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日本ではその性能のすべてを発揮できない! 出力270kWの充電が可能なアウディQ6 e-tron登場


TEXT:TET 編集部 PHOTO:アウディ
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欧州の充電インフラ事情がクルマを進化させている

EVに乗って長距離を移動しようとすると、心配なのは経路充電の充電スポットとその充電器の出力性能。日本の高速道路を管理するNEXCO各社が公表している2023年度の急速充電器増設状況では、年間に全国52か所のSA/PAに計129口を増設したというが、そのうち150kW級の出力性能をもつ急速充電器の口数はわずか4口に留まる。日本の平均的な急速充電器の出力が50kW前後といわれるなか、EVの普及を急ぐうえでその充電器自体の電力供給体制の改善は急務だ。

経済産業省からは、高速道路上の急速充電器は出力90kW級以上で整備を急ぐべし、との指針が2023年8月に示されているが、それでも性能として十分なのか一抹の不安を覚える。それというのもアウディがドイツで発表した内容を目にすると、もはやインフラ側の整備がEVの性能向上に追い付いていない印象を抱いたからだ。

アウディQ6 e-tronがわずか10分の充電で255kmも走れるワケ

2024年5月8日にアウディは、自社のプレミアムプラットフォームエレクトリック(PPE)用に開発された高電圧バッテリーが、最大充電出力270kWの急速充電器を使用すると、最長走行距離255km分をわずか10分でチャージできるようになったと発表した。

いわずもがな、この性能を実現するためには電力供給側である急速充電器の性能向上に加え、受給側のバッテリー性能の向上が不可欠だが、今回の発表の注目点は、もちろん後者の性能が著しく向上した点についてだ。

実現の背景には、800Vのアーキテクチャー、プレコンディショナー機能を備えた新しい高電圧バッテリー、PPEの新しい予測サーマルマネージメントなどの採用が挙げられる。これらを搭載したアウディQ6 e-tronは、最大270kWの出力で充電することが可能で、充電時間が大幅に短縮され利便性が向上している。

アウディのプレミアムプラットフォームエレクトリック(PPE)を採用したQ6 e-tron

この恩恵を受けられるのは12のモジュールから構成された総電力量100kWh(正味容量は94.9kWh)のモデルになるが、10のバッテリーモジュールで構成された総容量83kWhのモデルであっても、10~80%までの充電にわずか21分しか要しないという。

400Vの充電ステーションでは、バンク充電と呼ばれる機能を使うことができる。これは充電開始前に、バッテリーマネージメントコントローラー(BMCe)内の高電圧スイッチがオンになり、車両に搭載されている800Vのバッテリーが同じ電圧のふたつのバッテリーに分割されることで、最大135kWで並列充電することが可能になる機能だ。この2分割されたバッテリーが同じ充電状態になってから、次にロックステップ方式で残りの部分が充電される。こうすることで車両側の受給能力を向上させている。

アウディPPE用の高電圧バッテリーの充電の仕組み。800Vの充電ステーションでは270kWの充電に対応。400Vの純電ステーションではパンク充電により、疑似的にバッテリーを分割し、最大135kWの並列充電が可能となる。

充電マネージメントとしては、国際充電規格のコンバインド充電システム(CCS)に準拠している。高速かつ信頼性の高い充電を実現するために、HCP 5高性能コンピューターが、E3 1.2電子アーキテクチャーの新しいドメインコンピューター内で充電プロセスを管理している。スマート・アクチュエーター・チャージング・インターフェイス・デバイス(SACID)と呼ばれる通信制御ユニットは、車両と充電ステーションの接続を行うインターフェイスとして機能し、標準化された受信情報をHCP 5ドメインコンピューターに送信する。

また、欧州市場向けのアウディPPEモデルは、車両左後部のCCSコンボコネクターにより、DC(直流)およびAC(交流)充電に対応しており、追加のAC充電コネクターも車両の反対側に設置されている。アウディQ6 e-tronシリーズに関していえば、標準でAC11kWの充電が可能で、残量ゼロのバッテリーを一晩で充電することができ、AC22kWに対応した充電機能も後日オプションとして提供される予定だ。

欧州向けのアウディPPEモデルは、車両左後部のCCSコンボコネクターにより、DCおよびACでの充電に対応。車両反対側にも追加のAC充電コネクターが設置されている

アウディQ6 e-tronシリーズには「Plug & Charge」機能が標準装備されている。現在、「Plug & Charge」機能は、欧州最大の充電プロバイダーであるIONITY(アイオニティ)の充電ステーション、および一部の充電オペレーターが運営する充電ステーションで利用可能だが、今後はさらに多くのプロバイダーで利用できるようになる見込みだ。

「Plug & Charge」のメリットは、1回利用したプロバイダーであれば、車両と充電ステーションの間で暗号化された通信が行われているので、次回以降は面倒な手続きを踏まなくとも充電プロセスが自動的に開始され、クレジットカードなど「myAudiアプリ」に登録されている支払い方法に従って請求がスムーズに行われることだ。

自動車メーカーも充電インフラの整備に本腰

アウディ自身も充電環境の整備には余念がなく、欧州内の29か国に設置された約63万の充電ポイントから構成されたアウディチャージングサービスや、都市部の急速充電ステーション「アウディチャージングハブ」の整備などを進め、自社の顧客をサポートしている。

我が国においても、アウディ・ポルシェ・フォルクスワーゲンの3ブランド、計356拠点のディーラーに設置された90〜150kW級出力のCHAdeMO規格急速充電器が利用可能な「プレミアムチャージングアライアンス(PCA)」が展開されている。公共の充電インフラ整備に留まらず、自社での環境整備を欧州、日本を問わず積極的に推し進めているのがアウディだ。

ただし、日本と欧州で大きく異なるのは最大充電出力。2024年春に東京の紀尾井町にオープンさせた欧州圏外唯一のアウディチャージングハブでも、その最大充電出力は150kWに留まる。一方の欧州では、幹線道路沿いを中心に設置された約3000か所のIONITY急速充電ステーションでは、最大350kWでの急速充電が可能なのだ。

欧州最大の充電ネットワークを誇るIONITYの急速充電器を使用するアウディQ6 e-tron

こうした充電環境の違いにより、受給側の充電能力も飛躍的に向上しているわけで、この欧州仕様のアウディが日本に導入されたとしても、やや宝の持ち腐れ感は否めない。しかし、インフラ整備の環境変化も大きく様変わりしているわけで、150kW級以上の急速充電ステーションが日本国内で急拡大する可能性だって否定できない。

その意味では、いまは「卵が先か鶏が先か」というだけで、車両側がオーバースペックであっても将来に向けた蓄えとして十分意味のあることではないかと思うところ。むろん、この車両スペックを使い切れるほどの急速充電設備が、経路充電に必要とされる箇所へ多数設置されることが最善策であることは明白だ。しかしそこは発電・送電まで含めた国家プロジェクト級の課題なので、あくまでも願望の域を出ない戯言であることはお断り申し上げよう。また、EVの使い方で重要なのは急速充電を含めた経路充電よりも、自宅や事業所等での基礎充電が肝心であるということも付け加えておく必要がある。

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