#トランスミッション
TEXT:琴條孝詩
EVって変速機がないって聞くけどなんで? じつは変速機がないことによる多大なメリットが存在した

一般的にEVには変速機が搭載されていない 電気自動車(EV)に興味をもち、試乗した人の多くが最初に気づくのは、アクセルペダルを踏むだけでスムースに加速し、アクセルを踏んだぶんだけスピードが出るという感覚だ。内燃機関(ICE)車で慣れ親しんだ、あのギヤチェンジの手応えや、エンジン回転数の変化に伴う音の変化もない。「クルマを運転する醍醐味がない」と感じる方も多いだろう。しかし、そもそもEVの大半には変速機(トランスミッション)が搭載されていない。なぜEVには変速機が搭載されていないのだろうか? <モーターの特性が変速機を不要にする> EVに変速機が搭載されていない理由は、電気モーターの出力特性にある。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、特定の回転域でしか最大トルクを発生できない。低回転域ではトルクが不足し、高回転域では出力が頭打ちになる。この狭い「特定の回転域」を有効に使うために、複数のギヤ比をもつ変速機が必要となる。一方、電気モーターは停止状態から最大トルクを発生でき、幅広い回転域で一定の出力を維持できる。つまり、0回転から最高回転まで、どの回転数帯でも十分な駆動力(トルク)を発揮できるのである。 ただし、モーターの回転数をそのままタイヤに伝えると、回転数が高すぎて実用的な速度にならない。そのため、多くのEVでは「減速機(リダクションユニット)」と呼ばれる単段のギヤを備えている。この減速機は、モーターの回転数を適切に減速してタイヤに伝える役割を果たす。しかし、これは変速機とは異なり、複数のギヤ比をもたない単純な構造だ。 EVは、この固定ギヤ比の減速機だけで、発進から高速走行まで多くの走行シーンをカバーできる。たとえば、テスラのモデル3は約9:1の固定減速比を採用しており、これひとつで時速0kmから200km超まで対応する。ICE車なら5速や6速、あるいはATでは8速以上の変速機が使用されているが、これらの必要な速度域を、たったひとつのギヤ比でこなしてしまうのである。

TAG: #トランスミッション #変速機
TEXT:御堀直嗣
EV時代は変速機が不要になるからトランスミッションメーカーが危ない……は間違い! EV時代に重要になる「精密な歯車」の技術

モーターは瞬時に最大トルクを発揮できる 電気自動車(EV)に、変速機(トランスミッション)は基本的に必要ない。その理由は、モーターのトルク特性にある。 EVに限らず、家庭電化製品などで使われるのを含め、モーターには電気を入れた瞬間から最大トルクを出せる能力がある。ただし、電気の流れを少なくすれば、わずかなトルクを出すだけなので、その電流量を調整すれば、EVの場合、発進から加速へかけて滑らかな動き出しと速度の増加がかなう。 モーターのトルク特性は一般にいわれるフラットトルクで、回りだしたところから高いトルクを出し続けることができる。 ではエンジンは、なぜ変速機が必要なのか? ガソリンでもディーゼルでも、内燃機関(エンジン)は、回転のし始めのトルクがきわめて小さい。その力だけでは、とてもクルマを動かすことができないのだ。 ちなみに、手動変速機(マニュアルトランスミッション)のクルマで、上の段のギヤで発進させようとすればエンスト(エンジン停止)してしまうだろう。それほどエンジンの回転しはじめの力は弱いのだ。それを補うため、変速機が不可欠になる。 小さな歯車と大きな歯車を組み合わせると、その歯車の直径の差だけ、エンジンの力を増大させることができる。つまり、エンジン車は、エンジンの力と歯車の直径の比率のふたつを足し合わせてはじめて発進できるのだ。 それだけでなく、じつはもうひとつ、力を増大させる機構がある。それがデファレンシャルに組み込まれた減速機だ。 エンジンの力を変速機で増大させたあと、駆動輪の手前にあるデファレンシャルでもう1回減速している。これを、諸元表などでは最終減速比と記している。 つまり、エンジン車は、変速機と、デファレンシャルに一体となった最終減速比の二段階の減速を経て、ようやく駆動輪をまわし、発進できる回転力を得ているのである。

TAG: #トランスミッション #変速機
TEXT:大内明彦
「EVはトランスミッション不要」って言われるけどなぜ? クルマによっては必要なケースも!

基本的にEVにはトランスミッションがない 電気モーターによるEVと内燃機関(ガソリン、ディーゼル)を使うこれまでの自動車とでは、動力のメカニズムが根本から異なっている。その違いを挙げていけばキリはないが、パワートレイン系の違いも顕著である。エンジンとトランスミッションで構成される内燃機関に対し、EVのそれは非常にシンプル、軽量コンパクトな仕上がりだ。 xEVの場合、軽量コンパクトな電気モーターがひとつとモーターの回転数を駆動力として活用するための回転数調整装置(減速機=リダクションユニット)が設けられているだけだからだ。EVには複数段の変速比をもつ内燃機関車の変速機(トランスミッション)がない。なぜ? それは電気モーターの回転特性によるものだ。 電気モーターは、回転立ち上がり時(起動時)にトルクが最大になるという特徴がある。要するに、質量のあるもの(自動車など)を動かす際、いちばん力(駆動力)がほしい場面で最大の力を発生する特性を備えているのだ。 これに対し、内燃機関は低速回転時にトルクの絶対値が小さく、この小さなトルクを十分な駆動力に変換する装置が必要となる。これが変速機(トランスミッション)で、伝えるエンジン回転数を減速する代わりに駆動力を増大。これで動き始めの駆動トルクを確保するわけだが、減速しているぶん(減速比)だけエンジン回転数は上昇することになる。その結果、走行低速時にエンジン回転数が上限に達してしまい、エンジン回転と駆動輪の変速比を高める必要性が生じてくる。このため、最大の変速比(ローギヤ)から次の適当に高められた変速比(セカンドギヤ)に切り替えなくてはらない。

TAG: #トランスミッション #変速機
TEXT:福田 雅敏
トランスミッションを装備したEVは今後増えるか……現役EVエンジニアが解説するギヤ付きEVの意外な難点[THE視点]

近年発売されたEVや今後発売されるEVには、これまで不要と言われてきた「トランスミッション(変速機)」搭載車が、少しではあるが見られるようになってきた。中には、わざわざクラッチを付けた3ペダルのマニュアル・トランスミッション(MT)を搭載したEVもある。 車好きにとって、昔ながらの3ペダル式のトランスミッションは特別な存在だろうと思う。EVにもそれが搭載されれば、より運転が楽しくなるのではないだろうか。しかし実際は、EVにトランスミッションを搭載するのは簡単ではない。現役EV開発エンジニアの視点から、EVのトランスミッション搭載を考察してみたい。 マニュアル・トランスミッションを採用した趣味性の強いモデル 「トヨタ AE86 カローラ・レビン」 今年の「東京オートサロン2023」では、トヨタが「AE86型カローラ・レビン」のEVを展示していた。この「AE86」には、モーターにMTが直結されていて、クラッチペダルやシフトレバーがそのまま残っており、本来ならそれらが必要のないEVとして一種の違和感を覚えた。MTとした理由を聞くと、「EVでもクラッチ操作やシフト操作が楽しめること」とのことだ。 また昨年、トヨタがEV用のMTを開発中と話題になった。しかし実際はシフトレバーとクラッチペダルは付いているものの、物理的なクラッチとトランスミッションは非搭載という。これはMT感覚も味わえるセミATに近いかもしれない。逆に言えば、クラッチ操作を必要としないDCTのような感覚も再現可能かもしれない。 シフトレバーやクラッチペダルを設けたということは、アナログ的な操作することに価値を見出した今回の「AE86」に通じるものがあるが、トヨタの場合は、トランスミッションが必要か否かというよりは、「EVにもMTの操作感の楽しみを与えたい」というファンの部分を優先しているようだ。 「ジープ・マグニトー」 ジープも先日、オフロードEVのコンセプトカー「マグニトー」の最新版「マグニトー 3.0」を公開した。2021年に第1型が発表され、今回のは第3型となる。 「マグニトー」は2ドアの「ラングラー」にモーターを搭載したもので、モーターに6速MTのトランスミッションと、さらにクラッチを備えた独自の電動パワートレインを採用している。今回の「3.0」には6速MTに最高出力484kW(659ps)/最大トルク1,152Nm(117.5kgm)の強力なモーターが組み合わされた。 「マグニトー」のコンセプトは、「完璧なロッククライミング力を備えたEV」。岩場などでの強力な登坂能力と一般道での快適な走行能力を両立するため、MTの搭載を選択したのだろう。もちろん「マグニトー」は趣味の要素が強い車でもあるため、遊び心を表現する意味もあると思う。 道路環境や仕事環境に合わせた例 「ポルシェ・タイカン」 一方、MTではないがトランスミッションが付いているEVもある。その代表的なものが「ポルシェ・タイカン」である。フロントは変速なしだが、リアには自動変速のトランスミッション(2速)を採用している。 これは発進加速性能を高めると同時に、アウトバーンを走るときなどの最高速を引き上げるための措置で、スポーツカーのイメージが強いポルシェが名折れしないよう「タイカン」の性能を高めるために必要不可欠だったのだろう。 なお、アウディも、EV向けトランスミシッションの採用に積極的なメーカーである。「タイカン」とプラットフォームを共用する「e-tron GT」だけでなく、2023年後半から市場投入予定のEVにもトランスミッションを搭載すると報じられている。 ちなみにだが、テスラは初代「ロードスター」で2速のトランスミッションを採用しようとしたが、開発がうまくいかず断念した経緯がある。その代わりに、モーターの性能を上げたのだろう。 EVトラックの「ボルボ VNRエレクトリック」 トランスミッションは実用車だけではなく商用車への搭載も見られる。海外では大型トラックのEV化が進んでおり、ボルボ・トラックス・ノースアメリカのEVトラック「VNRエレクトリック」はトランスミッションを採用している。 同車はいわゆるトラクターヘッドで、連結時の「連結車両総重量」(GCW)は41トンあり、2速のトランスミッションを備えている。搭載しているモーターは定格出力400kW(544ps)/最大トルク5,500Nm(560kgm)というもの。おそらくだが、トラクターヘッドのみの走行をした場合、牽引時との重量差が大きく、1速だけではギクシャクしてしまうだろう。そこで2速とすることで、牽引時と空荷時の走行を両立できるようにしているのではないだろうか。 コストダウンを目的とするスズキ また最近では、スズキがカナダのスタートアップ企業「インモーティブ社」と提携して、EV向けの2速のトランスミッションの開発に着手している。 しかしポルシェのそれとは方向性が異なり、「高効率なモーター駆動による航続距離の延長や、電動駆動ユニットの小型化によるコスト削減」を開発の理由としている。モーターを小型化してコストを下げつつ、トランスミッションでトルクを増強するなど性能をカバーすることが目的のようだ。

TAG: #THE視点 #テクノロジー #トランスミッション

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