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EVにはスマートサーフェスが多用されている
<デジタル統合が進むインターフェイスデザイン>
EVのインテリアデザインが独特である理由はほかにもある。それはEVの技術的特性とデジタル統合の親和性が高いことにある。EVはその性質上、多くの機能をソフトウェアで制御しており、ハードウェアとしての機械的な複雑さが少ない。いわゆる「スマートサーフェス」といわれる、機械式スイッチに取って代わったタッチセンサーでのコントロールが多用されている。物理ボタンは、インモールドエレクトロニクス(IME)という電子的機能や装飾的、機械的機能をひとつの部品に一体化させる技術で削減されつつある。
また、大型のタッチスクリーンや液晶ディスプレイが中心となることで、ソフトウェアアップデートによる機能拡張も行うことができる。従来のICE車では、物理ボタンとアナログメーターが主流だが、これらは一度設計されると変更が難しい。対照的に、EVでは大型ディスプレイを通じてインターフェイスをつねに進化させることができる。これらのことにより見た目もスマートになっている。
<素材の選択にも表れる環境への配慮>
その他EVのインテリアデザインの特徴として、素材選びにも環境配慮の姿勢が表れている。多くのEVメーカーは、インテリア素材にリサイクル素材や持続可能な方法で調達された材料を積極的に採用している。これは、単なるマーケティング戦略ではなく、EVの本質的な価値観である「環境負荷の低減」をインテリアデザインにも一貫して反映させる試みである。
たとえば、一部のEVでは本革の代わりに人工皮革や再生素材を採用したり、木目調のパネルも従来の天然木ではなく環境負荷の少ない代替材を使用したりしている。テスラのシートには、植物由来のヴィーガンレザーと呼ばれる人工皮革が使用されている。
これらの素材選択がデザインに与える影響は大きい。一般的に再生素材や代替素材は従来の高級素材とは異なる質感をもつため、デザイナーはそれを逆手に取り、新しい美意識や価値観を表現している。結果としてEVのインテリアは、従来の自動車とは異なる「新しさ」を感じさせる独特の質感をもつことになる。
ICE車が長年かけて完成させたインテリアデザインに対し、EVは新しい価値観を表現するために意図的に異なるデザイン言語を採用している。これはEVというカテゴリーが単なる駆動方式の変更ではなく、クルマの概念自体を変革しようとする野心的な試みであることの表れといえるだろう。
今後、EVがより一般的になるにつれて、インテリアデザインも徐々に多様化し、ユーザーの嗜好に合わせた選択肢が増えていくことが予想される。そうした進化の過程で、従来のICE車のインテリアデザインのよさも再評価され、未来と伝統が融合した新しいデザイン言語が生まれるかもしれない。