給油と充電の誤解
これらの基礎充電に関するすべての課題は、EVの本質を正しく理解せず、エンジン車と比較し、ガソリンスタンドでの給油と急速充電が同一であるかのような誤解にあり、それを招いた報道責任は大きい。
それでも、東京都は、新築のマンションへの充電器整備を義務付けることをはじめた。マンション開発業者(デベロッパー)も、新築マンションに充電器を設置する方向へ動き出している。
初代「リーフ」が発売された当時、顧客の9割は戸建て住宅に住む人であった。その状況は今日もほとんど変わりないだろう。一方、都市部の住民の6~7割は集合住宅に住む。そこに基礎充電が整えば、EV販売は一気に増える期待がある。
EVの販売が広がらなかったもうひとつは、エンジン車と変わらぬ使い勝手のハイブリッド車(HV)で満足する傾向が強まったことだ。そして消費者は、HVに乗っていれば環境対策に貢献していると思い込んだ。
また、欧州に遅れてディーゼルターボエンジンを拡販する自動車メーカーと輸入業者が増えた。
HVとディーゼルターボ車の普及により、消費者のEVへの関心を薄れさせたといえる。背景にあるのは、やはり多くの人々が住む集合住宅への基礎充電の不備である。
日本のEVの強みとは?
別の視点での日本の強みは、所有するEVから自宅へ電力を供給するV to H(ヴィークル・トゥ・ホーム)の技術が確立していることだ。これにも補助金制度がある。
ここは欧米や中国でまだ実現できていない利点だ。気候変動による自然災害の甚大化が現実となったとき、停電の可能性が高まる懸念がある。EVから電気を手に入れられれば、スマートフォンの充電はもちろん、冷蔵庫や電子レンジ、あるいは空調などを利用し続けることができる。
この技術はまた、自宅だけでなく、屋外での家庭電化製品への電力供給や、系統電力との連携といった未来社会への電力需給の保全にも通じる。
ほかにも日産は、集合住宅のエレベーターを昇降させる電力としてEVからの電気を利用する実験を実施した。これを発展させることにより、高層の集合住宅の駐車場にEVがあることによる利便性や安心が、EVを持たない住民への説得材料につながる可能性も生まれる。
日産はまた、EV後のリチウムイオン・バッテリーを使ったポータブル電源を先ごろ発売した。EVで使い終えたリチウムイオン・バッテリーには、まだ容量が60~70%以上残っている。
EVという、一台のクルマの性能を競っているのがいまの欧米や中国だが、日本は、EVの価値を、暮らしの安心を守ることへ適用し、さらにEV後の資源の無駄をなくすことも手掛けている。
EVの価値を知り尽くしているのが日本であり、ここは先駆者として、世界をまだリードし続けている。