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EVは外観だけでなく内装も先進的
電気自動車(EV)の普及が進むなか、EVではフロントグリルがないなどエクステリアのデザインが大きく変化している。しかし、外観のみならずインテリアデザインも従来のエンジン車などの内燃機関(ICE)車と大きく異なることに気がついた方も多いだろう。
多くのEVではミニマルなデザイン、大型ディスプレイの採用、物理ボタンの削減などが特徴となっている。これがときに「冷たい」「未来的すぎる」といった印象を与えることがある。一方、従来のエンジン車は比較的親しみやすいインテリアデザインを継続している。この違いはどこから生まれているのだろうか。EVのインテリアデザインに込められた意図と戦略について探っていく。
<EVメーカーが目指す「新時代」の視覚化>
EVのインテリアデザインが独特である最大の理由は、メーカーが意図的に「先進的な乗りもの」というイメージを視覚化しようとしているからだ。ICE車では、排気量の増大や、気筒数の増加、ターボチャージャーの追加などで他社のクルマと差別化ができた。しかしEVでは、モーターやバッテリーの仕様に違いがあっても、感覚的に差別化しにくい。
したがって、他社との差別化をひと目で認識してもらうためには、自ずとコクピット、つまり車内で実現するしかない。そこでモビリティの概念を根本から変える可能性を秘めているEVという特性をインテリアで「見える化」しているわけだ。そのため、デザイナーたちは従来の自動車デザイン言語から意図的に脱却し、新しいアイデンティティを確立しようとしている。
そこには最新の技術も関係している。「プリンテッド・フレキシブル・エレクトロニクス(印刷型柔軟電子技術)」といわれるものもそれに寄与している。これは物理的なボタンを配置するのではなく、基板を印刷して、ハンドル、シート、アームレストやセンターコンソールなどに貼り付けるように内蔵するものだ。熱源としてヒーターも組み込むことができるので、ハンドルやシートなどに組み込んでエアコンを使用することなくドライバーが暖かい状態を維持できる。これは電気消費量に敏感なEVにとって実利的だ。また、これらによってスマートなインテリアにすることもできる。
たとえば、三菱のeKクロスEVのインテリアは、基本的にICE車のeKクロスと共通のデザインを採用している。しかし、EV版は軽自動車であるにもかかわらず「軽自動車を超えた質感」を追求し、7インチサイズの液晶メーターと9インチナビという専用装備を標準採用。ベースモデルのeKワゴンよりも上質なインテリアとなっており、「電気自動車ならではの先進性」を表現している。
また、多くのEVのインテリアでは直線的なラインや幾何学的なパターンが採用され、未来志向のイメージを強調している。これは消費者に「環境に優しい次世代技術」という価値観を視覚的に伝える効果的な方法でもある。インテリアデザインは単なる美的要素ではなく、EVというカテゴリー自体のブランディングに直結しているのだ。