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日産が発表した中期経営戦略! 2026年に100万台の販売増加を打ち出した「The Arc」に立ちはだかるハードル


TEXT:高橋 優 PHOTO:日産/EV NATIVE/THE EV TIMES
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中国メーカーのスピード感についていけるのか?

次にバッテリー性能の改善に関して懸念すべきは、その改善スピードの遅さという点です。このグラフは、世界の主要なEVに搭載されているバッテリーパックレベルでのエネルギー密度の示したものです。今回の比較対象であるアリアに関しては、中国CATL製の三元系バッテリーを採用しており、91kWhバッテリーに関しては157.4Wh/kgというエネルギー密度を実現しています。

バッテリーのエネルギー密度の比較グラフ

ところがこのとおり、たとえばテスラモデルXパラディウムについては186.2Wh/kg、CATL製のQilin Batteryについては200Wh/kgと、アリアをはるかに上まわるエネルギー密度をすでに実現済みです。

そして問題は、日産が2026年度までに改善可能とする25%ものエネルギー密度向上を適用したとしてもエネルギー密度は196.75Wh/kg程度と、2021年に投入されたモデルX、2023年序盤に投入されたQilin Batteryと性能が変わらないという点も懸念材料です。

さらに充電時間に関しても、アリアと比較して25%もの短縮ということから、2026年度に発売される新型EVでは、充電残量80%まで概ね22〜23分という充電時間となる計算です。

他方で、すでに充電時間10分台というのは何も珍しいスペックではないことから、その性能向上のスピードが感じられないわけです。

中国Zeekr 001の充電時間が11.5分であることのアピールする中国Zeekr幹部

※中国Zeekr 001の充電時間は11.5分で世界最速クラスの充電スピードを実現済み

さらに問題は、LFPバッテリーの投入時期がなんと2028年度からという点です。それこそ中国勢はすでに高性能なLFPを大量生産しています。BYDのBlade Batteryに関しては、すでに150Wh/kgと、三元系バッテリーであるアリアのエネルギー密度と同等のレベルすら実現してしまっている状況です。

何と言っても、軽EVを安価に発売するためにはLFPは必須であり、それを2028年度から投入するというのは、ちょっとあまりにも遅すぎやしないかと感じてしまいます。

正直いって、2028年度からLFPの生産を開始したとしても、すでに性能やコスト低減という観点で、中国製バッテリーとは勝負にならない可能性があることから、具体的に日産のLFPが、どのような強みを有しているのかについては日産の発表を待ちたいところです。

最後に指摘したいのが、日産のADASであるプロパイロットの進化という観点です。日産は現在、プロパイロット2.0をリリースしているものの、2027年度からは次世代プロパイロットとして、LiDARを搭載したグランドトゥルースパーセプション技術という、高速道路だけではなく一般道や敷地内を経由して最終目的地までの支援を可能とするものを導入すると説明しています。

日産のLiDARを使用した自動運転技術のデモ走行

他方で、この市街地ADAS、ドアトゥードアADASに関しては、すでにテスラと中国メーカー勢が強力に開発を進めている最中です。テスラに関しては、アメリカやカナダでリリース済みです。ファーウェイ、Xpengについても中国全土にリリース済みです。

何と言っても、このADASの完成度を高めるためには、その機能を使用する車両を大量に走行させて、そのデータを収集しながら改善、継続的にアップデートを繰り返すという作業が必要です。そのようなアジャイルな開発手法を、日産単独でどこまでできるのかといえば、ちょっと厳しいのではないかと感じます。

日産の次世代ADASのプロモーション

何よりも、この次世代プロパイロットは2027年度に投入されるといっても、プロパイロット2.0のように高級セグメントから投入される見込みであり、データ収集と分析、改善、アップデート配布というサイクルをまわすだけのデータ量を収集できないことから、実際のサイクルをまわせるようになるのは2030年ごろとなるわけです。正直いまからでは、レベル2+以上のADASで、テスラと中国勢に対抗していくのは厳しすぎるのではないかということなのです。

いずれにしても、ADAS開発はどこかと戦略的パートナーシップを締結しないと、もう間に合わないと感じます。それこそフォルクスワーゲンとアウディ、ステランティスについては、XpengとIMモーター、そしてLeapmotorと提携することで、EVやADASのテクノロジーを取り込むことが可能となりました。日産についても、とくに中国の先進的なメーカーとタッグを組んで、中国市場からなるべく迅速にEVとADAS開発で最新テクノロジーを導入する必要があるのではないかという意見もあります。

このように、この中期経営戦略を見ると、EVのパイオニアであった日産がいかに遅れをとってしまっているのかがよくわかるだけでなく、中国市場の販売台数増加見通しなどを見るに、本当にどこまで市場動向を把握できているのかは首を傾けざるを得ません。

果たして、日産が新型車攻勢によって、2026年度に本当に100万台の販売台数増加を見込めるのか、新型EVも含めて最新動向には目が離せません。

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