岩尾 信哉 記事一覧

TEXT:岩尾 信哉
BMW 「ヴィジョン・ノイエクラッセ」は次期3シリーズの姿を占うデザイン・スタディだ!

ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティ2023」のプレイベントにおいて、BMWはかねてから発表を予告していた「ヴィジョン・ノイエクラッセ(ドイツ語で新たなクラスの意)」を公表。それが示すBMWの将来像について想いを巡らせてみた。 内外装に漂う近未来のBMWデザイン BMWのコンセプトカー「ヴィジョン・ノイエクラッセ」は、2025年以降に発売予定とはいえ、次期3シリーズのベースとなることが想定されるだけあって、注目を浴びて登場した。デザイン・スタディの段階であっても「ノイエクラッセ」の名が与えられて姿を現せば、いよいよ正式な量産化に向けた詳細が少しでも明らかになるのではと期待された。だが、残念ながら今回はスペックや販売される価格帯などは紹介されずじまいだった。 それでも今回、コンパクトセダンであること以上の追加情報はなくとも、「ヴィジョン・ノイエクラッセ」のスタイリングなどには、将来に繋がる部分もあったので、いくつかのポイントを追ってみたい。 BEVとして設計された「ヴィジョン・ノイエクラッセ」 主たるコンセプトとして「ヴィジョン・ノイエクラッセ」(以下、ノイエクラッセ)でBMWが掲げたのは、将来に向けたデジタル化、電動化、循環性などの将来に向けた開発テーマだ。あくまでデザイン・スタディゆえに詳細なスペックは明らかにされていないノイエクラッセでは、目標として「30%の航続距離増加、30%の充電時間短縮、25%の車両全体の高効率化」と示されても具体的なイメージが湧きにくい。 BMWが新たな取り組みとして明確に掲げているのはBEV(バッテリー式電気自動車)としての進化だ。BEVであるノイエクラッセでは第6世代の電動パワートレインが採用される。高効率の電気モーターと新開発の円形バッテリーセルは、従来の角形仕様よりもエネルギー密度が20%以上高められているという。 セダンのスタイリングとして先を行く斬新さ BMWグループのデザインを統括する、エイドリアン・ファン・ホーイドンクは、「ノイエクラッセのデザインはBMWらしさを備えつつ、モデルの世代の推移を超越するような斬新さを備えています」とコメントする。そのスタイリングはBMWの将来のコンパクトセダン像を映し出していることがわかる。 前傾したシャークノーズのフロント先端部や「ホフマイスター・キンク」として知られるCピラー付け根にある跳ね上げられたラインなどは、従来から見られるBMW独自の手法。キドニーグリル内にダブルヘッドライトやセンサー類を収めたカバー部には、デジタルアニメーションが照明効果によって表示され、周囲の人々や交通に向けて車両情報を提供する。リサイクル性に配慮したブラックのバンパーとサイドスカートもエクステリアのアクセントとなっている。 ボディサイドから見ると、セダンのデザインとしてエッジの効いたプロファイルが見て取れる。キャラクターラインを境に上下で明確に分割された面で構成されたドアパネルや、前後オーバーハングを切り詰めた引き締まったボディラインは、シャープなイメージを際立たせている。

TAG: #3シリーズ #BMW #ノイエクラッセ
TEXT:岩尾 信哉
トヨタ「bZシリーズ」拡販に期待? 横浜ゴム「BluEarth」、「bZ3」に新車装着

横浜ゴムは6月5日、トヨタ自動車の中国での合弁企業である一汽トヨタ自動車有限会社(以下、一汽トヨタ)が、中国で発売した電気自動車(EV)セダン「bZ3」の新車装着(OE)用タイヤとして、2023年2月より「BluEarth-GT AE51(ブルーアース・ジーティー・エーイーゴーイチ)」の納入を開始したことを明らかにした。 EVに装着される「BluEarth」 横浜ゴムによれば、「BluEarth-GT AE51」はブルーアース・シリーズの基盤設計や材料技術を採用し、走行性能、快適性能、環境性能の全てに優れる、高いグランドツーリング性能を持った製品とされる。今回BEV(バッテリー電気自動車)である「bZ3」に新車装着された「BluEarth-GT AE51」の特徴を挙げると、高剛性カバー材を採用することで、高い静粛性と操縦安定性を両立するとともに、低発熱コンパウンドの採用により転がり抵抗を低減。さらに構造にチューニングを施すことで高い乗心地性能も実現しているという。装着サイズは215/65R16 98Hと225/50R18 95Vとなる。 中国で共同開発されたEVセダンにOE採用 2022年10月に中国で発表された電気自動車「bZ3」は、セダンタイプのBEVだ。トヨタと比亜迪股份有限公司(BYD)が合弁で設立した電動化技術の開発企業であるBYDトヨタEVテクノロジーカンパニー有限会社(以下、BTET)と一汽トヨタにより共同開発された。すでに一汽トヨタより生産・販売され、中国では4月に販売が開始された。 トヨタが「世界最大のBEV市場である中国において、現地のお客様に最高の製品を提供することを目指した」とするbZ3の開発には、トヨタのデザイン、生産、技術、品質管理等の分野から100名以上のエンジニアが参画、BYDや一汽トヨタのエンジニアと一体になった開発体制の下で生み出されたという。日本市場での発売予定がないのは、長く“セダン氷河期”が続く日本の状況を考えれば致し方ないだろう。

TAG: #BluEarth #bZ #横浜ゴム
TEXT:岩尾 信哉
フォルクスワーゲン、電気自動車(EV)ID.7の上級モデル「GTX」をティザー公開、9月の独IAAモビリティで正式発表

フォルクスワーゲンのEV(電気自動車)ブランドであるIDシリーズでは、最新モデルとなる「ID.7」が、4月に開催された上海国際モーターショーにおいてワールドプレミアとして発表された、さらに5月上旬にフォルクスワーゲンは、IDシリーズの上級スポーツグレードである「GTX」を、アッパーミドルクラスのID.7に設定することをティザー公開して明らかにした。正式発表は来る9月に独ミュンヘンで開催される「IAAモビリティ2023」となる。 欧州での正式発表を控えるID.7 2022年6月にID.4/ID.5(ID.4のクーペSUV版)に設定された「GTX」グレードが、フォルクスワーゲンが“プレミアムリムジン”と表現するID.7にも設定されることとなった。詳細は明らかではないが、欧州での発表時には、ID.7の欧州仕様の基本スペックとともに公表されるはずだ。 ID.7の概要を確認しておくと、IDシリーズのトップモデルとなるID.7は約5mの全長を与えられ、フォルクスワーゲンの既存車種ではパサート・クラスとなるモデルである。一見すると“セダン”とも思える「ID.7」は、5ドアのボディに長く伸びたルーフなどエアロダイナミクスが煮詰められ、CD値は約0.23に抑えられている。 ID.7も他のIDモデルと同様に、フォルクスワーゲンのEV専用プラットフォームであるMEB(モジュラー・エレクトリック・ドライブ・マトリックス)を基本に、後輪を駆動する。 ID.7で注目すべきは、新設計の永久磁石式同期モーターを採用することだ。後軸用モーターは“APP550”と呼ばれ、技術面での新機軸が取り入れられている。 この新型モーターでは、巻き線の有効数を増加させ、断面の有効部を拡大したステーター(固定子)を採用。ローター(回転子)は、より高い負荷容量を持つ強力な永久磁石と高い負荷に耐えうるよう設計され、増加したトルクに対応したという。熱管理面でも、電動オイルポンプを省略するなどの効率化が図られた。 最高出力は210kW(286ps)、最大トルクは約550Nmを発生するとされ、ロングドライブを可能とするため、最大約200kWの充電施設に対応可能としつつ、WLTPモードで約700kmの一充電航続距離を実現したという。なお、車載バッテリーについては複数の仕様を用意するとしかコメントされていない。 インテリアではタッチ操作式の15インチ・ディスプレイを設定するなど、シンプルな仕立てとなっており、総じて快適性の確保と余裕のある長距離移動を実現したとされる。

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TEXT:岩尾 信哉
次期MINIの3ドアボディの電気自動車仕様、「クーパー・エレクトリック」がティザー公開

BMWはMINIブランドに関して、去る4月に新型「カントリーマン(日本名:クロスオーバー)」のカムフラージュされた車両とスペックの概要の披露に続き、5月初旬に新型MINIの3ドア仕様の電気自動車(EV)をティザー公開した。発表が近づきつつある次期型MINIについて、3ドアBEV(バッテリー式電気自動車)である「クーパー・エレクトリック」を中心に、限られた情報から探ってみる。 EVであることを明確に表現 今回の発表では、BEVとなる3ドアMINIの呼称として「クーパー・エレクトリック」の名が与えられることが明らかにされた。これには現行の3ドアBEVである「クーパーSE」のような単一グレード(先頃発表されたコンバーチブルを除く)ではなく、後述するようにパワーと航続距離の違いによって2グレードを設定予定であることに起因するのだろう。 現行型(残念ながら日本未導入のままだが)での呼び名である「クーパーSE」の「E」は「ELECTRIC」を意味するとはいえ、多少のわかりにくさを補填する意図も感じられる。MINIの3ドアEVとして、“クーパー”というスポーティさをイメージさせる名を残すとともに、電気自動車であることを明示するために「エレクトリック」の呼称を加えたに違いない。 2020年に現行MINIに加えられたBEVである「クーパーSE」は、2022年には前年比25.5%の販売台数を達成し、4万3,000台が世界で販売された。現状ですでに路上のMINIの5台に1台が電動化モデルということになる。 2030年までにEV専売ブランドとなるMINIであれば、今回加えられた「エレクトリック」の名も、いずれは取り除かれるのかもしれない。 MINI初のドイツ生産モデル オリジナルから続くコンパクトカーとしての成功を受け継ぐ3ドアMINIの中で、BEVとして登場する「クーパー・エレクトリック」は、5代目(オリジナルミニからのカウント)となる次期MINIのティザー的役割を果たすことになる。 新型MINIに関する情報では、BEVの生産工場の変化が挙げられる。MINIの生産拠点といえば、60年以上の歴史を持つ英国オックスフォード工場が有名だ。去る3月には3ドアMINIの100万台目を世に送り出している。 いっぽう「クーパー・エレクトリック」は、生産工場をBMWのドイツ・ライプツィヒ工場として、5ドアBEVである新型カントリーマンとともに、MINI初のドイツ生産モデルとなる予定だ。 クリーンエネルギーによって稼働するなど大規模投資が実施された同工場において、BEVである2種類のMINIが、BMWグループとして初めてBMWの1/2シリーズなどと同じ生産ラインで混流生産される。すなわち、次期型のカントリーマンと3ドアのフル電動MINIはプラットフォームを共用することを意味する。

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TEXT:岩尾 信哉
「データサイエンス」や「AI」がEV普及を促進。DeNAが提案する電気自動車の効率的運用

株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)は3月末に都内において、メディア向けに電気自動車(EV)に関する運用時のデータ活用と流通の革新について、メディア向けのラウンドテーブルを開催した。今回の内容として、DeNAはEV普及やカーボンニュートラル実現に向けたデータ活用に焦点を当てて解説。同社が法人のEV普及を促すために開発した、EVの実用航続距離や導入効果予測を“見える化”する、EV転換シミュレータ「FACTEV(ファクティブ)」を、オートリース会社向けに試験提供を開始したことを発表した。 EV普及の現状と課題 今回のラウンドテーブルでは、日産自動車やフォーアールエナジー株式会社(日産傘下のバッテリーに関するリサイクルなどの活用を図る事業に取り組む企業)などでEVの開発に携わってきたDeNAフェローの二見 徹氏が解説を行った。同氏は2000年以降は日産リーフ向けICTシステム、自動運転、コネクテッドカーに関わる技術戦略、研究戦略に従事した経験をもつ。 まずはDeNAが考えるEV市場の状況説明からトピックを拾うと、⽇本市場においてEV普及を阻害する課題についてポイントとなるのは、価格、航続距離、バッテリー寿命、充電インフラなどが挙げられた。 具体的には、日本におけるEV乗用車販売比率(2022年1月〜12月)は1.42%(※1)にとどまり、EV普及で先行する北米、欧州、中国に大きく差を付けられており、EV普及を阻害している主な要因として「価格(の高さ)」、「航続距離(への不安)「充電インフラ(不足)」が指摘されている。 EV普及を阻害する3大要因 「価格」については、近年、軽自動車のEVや一部の輸入車EVを中心に低廉化が進み、補助金を活用することでガソリン車並の価格で購入可能な車種が登場している。「充電インフラ」についても、急速充電器の設置に対して国の補助金が増額されるなど、徐々に拡充しているという。 いっぽう「航続距離」は、バッテリー容量大型化などにより、徐々に長距離走行も可能になっているものの、使用環境や運転の仕方、用途などにより、実際の航続距離(実用航続距離)は大きく変動する。 このため、顧客ごとに異なる実用航続距離をカタログ航続距離(JC08モードやWLTCモードなど)から予測したり、EV導入後の運用イメージ(途中充電の要否、頻度など)をEV導入前に把握することは困難だった。 ※1:出典:一般社団法人 日本自動車販売協会連合会 「燃料別販売台数(乗用車)」 解説の中では、EVの「価格」は2025年にはガソリン⾞ハイブリッド⾞と同等程度まで下がると予測されるが、「充電インフラ」の拡充が⼤きく遅れている⽇本で、EV普及のボトルネックとしては「航続距離」に対する不安が挙げられている。 このように、DeNAとしてはEV普及を阻害する3大要因として、価格の高さ、充電インフラの整備不足、航続距離の短さを指摘する。 いっぽうで、データの活用でEVの導入判断が促進されて、EVがスマートフォンと同様にクラウドと接続されることで、車両の稼働率を向上させ、利用寿命を伸ばせる可能性があるという。 さらに、EVをクルマという狭い視野でとらえるのではなく、データ連携基盤を含めたより大きなエコシステムとしてとらえることで、サーキュラー・エコノミーなど、革新的な流通の構築も可能になるとDeNAは主張する。

TAG: #DeNA #EV転換シミュレータ
TEXT:岩尾 信哉
ハイパフォーマンスかつスタイリッシュな電気自動車、 ポールスター4が上海国際モーターショーにて発表

去る4月に中国で開催された上海国際モーターショーにおいて、ボルボ・カー(以下、ボルボ)は、電気自動車(EV)専用のハイパフォーマンスカー・ブランドであるポールスターの新型SUVモデル「ポールスター4」を発表した。 ポールスターの成り立ち 現在ボルボは、ジーリー・ホールディング・グループ(浙江吉利控股集団)傘下にあり、ジーリー・オート(吉利汽車、以下吉利)、ボルボ、ボルボのEV専用ブランドのポールスター、吉利のLynk&Coの各ブランドに、共同出資するかたちで業務提携している。 ポールスターは2000~2010年代にボルボのモータースポーツでの活躍を支えた後、2017年にハイパフォーマンスを訴えるEV専用ブランドに生まれ変わった。現在のポールスターは過去から引き継がれてきたスポーツ性を備えつつ、独自の個性をもつブランドとして成立している。 ポールスター・モデルの成り立ちは、近年では吉利とボルボの協業によって変化を続けている。現状で吉利グループ内のEV専用プラットフォームは、吉利がSEA(サステナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャー)、ボルボがSPA2(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー2)が挙げられる。 ポールスターでは、クーペセダンEVのポールスター2(2019年発表)が広くボルボ車で使用されてきたCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)を採用する。続く2021年に発表されたラージSUVのEVであるポールスター3は、ボルボ・ブランドのEX90と新世代プラットフォームであるSPA2を共有する。対して、最新モデルであるポールスター4は吉利が開発したSEAプラットフォームを使用するなど、吉利とボルボでの使い分けが進められている。 ポールスター4は「SUVクーペ」と表現 ポールスター4はポールスター3に続く2番目のSUVモデルとなり、ラインナップとしては既存のポールスター2とSUVのポールスター3の中間に位置づけられる。クーペライクなSUVというカテゴリーはすでに群雄割拠の体をなしているが、ポールスター4はデザインをより斬新な仕立てとしていることが特徴といえる。 流麗なプロファイルを備えるポールスター4のボディ仕様を確認すると、全長4,839mm、全幅2,139 mm、全高1,544 mm。 ホイールベースを2,999 mmとして、欧州のDセグメントに位置するボディサイズを生み出した。 ポールスター3とスペックを比べてみると、ポールスター4はより小柄といえる。ポールスター3は、全長4,900mm、全幅:2,120mm、全高1,628mm。ホイールベースが2,985mmとなり、ポールスター4はよりSUVらしいポールスター3よりも全長が短く、全高は低く抑えられたにもかかわらず、ホイールベースが長く採られていることが、より伸びやかなボディラインを形成することに貢献している。 グリルレスのフロントデザインはポールスター・モデルに共通のアイテム。「スマートゾーン」と呼ばれる、シャープな形状のヘッドライトの間の部分にはレーダー/カメラが内蔵される。いっぽうで、ポールスター4には大胆にもルーフ部分をボディ背後にまで延長したうえでリアウィンドーを廃して、ルーフ全体におよぶグラスルーフを与えた。フルグラスエリアといえるルーフ部は、電子制御調光機能も備えている。このルーフデザインにより、ポールスター4は、エアロダイナミクスの向上を含めた美麗なスタイリングを成立させることに成功している。 ボディのボリューム中心を前方に設定しているため、後席空間の不足が懸念されるが、後席位置をを低めて、繭に包まれたような感覚を与えたとポールスターは主張する。 インテリアでは、持続可能性の確保への取り組みを進めている。内装材としてニット素材の100%リサイクルされたPET(ポリエチレンテレフターレート)表皮と「マイクロテック」と呼ばれるバイオ素材を設定。カーペット素材にもリサイクルPETなどが使用される。ドア内装パネルにはNFPP(ナチュナルファイバーポリプロピレン:木材繊維強化再生PP)製として、バージン材使用を50%以下としつつ、40%の軽量化を実現したという。

TAG: #SUV #ポールスター4 #上海モーターショー
TEXT:岩尾信哉
トヨタの研究開発会社「ウーブン・バイ・トヨタ」、電気自動車開発を含む事業内容を発表

トヨタ自動車は2023年4月11日のプレスリリースにおいて、去る2月に「ウーブン・プラネット・ホールディングス」が社名を変更して生まれた「Woven by Toyota(ウーブン・バイ・トヨタ)」のグループ内での役割を明らかにした。 「ウーブン・バイ・トヨタ」は、トヨタのモビリティ技術を開発する子会社であり、「安全でスマートな人に寄り添うモビリティをすべての人に届ける」ことを目的として掲げている。具体的には、ソフトウェア・プラットフォーム「Arene(アリーン)」の研究開発、安全を第一においた自動運転技術、現在2025年の一部実証開始を目指して静岡県裾野市に建設中のモビリティのためのテストコース「Woven City(ウーブン・シティ)」を通じて、「人々と社会に移動の自由と安全、幸せを届ける」としている。今回の発表を機に、「ウーブン・バイ・トヨタ」の概要について解説する。 新体制発足に伴う社名変更 「ウーブン・バイ・トヨタ」は、2018年に東京で設立された「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)」を引き継ぐ企業である。TRI-ADは、自動運転技術のソフトウェア開発の企業として、トヨタ自動車、アイシン、デンソーが共同出資して誕生。米国におけるトヨタの自動運転やAI開発などの将来技術の研究開発拠点であるTRI(2016年設立)に対して、より現場に近い業務を行う日本側の開発拠点とされている。設立当初は、広く自動運転などの技術や知識を備える企業・人材を集めるという意図を含めて、「トヨタ」の名を冠さないことも新鮮な印象を与えていた。 その後TRI-ADは、2020年に持ち株会社として「ウーブン・プラネット・ホールディングス」として社名変更を受け、2021年以降は投資ファンドである「ウーブン・キャピタル」を含む4社で構成されるようになった。 そして今回、トヨタの新体制発足をきっかけとして、同社は「ウーブン・バイ・トヨタ」として新たにスタートすることになった。なお、同社のCEO(最高経営責任者)はジェームス・カフナー氏が継続してその役職を務めている。 あえてBEV開発に言及 先に触れた4月11日の発表内容を見ると、事業内容の説明にこれまで見られなかったBEV(バッテリー型EV)に向けた取り組みが加えられていることがわかる。従来はTRIと旧TRI-ADでは、自動運転と水素技術への取り組みが主な研究開発として主張されてきた印象があった。実際、TRI-ADは発足当初の目標として、「自動運転に関連する新しい技術と、先進的で安全なシステムを世界中の人々に届けること」を掲げていた。 「ウーブン・バイ・トヨタ」も、トヨタの佐藤恒治社長が先に発表した内容に基づき、トヨタの次世代モビリティに関する商品・技術開発を支える企業として、企業名に再びトヨタの文字が加えられてスタートすることになった。 確認しておけば、今回の発表リリースでも、「ウーブン・バイ・トヨタ」はトヨタが掲げている「トヨタモビリティコンセプト」、すなわちクルマの価値の拡張、モビリティの新領域への拡張、モビリティと社会システムとの融合を進めるとしている。そのうえで、「トヨタの先進的なBEVを含む次世代車の開発」という新たなテーマを加えたことは、佐藤新社長が就任発表時に打ち出したBEV開発推進の方針を受けての表明といえる。  

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TEXT:岩尾 信哉
EU(欧州議会)、脱炭素に向けて方針転換 2035年以降、合成燃料利用によりエンジン車の新車販売が可能に

欧州連合(EU)の欧州委員会とドイツ政府は3月25日、これまでにEU議会が採択していた2035年でエンジン車の新車販売を禁止する法案について、2035年以降も条件付きで内燃機関(エンジン)車の新車販売を認めることで合意したと発表した。 さらに続く28日に同委員会はエネルギー相の閣僚理事会を開き、2035年以降も「e-fuel」と呼ばれる合成燃料を使用する場合に限り、エンジン車の新車販売を認めることで正式に合意した。 EUは当初、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス削減策の一環として、ハイブリッド車を含むすべての内燃機関(エンジン)車を禁止する方針だった。いっぽうで、大規模な自動車産業を抱えるドイツを中心にイタリア、ポーランドなどが反対の意を表明していた。 継続してきた欧州委員会とドイツとの協議 事の経緯を辿っていくと、欧州委員会は2021年、「2035年以降のエンジン車の新車販売禁止」に関して、温室効果ガスの排出削減に向け、ハイブリッド車(HEV)を含むエンジン車の販売を事実上禁止する法案を発表した。EU加盟国と主要機関が2022年に政治的に合意、欧州議会が同年2月に法案を採択したことで、加盟国の正式承認を残すのみとなっていた。 いっぽうで、主要な自動車メーカーが多数存在するドイツが雇用などへの影響を懸念し、承認手続きの最終局面で反対を表明。欧州委員会との協議を続けていた。ここに至って今回の協議の結果、地球温暖化対策としての世界的な脱炭素化に向けて、電気自動車(EV)の普及をリードすることを狙っていたEUは、方針転換を迫られることになった。 なお、今回の合意について具体的な内容は明らかになっておらず、今後、他のEU加盟国も交えた正式な手続きの中で示される予定だ。

TAG: #内燃機関 #合成燃料
TEXT:岩尾 信哉
フォード、電気自動車SUV「エクスプローラー」を発表。フォルクスワーゲンとプラットフォームを共用

フォード・モーター・カンパニー(以下、フォード)は3月21日、欧州フォードとして初のバッテリー電気自動車(BEV)となる、新型「エクスプローラー」を発表した。エクスプローラーといえば、北米市場では大量に販売されるミドルクラスSUVとして知られたモデル。今回発表された新型は、SUVのBEVとして登場することになった。 欧州で開発・生産されたSUVのBEV 欧州でのフォードは、北米市場でのラインナップとは異なるモデル、たとえばコンパクトカーのフィエスタやC/Dセグメントのフォーカス、SUVのクーガなどを手がけてきた。BEVに関しては、北米ではF-150ライトニングやマスタング・マッハ-Eを市場投入しているが、欧州マーケットでは初のBEVとなる。 ここ数年フォードは、フォルクスワーゲンとの間で、2018年に商用車、2019年に自動運転車両と電気自動車(EV)分野について業務提携を締結した。さらに2022年には電動モビリティに関するパートナーシップを拡大する旨を表明。そして今回登場した新型エクスプローラーは、両社の取り組みとして生まれた欧州フォードとしての初の成果となる。 ミドルクラスSUVとしてBEVとなったエクスプローラーは、フォルクスワーゲンからBEV用プラットフォーム「MEB」の供給を受け、欧州で開発され欧州で生産されるBEVモデルとなった。 欧州の開発・生産拠点であるドイツ・ケルンのフォード・ケルンEVセンターが手がけた新型エクスプローラーに続き、欧州フォードは2024年には2車種目となるクロスオーバーBEVをケルンで生産するとされている。

TAG: #SUV #エクスプローラー
TEXT:岩尾 信哉
BMWグループ 年次総会を開催 新型5シリーズに電気自動車仕様「i5」を導入

BMWグループは3月15日(現地時間)、独ミュンヘンにおいて「BMWグループ・アニュアルカンファレンス2023」を開催、財政状況の報告とともに、今後のモデル展開などについて明らかにした。ここでは電気自動車についての話題を中心にまとめてみる。 電気自動車の納車台数は増加 2022年のBMWグループ全体での総納車台数は、前年を4.8%下回る239万9,632台だった(前年同期:2,521,514台)。半導体部品の供給難、サプライチェーンの混乱、新型コロナによる中国のロックダウンなどの影響を受けたとされ、このうち電気自動車(バッテリーEVとプラグインハイブリッド:PHEV)は、合計で納車台数の18.1%(433,792台/前年比32.1%増)を占めた。BMW AG取締役会会長であるオリバー・ツィプセは「2023年は電気自動車(BEV)のさらなる成長を目指しており、総販売台数の15%を占めると見込んでいます」と述べた。 BMW「i5」など、各ブランドのBEV導入予定 注目の新型車導入スケジュールについて、BMWグループは2023年10月に新型5シリーズ・セダンを発表することを明らかにした。さらにPHEV、48V仕様エンジンの各モデルを設定するとともに、BEVとして「i5」を新たに導入する。i5はパフォーマンスモデルを担当するBMW M社が開発を手がける。なお、新型5シリーズにはステーションワゴンである「ツーリング」が2024年春に発表予定とされ、i5にも設定されることになる。i5はiXと合わせて、ドイツ・ディンゴルフィング工場で生産される。加えて、近い時期に発表予定のBEVの新型車としては、2023年末にコンパクトSUVの「iX2」が市場に投入される。 10年以内に電気自動車のみのブランドとなることが明らかにされているMINI とロールス・ロイスについても触れておこう。2030年代初頭にはオールEVブランドになるとされるMINIでは、ミニ・カントリーマン(日本市場名:クロスオーバー)が、ICEモデルとともにBEVを導入予定だ。さらに昨年発表された「エースマン・コンセプト」の量産型が新たなシリーズモデルとして今年加わる。ロールス・ロイスでは、2022年に発表された同ブランド初のBEVである新型車「スペクター」が今年マーケットに提供される。 BEVラインナップのさらなる増強 BEVの販売強化は欧州の自動車メーカーとして必須の課題だ。BMWグループはすでに12種類のBEVをラインナップしているが、今後数年間はBEVが急成長を遂げると予測。2024年にグループ内において新たに5車種のBEVを発表するとしている。 BMWグループとしてのBEVの総納車台数は、昨2021年から倍以上となる21万5,000台を達成。2023年には総納車台数の15%がBEVで占められ、2024年には少なくともグループでの新車の5台に1台がBEVとなり、2025年には同じく4台に1台、2026年には3台に1台程度がBEVになると見込んでいる。2030年に向けて、同年までに通算1,000万台のBEVを顧客に納入することを目指す。

TAG: #BMW #i5 #iX2 #iX5
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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