#バッテリー
TEXT:御堀直嗣
EVにレアメタルを使わない電池が普及するとレアメタルのリサイクルの採算が合わなくなる……そんな説の真偽を考える

バッテリーリサイクルの未来はどうなる? 中国を牽引役としたリン酸鉄リチウムイオン電池や、そこから派生したリン酸マンガン鉄リチウム、あるいは、ナトリウムイオン電池などが注目を集めだした。すると、リン酸鉄のリチウムイオン電池が実際に電気自動車(EV)で実用化、拡販されていった。 このことにより、従来からの三元系と呼ばれる、コバルト/ニッケル/マンガンの3元素を正極に用いるリチウムイオン電池に代替する存在になるといわれ、それによって、「三元系で使われる希少金属のリサイクルの採算が合わなくなっていくのではないか?」との論議が浮かび上がってきた 果たしてそうなるだろうか? 一方で、全個体電池への期待も語られている。理由は、三元系リチウムイオン電池の電解質を固体化したものだからだ。全個体電池への期待は、優れた充電容量と、それによって小型化や軽量化されることを通じ、EVの機能や性能が一段高められるのではないか? という希望のもとで語られている。 しかし、すでに実用化の進んだリン酸鉄を電極にもつリチウムイオン電池は別として、リン酸マンガン鉄やナトリウムイオンの活用は、これから量産への道筋が始まろうとしているものであり、なおかつ、単に量産化の計画だけではEVへの適用や、効果は、単純に見通せないと思う。 理由は、当面の供給先として、定置型での活用も視野に入ってくるからだ。それに呼応して、三元系のリチウムイオンバッテリーを定置型として新しく活用することの無意味さも、意識されるようになっていくだろう。 実際、屋根に太陽光発電を設置した住宅に備えるリチウムイオンバッテリーは、電極がリン酸鉄の事例がある。リン酸鉄は、容量の点で三元系に負けるとされているが、定置型であれば寸法の制約はEVほど大きくないのではないか。ナトリウムイオン電池も、セルあたりの電圧はリン酸鉄と同等とされ、EVより先に定置型で普及がはじまることになるだろう。 もちろん、EVにリン酸鉄のリチウムイオンバッテリーを使うことを否定するわけではない。より低価格の車種で、あまり長距離移動をしない車種であれば、リン酸鉄のリチウムイオンバッテリーにより廉価で身近な車種が実現することは望ましい。 一方、より高性能であるとか、より遠くへ移動することに期待のかかる車種には、三元系や全個体電池など、より高性能な仕様が望まれるのではないか。 そのうえで、循環型経済の面において、リン酸鉄など希少金属に依存しないリチウムイオンバッテリーが増えれば、希少金属のリサイクルの採算が取れなくなるのではないかとの警鐘について、どう考えればいいのだろう。

TAG: #バッテリー #リサイクル #レアメタル
TEXT:大内明彦
レアメタルの資源不足を解決する手段! いま注目を集める「ナトリウムイオン電池」とは?

リチウム依存からの脱却が現実味を帯びてきた EV用の充放電可能な2次電池は、現在は世界的にリチウムイオン電池が主流を占めているが、ほかに充放電可能なバッテリーはないのだろうか? というのも、リチウムイオン電池の難点は、なんといってもその原材料にレアメタル(希少金属)を必要とすることにある。もちろん、リチウムもレアメタルだが、それよりも希少な存在となっているのがコバルトだ。 このコバルトの埋蔵量で、世界の約半分を占めているのがコンゴ共和国だ。さらに生産量から見るとその比率は70%近くとなり、需要に対してほぼ一極集中と呼べる状態が形作られている。当然ながら、こうした偏った供給体制は、将来的な資源の安定供給という視点から眺めると、きわめて不安定な状態である。じつは、中国がEV化の促進にあたって積極的な体制をとれるのは、その裏付けとして、膨大な資本の投下によるコンゴでのコバルト精錬権の半分以上を手にしているからだ。 こうした現状に留意すると、リチウムイオン電池以外の2次電池にはほかの選択肢はないのかと考えてしまう。そもそも、リチウムイオン電池が着目された理由は、リチウムイオンがもつエネルギー密度の高さにあったためで、この点でリチウムイオンには劣るものの、リチウムイオンとほぼ同時期に考えられた2次電池があった。 それがナトリウムイオン電池である。正極にナトリウム酸化物、負極に炭素系素材、電解液に有機溶媒を使い、ナトリウムイオンが正極と負極の間を行き交うことで充放電が行われる2次電池だ。この点は、リチウムイオンが正極と負極の間を行き交うことで充放電が行われるリチウムイオン電池とまったく同じである。 ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池とほぼ同じタイミングで研究開発は行われたが、性能的にリチウムイオンにおよばないという判断から、一時開発が見送られた電池である。しかし近年、リチウムイオン電池の資源不足が懸念されはじめるとふたたび着目され、研究開発が本格的に再開されることになった。

TAG: #テクノロジー #バッテリー #新技術
TEXT:御堀直嗣
そういえば日産が全固体電池は追浜で作るって発表したけど……追浜工場閉鎖で夢の電池はどうなる?

全固体電池の生産はどうなる? 日産自動車は、3年前の2022年4月に、全固体電池の試作生産を行う設備を神奈川県の追浜(横須賀市夏島)にある総合研究所内に設置すると発表し、公開した。ところが、今夏、日産は追浜にある生産工場を2年後の2027年に閉鎖するとした。日産は、全固体電池を搭載した電気自動車(EV)を28年に市場投入する計画であり、その行方はどうなるのか。 しかし、あまり心配する必要はなさそうだ。 ひとつは、追浜で閉鎖するのは生産工場であり、総合研究所とテストコースであるグランドライブは残される。なおかつ、新車の組み立てを行う生産工場は閉鎖するが、その土地を手放すかどうかは、さまざまな噂が出ているものの、今のところ未定だ。 次に、全固体電池の試作は総合研究所だが、量産へ向けた製造は、神奈川県内の神奈川区室町にある横浜工場で行われ、そのパイロット生産を行うラインは2024年に公開している。 試作は、できるかできないかの模索と判定であり、量産は、数多く適切な原価で安定して製造できるかという別の技術開発が必要で、総合研究所の手を離れ横浜工場へ移管されるのは、ある意味で当然の道筋だ。ここで具体的な生産技術が構築されていく。 したがって、2028年を目途とした全固体電池の市場投入へ向け、追浜の生産工場閉鎖は無関係ということになる。 横浜工場は、これまで親しみの薄い生産拠点であるかもしれない。しかしながらここは、は1933年(昭和8年)に設立しており、ここで、ダットサン14型と呼ばれる日本初の乗用車生産が行われた歴史ある場所だ。 その後、1965年に座間工場が完成したことにより、横浜工場はサスペンションなど集合体としての部品生産を専門に行うようになった。ほかに、アルミ鋳造などの技術を磨いていく。さらには、R35GT‐Rのエンジン生産や、可変圧縮比エンジンの生産も行うようになった。そして、リーフ、ノート、セレナなどのモーター生産も行っており、電動化の拠点ともいえる存在だ。 そこに、全固体電池の生産が組み込まれていくことになる。 補足として横浜工場には、日産の歴史やエンジン、電動化に関する展示施設があり、これらは見学が可能だ。横浜工場は、日産自動車の伝統と、中核となる技術が集積した工場と見ることができ、全固体電池の完成と、市場投入が待たれるところである。

TAG: #バッテリー #全固体電池 #日産
TEXT:小鮒康一
中古EVの「バッテリーだけ」がヤフオクに出てる! 一体何に使う?

中古バッテリーは再資源化の可能性を秘めている 世界初の5人乗り量産電気自動車として、2010年12月に販売を開始した日産リーフ。現在は2017年に登場した2代目が販売中で、2025年度中にはクロスオーバーSUVタイプに一新された3代目モデルが登場するとアナウンスされている。 そんな電気自動車のパイオニアであるリーフも、初代が登場してからまもなく15年を経過し、クルマとしての役割を終えて解体される個体も珍しくなくなってきた。そういったこともあってか、ネットオークションなどでは、中古のリーフのバッテリーやモジュールが販売されているのだが、どんな使い道があるだろうか? そもそも電気自動車のバッテリーはレアメタルを含む原材料が多く含まれているため、現在は焼却することなくレアメタルを回収する方法なども開発されており、状態の悪いものなどはリサイクルされるようになっている。 また、状態のいいモジュールは、ほかのバッテリーの状態のいいモジュールと組み合わせて再製品化をし、中古の駆動用バッテリーとして再利用されるケースも珍しくない。 メーカーである日産も、状態のいいモジュールを用いた交換用再生バッテリーをリリースしたり、「ポータブルバッテリー from LEAF」として蓄電池として再利用したものを販売したりと、資源の有効活用を行っているのだ。 そのため、ネットオークションなどに出品されているリーフのバッテリーも、基本的には業者向けのものといえるのだが、なかには自作の蓄電池に改良して使用しているツワモノも存在している。 とはいえ中古のリーフのバッテリーを蓄電池として運用するには、電気の知識や作業経験が必要なのは当然で、作業によっては電気工事士の資格が必要となるものもあるので、万人にオススメできるものではない。 なかにはすでに蓄電池として使えるように改造したものを販売しているユーザーもいるが、こちらも個人の出品物となり、保証などはないと考えられるので、コスパとリスクを天秤にかけて考える必要があるだろう。 ただ、中古のリーフのバッテリーはジャンク品のようなものであれば複数のモジュールをまとめて数千円という安価で販売されているものも多く、知識と技術と経験、そして資格をもっている人であれば宝の山といえるのかもしれない。

TAG: #サステナビリティ #バッテリー #中古EV
TEXT:大内明彦
ガソリン給油と同じ速度で充電可能! 中国のBYDが発表した「スーパーeプラットフォーム」が凄すぎる!!

BYDが発表した新技術の中身 EVを生産するBYDという中国企業をご存じだろうか。自動車メーカーとしての歩みはまだ20年、企業としても創業30年と歴史の浅いメーカーで、2次電池(携帯電話用)の生産で起業している。 現在の業務内容は自動車(EV、PHV)、バッテリー(2次電池)、エレクトロニック(スマートフォンなどの電子機器)などの生産、エネルギー産業(太陽光発電、蓄電システム)、鉄道輸送(モノレール、地下鉄)などを手掛けている。ちなみに社名のBYDは「Build Your Dream」の頭文字をとったもので、近未来に向かっての歩みを意味している。 こうした業務内容のなかで、自動車については新エネルギー車にカテゴリーわけされるEVとPHVの生産を行っている。とくに将来への可能性を大きく秘めたEVの開発、普及に関しては積極的な取り組み姿勢を見せている。そのBYD社、2025年3月に「スーパーeプラットフォーム」と名付けられた新たな充電システムを開発、発表している。 このシステム、「プラットフォーム」の名が示すように、なにかのベース、土台となる技術であることが推察できる。問題は、その前にある「スーパーe」の意味するものだが、技術の内容から考えると超急速充電システムと理解してよいだろう。メーカーの表現を借りると「油電同速」ということで、充電時間とガソリン(液体燃料)の補給時間が同じ(になる)ことを意味している。 環境性能に関しては文句なく優れるEVだが、充電設備、充電時間などが大きな問題として取り組まれてきた。解決するには、数多くの充電スタンド、短時間での充電が必要になるわけで、これが可能になれば内燃機関車(ガソリン、ディーゼル)と同等の実用性を得ることができる、というユーザーニーズに対する回答である。 BYDは、この充電時間に関して燃料補給と同等の時間で完了できる「スーパーeプラットフォーム」と名付けた超急速充電システムを開発。画期的な内容で、1秒あたり2kmの走行距離に相当する充電を行い、5分弱で400km走行に相当する充電を可能にする「フラッシュ充電」方式を開発した。 ただし、既存のEVに対応したシステムではなく、短時間による急速充電を可能にするには車両側、充電側(ステーション)の両者で専用の方式を使うことが条件となるようだ。

TAG: #テクノロジー #バッテリー #プラットフォーム
TEXT:御堀直嗣
リチウムが入手困難ならナトリウム! いま注目を集める「ナトリウムイオン電池」ってどんなもの?

未来を担うかもしれない新時代のバッテリー ナトリウムイオンバッテリーとは、リチウムより周期表で原子番号が大きいナトリウムを正極に使うバッテリーをいう。ナトリウムイオンが、正極と負極の間を行き来することで充電と放電を行う仕組みは、リチウムイオンバッテリーと同じだ。 リチウムとナトリウムでは資源の入手のしやすさが異なり、ナトリウムのほうがより豊富に存在するため、EVを含め電動化が進むにつれてバッテリー需要が増大する際に、価格面を含めた手に入れやすさで注目されだした。 ただ、これまでナトリウムイオンバッテリーがあまり話題にならなかったのは、リチウムイオンバッテリーに比べ1セルあたりの電圧が低いためだった。リチウムイオンが4Vであるのに対し、ナトリウムイオンは2.5V程度だ。4割ほど電圧が低いということは、同じ容量を車載した際の一充電走行距離が4割近く短くなることを意味する。 EVに乗る際にもっとも気になるのは一充電走行距離の長さだろう。そこに弱さがあれば、いくら資源が豊富であり原価が安く済んでも、消費者の目は向きにくい。 それでも開発は続けられ、2009年ごろには1セル3Vまで改善できるのではないかという見通しが出てきた。三菱自動車工業からi‐MiEVが発売された年だ。 さらに後年になって、中国でリン酸鉄を正極に使うリチウムイオンバッテリーが登場し、その1セルあたりの電圧は3.2Vである。ナトリウムイオンバッテリーとそれほど違いがないにもかかわらず実用化され、普及段階に入っているのだ。 これまでの開発で、ナトリウムに、資源的に安定性のある鉄、マンガン、マグネシウムを混ぜ、さらに、ニッケルやチタンを加えると、ナトリウムイオンバッテリーも3~3.5Vの性能を出せる見とおしが立ってきた。 そして負極には、リチウムイオンバッテリーで使われる黒鉛ではなくハードカーボンを使うことで、容量を増やし耐久性も上がることがわかってきた。 しかもバッテリー製造は、既存のリチウムイオンバッテリーと同じ生産方法で可能であるという。 高性能を競うのではなく手ごろな価格で適切な性能が得られる小型EVを求めるように市場が変化しはじめ、リン酸鉄の正極をもつリチウムイオンバッテリーがそれを実現しつつある。 同じ理由で、ナトリウムイオンバッテリーでも適切な性能が得られるEV開発と商品性を見極めることができるなら、採用の事例が登場するかもしれない。 EV販売が踊り場であるなどといわれるが、これまで普及型の廉価な量販EVが足りていなかったのであり、より多くの人が購入可能であったり利用しやすかったりするEVが登場すれば、ふたたびEVへの関心は高まるだろう。そのとき、ナトリウムイオンバッテリーがどこまで奮闘できるか。 ナトリウムイオンバッテリーは、リン酸鉄を含め既存のリチウムイオンバッテリーの代替というより、EVの商品性にあわせた選択肢としてまず注目すべきだろう。 もうひとつは、人工知能(AI)の普及が進みはじめた際、その運用に必要な電力を供給するうえで、電力需要の変動に対し蓄電機能が必要になる可能性があり、そうした定置型での需要にナトリウムイオンバッテリーが有効との見方もある。そちらをナトリウムイオンバッテリーで満たせるなら、リチウムイオンバッテリーはEVにより比重を高めることもできる。 まだ本格的な量産体制が整っていない段階で、誰が、いつ、いかに投資に踏み切るか次第で、ナトリウムイオンバッテリーの行く末が決まるだろう。

TAG: #テクノロジー #バッテリー #新技術
TEXT:大内明彦
EVのバッテリーに高電圧化の流れ! そんなクルマの中身の話……と思ったらユーザーにもメリットのある話だった

EVはなぜ高電圧なのか 日常的に使う言葉のなかに「電力」という単語がある。では、その意味は? 答えは読んで字のごとし、電気の力だ。電気の力とは、電気が行う仕事量のことで、この電力を電気的な表記に置き換えると「W(ワット)」となる。 この電力(W)は、電流「A(アンペア)」と電圧「V(ボルト)」の数値によって決まってくる。つまり、W(電力)=A(電流)×V(電圧)ということになる。電気によって得られる仕事量は、電圧、電流が高くなるほど大きくなるということだ。 さて、それでは視点をEVに移してみよう。 EVは、搭載するバッテリーからモーターに電気を供給することで走ることができる。そして、その動力性能(モーターの仕事量=電力)は、電圧と電流によって決まってくる。電圧が高くなるほど、電流が大きくなるほど、その仕事量は増える(性能が上がる)ことになる。逆のいい方をすれば、EVの動力性能を引き上げようとするなら、より高い電圧、より大きな電流の電気をモーターに伝えればよいわけで、このバッテリー電圧、電流がEVの基本性能を決める土台となっている。 次に、現在使われるEVのバッテリーだが、そのほとんどがリチウムイオンタイプが採用されている。では、動力用リチウムイオン電池はどういった構造になっているのか。基本的には、細かなセル(個体)の集合体として作られている。ひとつの例だが、3.7ボルトの電圧をもつセルを96個直列に接続。これで355.2ボルトの電圧が得られ、電流量を確保するため2個並列に接続。セル数の合計は192個となり、この仕様でEVの動力用バッテリーが形成されている。 実際には、現状EV用として使われているバッテリーは400ボルト仕様(バスやトラックは600ボルト仕様)が中心なのだが、これを一気に倍の800ボルト仕様に引き上げようという動きが見られている。3.1〜4.2ボルトのセルを198個組み合わせると613.8〜831.6ボルトとなる。こうした構成によるバッテリーだ。

TAG: #バッテリー #電圧 #高電圧
TEXT:御堀直嗣
クルマのエンジンはオーバーヒートするけどEVのモーターやバッテリーは? 性能面でも重要なEVの熱事情

熱問題はエンジンがなくともつきまとう 電気自動車(EV)でも、温度管理は必要だ。つまり、冷却機能を備える必要がある。ただし、ガソリンエンジンほど高熱を発するわけではない。 ガソリンは、エンジンで燃やすことで千数百℃の高温になる。そこでエンジン内部に水路を張り巡らせ、ラジエターで冷却し、80℃ほどに維持して事なきを得ている。EVのモーターも、高回転で回せば多くの電流が流れ、永久磁石式同期モーターでも固定子(ステーター)の電磁石の銅線が熱をもつようになる。ちなみに回転子(ローター)は永久磁石なので、電気は流れない。 ことに連続して高速走行をしたり、登り坂を走り続けたりするとモーターの回転数が高いまま維持されるため、モーターの温度があがりやすい。一時的には100℃近くになることもあるだろう。そこで、水冷によって50℃ほどに保つようにしている。 そもそも、モーターが過熱してもガソリンエンジンに比べ圧倒的に低い温度までなので、初代リーフが発売されて以降15年が経つが、モーターのオーバーヒートでEVが走行不能になったとか、壊れたという話は耳にしていない。またモーターは、丈夫な原動機であり、車体などが廃車になる時期が来ても、別のクルマで使えるといわれるほど耐久性がある。モーターに起因する故障や問題はあまり気にする必要はないのではないか。 ただし、コンバートEVのようにエンジン車をEVに改造する場合は、使うモーターの種類により冷却が不十分で、空冷のまま高回転運転を続けたりすると故障する可能性はある。かつて、直流直巻モーターを使ったコンバートEVでサーキット走行をした際に、ブラシが焼けるといった症状が出たことがある。 次に、リチウムイオンバッテリーも発熱する。放電でも充電でも、電気の出入りによって発熱する。バッテリーには内部抵抗があり、電気の流れにくさが熱を生み出す。電気の流れは、川にたとえることができる。通常は川幅を超えて水が流れることはないが、集中豪雨があると、川幅を超えて水があふれだし、洪水になる。 電気の流れも、電線の太さに適した流れであれば問題ないが、より多くの電気を流すと、水のようにあふれ出しこそしないものの、流れにくさが熱となって大気へ放出される。バッテリーが熱くなって、ケースが熱を帯びたり、周囲の空気が温まったりするのは、いわば川の洪水のようなものだ。 リチウムイオンバッテリーが快適に作動する温度範囲は、15~35℃といわれる。いわば人が快適に過ごせる温度範囲に近い。もちろん、35℃以上は猛暑日といわれ、熱中症の危険があるわけだが……。リチウムイオンバッテリーも高温が続くと、熱暴走といって異常発熱や発火の危険性が出てくる。こうなると、オーバーヒートというより事故になってしまう懸念がある。 逆に、低温では化学反応が遅くなって性能が落ちる。そこでリチウムイオンバッテリーも、適切な温度管理をすることが大切で、水冷や液体冷却が施されるようになった。そして低温に対しては、温めることも行うようになっている。一方、日産の初代リーフは、空冷を採用していた。 当初のバッテリー容量は24kWhで、軽EVの日産サクラとくらべ4kWh多いだけだった。したがって高速で長時間走ることは限られ、リチウムイオンバッテリーが高温にさらされる機会も限られたはずだ。なおかつ、もしそのような状況になった場合は出力電流を抑えることで温度上昇を抑えた。走行性能は落ちるが、そうした電力制御による温度管理が行われたのである。 低温に対しては、起動すれば間もなくリチウムイオンバッテリーからの放電がはじまり、それによってバッテリー自体も温められていく。充電においても、普通充電を基本にすれば一気に大電流を流さないため、温度変化に対する適応が可能だった。 ところが初代リーフ以降、大容量バッテリーを車載し、一気に長距離を移動したり、それによって消耗した電力を急速充電器で繰り返し充電したりするといった使い方がされるようになり、水冷などにすることで積極的な温度管理が行われるようになった。

TAG: #バッテリー #メカニズム #冷却
TEXT:御堀直嗣
クルマに長期間乗らないとバッテリーが上がる! だったら満充電のEVでも長期間乗らないとバッテリーは空になる?

クルマに使われるバッテリーにはいくつかの種類がある バッテリーに充電した電力が、これといって電気を使っていないのに時間の経過とともに減ってしまうことを自己放電という。バッテリー自らが放電してしまうという意味だ。 バッテリーに充電した電力は、バッテリーの電極と電解質によって化学的に貯められていて、倉庫に物を収めたというような物理的保管とは異なる。したがって、バッテリー内に生じた化学反応や、バッテリーが置かれている環境としての気温や湿度の違いにより、電力が徐々にではあるが自然に減ってしまう。 クルマの補器用バッテリーとして長年使われてきた12ボルト(V)の鉛酸バッテリーは、ひと月で4~8%ほど自己放電するといわれる。しばらくクルマに乗らずにいると、バッテリー上がりをするひとつの要因といえる。ただし、バッテリー上がりは鉛酸バッテリーの自己放電だけでなく、近年のクルマはキーを差し込まなくてもボタン操作で錠を開閉できるオートロック機能がついていたり、盗難防止の装置が働いていたりというように、待機電力といえる電気がずっと使われているので、そうした機能が電力を消費してもいる。 電気自動車(EV)の駆動用として用いられるリチウムイオンバッテリーはどうか? リチウムイオンバッテリーも自己放電するが、それはひと月に1~5%ほどであるという。鉛酸バッテリーと比べかなり小さな値だ。しかも、車載バッテリーは容量が大きいので、自己放電で充電が空になってしまい、動かなくなるというようなバッテリー上がりの懸念はないに等しいのではないか。 では、EVで補器用として使われる鉛酸の12Vバッテリーは、どうなのか? もちろん、鉛酸バッテリーとしての特性に変わりはない。とはいえ、そもそもEVには駆動用リチウムイオンバッテリーに大容量の電力が貯めてあるので、電気そのものは存在するのだから、そこから鉛酸バッテリーへ充電を行うことで、エンジン車で起こりがちなバッテリー上がりで始動できない懸念は減るだろう。 ただし、自動車メーカーによっては、駆動用リチウムイオンバッテリーから駐車中でも鉛酸バッテリーへ電力を提供し、バッテリー上がりを防ぐ機能を備えていない例もあるようだ。この場合は、EVといえども、長期間駐車したままにしておくと、そもそも鉛酸バッテリーの電力がないことにより、起動しなくなる恐れはある ハイブリッド車で多く使われてきたニッケル水素バッテリーは、自己放電が多いといわれる。ひと月で30%に及ぶこともあるようだ。EVにニッケル水素バッテリーが使われない理由がそこにありそうだ。もちろん、EVの開発初期段階では、鉛酸バッテリーより容量が大きいのでニッケル水素を搭載し、一充電走行距離を伸ばしてきた経緯がある。 しかし、ニッケル水素バッテリーの多くがハイブリッド車(HV)で用いられてきた背景にあるのは、基本的にエンジンで発電したり、走行中の回生により充電したりすることでクルマは走り、充電による大容量の電力への依存度が低いことが、ニッケル水素バッテリーの特性に適していたといえるからではないか。

TAG: #バッテリー #充電
TEXT:御堀直嗣
EVのネックのひとつは重量! その大半はバッテリー! ではなぜバッテリーは重いのか?

EVになると車両重量が重くなる理由 バッテリーは、なぜ重いのか。 ひと言で答えるのはなかなか難しいが、たとえば、補器用バッテリーとして知られる鉛酸バッテリーの電極に使われる鉛は、元素の周期表で82番目であり、26番目の元素である鉄と比べ3.7倍以上重い(周期表上で数字が小さいほうが質量が軽い)。 鉄も鉛も鉱石といって、自然界でつくられた鉱物のうち、人間に役立つ物質だ。 電気自動車(EV)などで使われるリチウムイオンバッテリーの電極に使われる材料で、コバルト、ニッケル、マンガンなどはいずれも鉱石で、周期表ではコバルトが27番目、ニッケルが28番目、マンガンは25番目の元素だ。 三元系と呼ばれる主力のリチウムイオンバッテリーは、この3つの元素を配分して電極をつくっているので、当然それなりの重さになる。 ちなみに鉄は26番目で、アルミニウムは13番目の元素なので、一般に、アルミニウムが軽いといわれるのはそのためだ。鉄は重金属といわれ、鉄以上の重さの金属を重金属としている。アルミニウムは軽金属と区分けされる。 では、コバルトやニッケルより元素番号が小さく、軽いはずの鉄を使ったリン酸鉄のリチウムイオンバッテリーがなぜ重いのかといえば、電極の結晶構造の違いによる。 コバルトやニッケルは、金属としての結晶構造の間に、サンドイッチのようにリチウムイオンを含むため、より多くのリチウムイオンをもつことができる。 一方のリン酸鉄は、電極の結晶構造の隙間に、柱のように結晶を支える構造があり、そこはリチウムイオンが入り込めないので、電極内にもてるリチウムイオンの量が少なくなる。それは、一充電走行距離が短くなることを意味している。 しかしそれでは商品性で、三元系に劣る。そこで、車載量を増やして容量を確保しているため、結果的に重くなる。

TAG: #バッテリー #メカニズム #モーター

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