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電気自動車(EV)は「ドリ車」になるか、現役EVエンジニアが考察[THE視点]


TEXT:福田雅敏 PHOTO:トヨタ自動車、日産自動車、BMW、VW、ボルボ、ABT werke
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「EVドリ車化」への課題

実際にレーサーの佐々木雅弘選手がこのEV「AE86」でドリフトを成功させていて、YouTubeで公開された映像には佐々木選手の楽しそうなドライビング・シーンが映っている。筆者もEVではないが「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」で「911カレラ」を使用し、ドリフトを1時間30分体験してきた。その体験は楽しいの一言である。EVでもこの楽しさが味わえれば、EV好きが増えるかもしれない。

しかしRWDとなったEVで簡単にドリフトできるかといえばそうではない。まずモーターはエンジンよりもアクセルに対して機敏に反応し、アクセルワークがシビアになる。でもそれは慣れの問題で克服に時間はかからないと思われる。

問題は電装系の方だ。例えば「D1グランプリ」のように過激なドリフトを行うモータースポーツへの投入を考えると、車体の揺れや上下Gがインバーターを破損しないか心配になる。バッテリーも例外ではなく、バッテリーセルのタブやリレーなどに亀裂が入る可能性もある。そして電装系に対する熱対策も大きな課題だ。EVの「ドリ車」を作るなら、防振対策を施した専用のバッテリーパックなどの開発が必要になるのではないだろうか。

また駆動系も心配がある。モーターのトルクは非常に大きいのでそれに耐えうるホイール及びタイヤが必要になる。これまでのドリフト用の足回りでは強度不足だと考えられる。ちなみに「東京オートサロン2023」では、BBSがEVの大トルクに適した素材を使用したホイールを発表していた。世界ではスポーツEVも出てきていることから、今後このようなEV対応型ホイールも増えてくるのではないだろうか。

「BMW i4 eDrive40」はドリフトに適するモデルのひとつ

EVのドリ車を作るにはこのようにクリアすべき課題が多いものの、それらはさておき筆者にとって理想のEVドリ車を考えてみた。

現行の市販EVベースなら「BMW i4 eDrive40」が良い。4ドアクーペなだけに低重心で空力性能も優れる。ちなみに同車には「M50」という上級グレードが存在するが、それはAWDである。そのため純粋なRWDの「eDrive40」を選んだ。動力性能は最高出力250 kW(340ps)に最大トルク430Nm(43.8kgm)を発揮し申し分ない。

しかしドリフトできたとしても短時間の走行に限られた「一発屋」のマシンとなる。「i4」にはトランスミッションが未装備で、熱対策にも手を入れられないのだ。足回りはいじれると思うが、電装と駆動系の問題から長時間のドリフト走行は無理だろう。

では本格的にドリフト走行ができるEVを作るとしたら、現在の「D1グランプリ」に出場しているようなマシンをベースにEVにコンバートするのが良いかもしれない。

駆動系はモーターをフロントに配置したFRレイアウトを踏襲。バッテリーは後席の足元とガソリンタンク部分に分けて搭載する。その影響で「i4」よりも重心は高くなるが、バッテリーに対する防振対策や冷却システムを組むことが可能になるはずだ。

トランスミッションに関しては、筆者はあった方が良いと考えている。マニュアル・トランスミッションの有無は、走ってみないとわからないがドリフトの飛距離(後輪を流しながら走れる距離)などを伸ばすミソになるかもしれない。

EVによるドリフト車両が出てくれば、新たなモータースポーツの創出になるかもしれない。EVは排ガスが出ないため、屋内で走らせることが可能なのだ。もちろんドリフトを行うためには相応の広さがいるし、エンジン音はないと言ってもスキール音は出るしタイヤスモークへの対策も必要となる。それを考えると……屋内でのドリフトイベントは現実的ではないか……。

ここまで取りとめのないことを書いてきたが、フォーミュラEをはじめラリーにカートまで、EVの波はモータースポーツにも届いてきている。EVドリフトの時代が来てもおかしくはない。むしろそろそろ開発に本腰を入れないと、世界をリードしてきた日本のドリフト界が後れをとることになる。

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