現状EVの回生効果は100%に設定されていない
それはそれとして、では、回生を最大に活かすとどれくらいの減速になるのか。
かつて、米国のEVベンチャー企業であるACプロパルジョンを取材した折、回生効果をダイヤル式スイッチで0~100%まで任意に切り替えられる試作車を試運転したことがある。
回生を利かせない0%では、まさに言葉どおり滑空するような滑らかな走りになる。当然、減速や停止はブレーキに頼る。
逆に、100%にしてアクセルペダルを戻すと、体が前へつんのめりそうになるほど強烈な減速が働いた。たとえるなら、エンジン車の1速ギヤで全力加速をしたあと、アクセルを一気に戻したような強烈なエンジンブレーキの様子に近い。
つまり、緊急時に回生を100%きかせると、急ブレーキに近いような効果を得ることが不可能ではないだろう。ただし、通常の運転では回生が強すぎてしまうので、市販EVは回生効果を最大の強さにしても、100%の設定ではないはずだ。
将来的に自動運転が可能になり、センサーで緊急事態を検知したとき、回生を100%きかせる制御ができるようになれば、場合によってブレーキ装置はなくても対処できるかもしれない。
その際、機械的な接触がなく、磁力で加減速するモーターは、自然にABS(アンチロック・ブレーキ・システム)や駆動力制御(トラクション・コントロール)的な働きが機能するので、回生の依存度を高めたほうが、路面状況に適した安定した減速と停止できるのではないか。
それでも、万にひとつという懸念は払拭できないだろうから、ブレーキは補填機能として残ることになっていくのではないか。ちなみに、フォルクスワーゲンのID.4は、エンジン車に比べブレーキへの依存度が低くなるので、後輪側をドラムブレーキにしたと説明している。
ところで、回生を使ったワンペダル操作で停止までできない現状について、ブレーキペダルを踏まずに止まることは、運転操作として不都合だとの意見がある。
しかし、ならばなぜアクセルペダルを踏んでいないのにクルマが動き出す、クリープは許されるのか。あるいは、なぜブレーキペダルを踏んでいないのに停止し続けるブレーキホールドが許されるのか。ワンペダル操作で停止までできなくする理由と、クリープやブレーキホールドが認可されることとの論理的整合性はない。いわば二重基準(ダブルスタンダード)ではないか。
EVであるなら、回生とブレーキホールドを活用し、ワンペダルで減速から停止まで可能な機能が認可されるべきだ。
そのワンペダル操作は、適切な助言を得て試せば、5~10分で当たり前の操作として身に着けることができることを、EV試乗会で実証済みだ。