バイポーラ型を採用する理由
まず、貞宝(ていほう)工場から視察した。
最初に見たのは、2021年に開設したスタートアップスタジオ。ここでは、次世代技術について様々な部署の人が気軽に意見交換ができるラウンジがあり、そのすぐ隣には各種工具が工作機械が用意されたモノづくり工房がある。アイディアをスピーディに形にして、試作開発や量産開発をバックアップする仕組みだ。
こうした場が次世代電池やモーターの開発のヒントを生んでいる。
貞宝工場の一角には、次世代電池普及版の開発ラインがある。
6月のテクニカルワークショップでは、2026年から2028年にかけて合計5種類の次世代電池を量産すると発表して、報道陣のみならず自動車業界関係者の多くが驚いたばかりだ。
その中で、次世代電池普及版では正極にLFP(リン酸鉄リチウム)を使う。LFP系電池は日本でBEV向けとしてすでに普及している三元系に比べるとコストを低く抑えることができるのが製品のメリットだと言われてきた。
三元系では、リチウムのほか、希少金属で価格の高いニッケルやコバルト、そしてマンガンを使う。一方、LFPではリチウムの他は、リンと鉄というコストが安い材料を使う。
ただし、LFP電池はエネルギー密度が低いことが課題である。
そこで、トヨタがバイポーラ型の電池構成とすることで、電池容量を稼ぐ設計を考案した。
バイポーラ型とは、従来のモノポーラ型とは違い、ひとつの集電体に負極と正極を持ち、その間をセパレーターとする構造。トヨタでは2021年からバイポーラ型のニッケル水素電池を量産している。
FCEV(燃料電池車)の技術も応用
今回公開された、次世代電池普及型(バイポーラ型LFP)の開発ラインの一部は塗工の工程だった。
集電体に正極や負極の材料を均一に、しかも高速で塗る必要がある。また、燃料電池に比べると数倍厚く塗る必要があるほか、塗る箇所と塗らない箇所を綺麗に塗り分ける間欠塗工をする必要もある。ここでは、燃料電池車の開発でトヨタが培って特許の取得している精密塗工技術を応用している。
次世代電池普及版(バイポーラ型LFP)は2026年から2027年の実用化を目指している。