばれる金属結晶構造を持ち、万一の過充電になっても結晶構造が崩れにくく、短絡(ショート)しにくいので、熱暴走が起きにくかった。リーフが発売されてから、深刻なバッテリー事故が一件も起きていない背景に、こうした慎重なバッテリー採用が機能していた。 一方、スピネル構造は結晶が崩れにくい反面、リチウムイオンを蓄える容量が少なくなる。このため、現在のリーフを含め多くのEVが三元系と呼ばれ、マンガンのほかにコバルトとニッケルという3つの元素をあわせた正極とすることで、容量を増やし、より長い走行距離を実現できるようになった。 層状構造と呼ばれ、リチウムイオンを含む量の多いコバルトは、万一リチウムイオンが抜けきってしまうと結晶構造が崩れてしまいかねない。そこで、リチウムイオンが正極から抜けきってしまうことを防ぐため、充放電の制御をクルマが行うことも重要だ。 EVは充放電の状況を常に監視し、これを製造した自動車メーカーが通信を利用して一台ずつ把握している。したがってEV販売台数の多い自動車メーカーほど、市場でリチウムイオン・バッテリーがどのように充放電されているかの知見を豊富に持つことができる。その実績を基に、どこまで電力を使ってよいのか? 充電ではどこまで負極にリチウムイオンを移動させてよいかを、危険が生じないぎりぎりまで攻め込んだ制御プログラムをつくることができるようになる。いくら机上で計算しても、消費者が市場でどのように使っているかを知らなければ、最大の性能は引き出せない。

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TEXT:生方 聡
[ID.4をチャージせよ!:その4]気になる「電費」はどのくらい?

いきなり8.6km/kWhをマーク 充電サービスの準備が整ったところで、ずっと気になっていた「電費」をチェックしてみることに。すでにメディア向け試乗会でID.4 プロ・ローンチエディションをドライブする機会はありましたが、短時間・短距離の走行だったため、参考にできるような電費が計測できなかったのです。 まずは、走り慣れた有料道路を乗り継ぎ、のんびりとドライブ。途中で停まることはなく、また、高速道路に比べると遅い流れにあわせて走ったところ、なんと8.6km/kWhをマーク! ちなみに、エアコンはオンの状態です。 「8km/kWh超えはすごい!」といわれてもピンとこないでしょうが、このクラスのEVとしてはかなり立派です。 カタログによると、ID.4 プロ・ローンチエディションの燃費は次のとおりです。 交流電力量消費率 換算値  WLTCモード 153Wh/km 6.5km/kWh  市街地モード(WLTC-L) 135Wh/km 7.4km/kWh  郊外モード(WLTC-M) 143Wh/km 7.0km/kWh  高速モード(WLTC-H) 168Wh/km 6.0km/kWh ちなみに、カタログでは1km走行あたりの消費電力の[Wh/km]で電費が表されていますが、1kWhで走行できる距離の[km/kWh]で表したほうがわかりやすいと思いますし、メーターの表示も初期設定が[km/kWh]となっているので、換算した値を併記しました。数字が大きいほど、電費が良いことになります。今後電費を扱う場合にも、基本的には[km/kWh]で進めることにします。 それはさておき、8.6km/kWhという電費は、WLTCモードや高速モードを大きく上回る数字で、ID.4 プロのオーナーとしてはまずはひと安心というところです。 スピードを上げると目に見えて電費は低下 カタログの電費を見てお気づきのように、EVの場合は速度が高くなるにしたがって、電費は悪くなる傾向にあります。以前所有していたフォルクスワーゲン・ゴルフeTSIスタイルとは真逆です。 ID.4 プロ・ローンチエディション ゴルフeTSIスタイル  WLTCモード 6.5km/kWh 17.3km/L  市街地モード(WLTC-L) 7.4km/kWh 12.8km/L  郊外モード(WLTC-M) 7.0km/kWh 18.0km/L  高速モード(WLTC-H) 6.0km/kWh 19.8km/L とくに高速では空気抵抗の影響が大きく、スピードを上げると目に見えて電費は低下します。 実際にそれを確認するため、80km/h、100km/h、120km/hで高速道路を巡行してみました。リアルな環境でチェックした数字ですのであくまで参考です。走行時はアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)を使いました。 設定速度 平均電費 (参考)平均速度 80km/h 7.5km/kWh 75km/h 100km/h 6.4km/kWh 94km/h 120km/h 5.4km/kWh 115km/h […]

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TEXT:岡崎 宏司
岡崎宏司の「EVは楽しい!」第3回:EVも「デザインとブランドの魅力」には拘りたい!

僕のクルマ選びの条件 日産ハイパーミニの後、しばらくEVとの接触はなかった。ときどき、メーカーの試験車両に乗るくらいだった。 そんな状況が大きく変わったのは、ほぼ10年後。日産リーフとスマート・フォーツー edが登場したからだ。 日産リーフは、グローバル市場に投入された世界初の真っ当な実用型EV。性能的にも、当時としては十分評価できるレベルにあった。 でも、僕の心は動かなかった。そのいちばんの理由はデザイン(内外装とも)の平凡さ。 僕がクルマ選びに当たって重視するのは、第1がデザインの魅力、第2がブランドの魅力。しかも、この2点の比率は大きい。 EVという新しいジャンルのクルマでも、そこはゆずれなかった。 テスラには度々乗ったし、パフォーマンスには衝撃を受けた。…だが、ほしいと思ったことは一度もない。われながら不思議に思うほど心は動かなかった。その理由もこの辺りにあったのだろう。 そんな意味では……、過去現在を通じて……、僕の心をいちばん強く揺り動かしたEVはアウディ e-tron GT quattro。ブランドの魅力はもちろんのこと、デザインにもパフォーマンスにも…すべてに強く惹かれた。 ただし、4,990mmの全長と1,965mmの全幅は厳しい。後期高齢者の日常使いには、どう考えても受け容れられなかった。 知人が僕の勧めで、上記アウディを買った。ガレージに収まった写真が送られてきたが、羨ましくて悔しくてならなかった。 スマート/・フォーツーedは良かった…… すべての条件を満たしながら、買いそびれたEVもある。2012年暮れに日本デビューしたスマート・フォーツー ed ( エレクトリック ドライブ)。 日本デビュー直後、わが家のガレージに数週間滞在したが、ホワイトとライムグリーンを纏った姿は、文字通り、スタイリッシュで、鮮やかで、爽やかだった。 Bピラーには充電プラグが描かれていたが、僕の目にはこれもすごくカッコよく映った。 航続距離のカタログ値は140km。実力値は80~90km辺りだったかと記憶している。 横浜のわが家から東京都心までの往復は50~60km。これを無理なくこなせるかが、個人的な実用価値判断の重要なポイントになる。 スマートedは、ここを余裕でクリアした。都心往復では、エアコンもまったく気にすることなく使えた。 しかし、僕にとってなにより魅力だったのは「スタイリッシュ!」なこと。「スマート・ ブランド」もまた同様だ。とても気に入った。家内も「これ、すごくいいわね!!」と、すぐ好きになった。 だけれども、わが家のガレージにスマートedが住み着くことはなかった。なぜか。それは、当時の所有車ラインナップと関係がある。 当時のわが家の所有車は、2台のミニとアウディQ3。ミニは「クーパー・ベイズウォーター」と「クーパーS コンバーチブル・ハイゲート」。同時期にデビューした特別仕様車だ。 2台のミニはスペックも色もいいコンビネーションだったし、「ベイズウォーター」「ハイゲート」の名は、共に僕の好きなロンドンのエリア名。だから「セット」で買った。 主に、家内がベイズウォーターに乗り、僕がハイゲートに乗った。いいコンビネーションだったし、とても楽しかった。 ……だが、長距離を走るにはどちらも快適とはいえない。そこで、長距離用、家内と2人で出かける用としてアウディQ3を買った。 もう、お分かりいただけただろう。こうしたコンビネーションに、スマートedが割り込む余地はなかったということだ。 より「スマート!」になったカブリオEQへ熱視線 今でもまだ、ホワイトとライムグリーンのスマート・フォーツー edは大好きだし、僕の目には文句なく「スマート!」に映る。 スマートといえば、最新の「スマート・フォーツー・カブリオEQ」も「かなり!」気になっている。まだ正規輸入車はないし、運転したこともない。つまり、写真を見ただけで「いいなぁ!」と思っているわけだ。 とくにワインレッドのボディカラーがいい。小さいけれどドラマティックな雰囲気が充満している。 僕と家内が乗っている姿を想像してみたり、よく行く場所に重ねてみたり……、あれこれ妄想を逞しくしているが、「悪くない!!」。早く乗ってみたいとウズウズしている。 今回は「ミニ E」の話もするつもりだった。でもスマートの話が長引き、紙数は尽きた。なので、次回に先送りさせていただく。 第4回はこちら

TAG: #EVは楽しい! #岡﨑 宏司
TEXT:生方 聡
[ID.4をチャージせよ!:その3]さっそく補助金を申請! 充電の準備もOK

国の補助金は65万円 2022年11月末、ID.4 プロ・ローンチエディションが無事納車されたということで、さっそく取りかかったのが、「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」の申請です。 EV(電気自動車)やプラグインハイブリッド車、燃料電池車を新車で購入した場合、申請により国(経済産業省)が実施するCEV補助金を受けることができます。エンジン車に比べてやや割高に思えるEVを購入するうえでは、実にありがたい制度で、たとえばEVの場合、普通自動車が最大65万円、小型自動車や軽自動車では最大45万円の補助が受けられます。AC100V/1500Wのコンセントや外部給電機能がある場合には、さらにそれぞれ20万円と10万円が上乗せされます。 ID.4の場合、補助金の額はライト、プロともに65万円。ただし、4年間保有しなければならないルールがあり、もしその前に手放す場合は、売却額に基づいて補助金の一部を返納する必要があります。 申請そのものはさほど難しくはなく、専用の申込フォームに加えて、クルマの注文書や領収書のコピー、車検証や住民票の写しのコピーなどをまとめて事務局に郵送するだけ(オンライン申請も可能)。申し込みフォームは記入例を見れば簡単にできるもので、私は自分で作成しました。 令和4年度予算にまにあいました! ID.4の購入前から気になっていたのが、予算の残額です。2022(令和4)年は、日産サクラや三菱eKクロス EVが発売されたこともあり、早めに予算残高がゼロになる可能性が出てきたからです。CEV補助金の窓口である次世代自動車振興センターでは、2022年7月25日の時点で、令和4年の本予算が2022年10月末にはなくなると予想。その後、随時情報が更新され、終了する見込み時期が少しずつ延びましたが、最終的には2022年12月15日の申請分をもって、受付が終了になりました。 さいわい私の場合は11月末に申請を終えたため、滑り込みセーフ。現時点では「審査中」という状況です。ちなみに、受付から実際の振り込みまでは3〜4ヵ月かかるそうです。 なお、令和4年当初予算分はすでに受付が終了していますが、令和4年第2次補正予算にCEV補助金が盛り込まれたことから、今回の申請にまにあわなかった人や、これから購入する場合でもCEV補助金を受けることができますので、ご安心ください。 国の補助金以外に、地方自治体が独自の補助金を用意している場合があります。私が住む東京都では、個人でEVを購入した場合に45万円の補助が受けられます。郵送とオンライン申請があり、事前に必要書類をPDF化しておいたおかげで、簡単にオンライン申請ができました。

TAG: #ID.4 #ID.4をチャージせよ #VW
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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