驚異的な静けさ、最も長く最も軽いドア
スペクターのガラスにはICE(内燃機関)モデルと同じ性能のものが使われており、もちろんスペクターにはエンジンがないのでその室内は「エクストリームサイレンス(驚異的な静けさ)です」と、普段はグッドウッドでプロダクト・スペシャリスト・エレクトリフィケーション・ストラテジーを務めるフレッド・ウィットウェル氏が教えてくれた。
彼曰く、スペクターは開発段階で、スタッフからあまりにも静かすぎるとの意見が出たため、“あえて”ドライバーの操作による加速や減速時に音を聞かせるようにしているそうだ。
全長が5,475mmにおよぶボディのスペクターは、ドアも一番長く重くなった。これまでも重いドアに対するオーナーからの声もあったことを踏まえ、スペクターではクルマから降りる時は内側のドアレバーを軽く引くだけでドアが開き、外からドアを閉める際もドアハンドルに触れるだけで閉まるようになっている。
もちろんこれまでのロールス・ロイスの各モデルのように車内に乗り込んでドアを閉める際はドアに手を伸ばさずに、スイッチひとつで操作可能。そのスイッチがAピラー付け根からセンターコンソールに移っていることには注意だ。なお、あなたが運転席に座っている場合はブレーキを踏むことでもドアを閉められるのはスペクターならではの特徴だ。
無音の大きな一歩
2022年はグローバルで過去最高となる6,021台を販売したロールス・ロイスは、今年およびスペクターに関する販売台数目標を設定していない。
「我々が生産台数を決めるのではなく、お客様からのオーダーに応えた結果が生産台数になるのです」とフレッドは笑みを見せた。
ロールス・ロイスはビスポーク受注が多いため、メーカー側でオーナーの注文を予想した「決め打ち生産」は確かに難しいだろう。
「ただし、できれば6,000台という数字は維持したいと思っています。スペクターの受注台数ですか? 過去のロールス・ロイスの中で“最も待ち望まれていたクルマ”とだけお答えしておきます」と答えたフレッドのさらなる笑顔から、6,000台という数字の達成と、それにスペクターが大きく貢献することが窺えた。
2030年までに全てのモデルをBEV化する目標のロールス・ロイスは、このスペクターでそのスタートを切った。
スペクター(幽霊)も、同ブランドのモデルと同じく霊に関する名前(ゴースト:幽霊、ファントム:亡霊、レイス:生霊)なのだが(ちなみにドーンは夜明け、カリナンはダイヤ)、その歩みは静か、いや無音であっても、とても力強く大きいものになりそうな気がする。そんなロールス・ロイスの新型車であった。