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EVならではの特性により性能を向上
近年、電気自動車(EV)において、バッテリー容量が増えていないにもかかわらず、航続距離や充電性能が向上する事例が増えている。こうした現象は、従来の内燃機関(ICE)車の常識とは異なるEVならではの特性に起因している。EVは、ハードウェアを変更せずとも、ソフトウェアの改良や制御技術の進化によって、性能を大幅に向上させることが可能なのである。ここでは、バッテリー容量が同じであるにもかかわらず性能が進化するメカニズムについて、具体例を交えて解説しよう。
<航続距離を伸ばすBMSの進化>
EVの航続距離は、単にバッテリー容量の大小に左右されるわけではない。重要な役割を担うのがBMS(Battery Management System:バッテリーマネジメントシステム)だ。BMSは、バッテリーセルごとの電圧や温度、SoC(State Of Charge:充電状態)を監視し、安全かつ効率的にエネルギーを活用できるよう制御を行っている。
近年、BMSのアルゴリズムが高度化し、より緻密な制御が可能となっている。その結果、同じ容量のバッテリーからより多くのエネルギーを安全に引き出すことができ、航続可能距離の延伸につながっている。
たとえば、初期のBMSではバッテリーの劣化や過放電を防ぐため、使用可能な電圧範囲を狭い領域に制限していたが、走行データの蓄積によって安全性が実証された場合、使用可能なバッテリー容量を拡大することが可能となる。これにより、ソフトウェアのアップデートのみで実質的な性能向上が実現されるケースも少なくない。
<空力性能と走行効率の改善による進化>
EVの効率は車体設計によっても左右される。なかでも空気抵抗(Cd値)の低減は、航続可能距離向上に極めて有効である。フロントフェイスの形状見直し、アンダーボディの平滑化、ホイールデザインの最適化など、外観上は小さな変更でも、高速走行時の空力性能に大きな影響を与える。
たとえば、テスラModel Sのドアハンドルはドア面とフラットになるフラッシュタイプが採用されている。また、ボディサイドのキャラクターラインを見直すだけで空力係数(Cd値)が改善することもある。これらの変更は、デザイン面での微調整のように見えるが、空気抵抗を数%削減することで、とくに高速道路走行での航続距離に直接反映される。標準で装着されるタイヤサイズも小さいほど航続距離が延びるので、外観を損なわない程度の小さなタイヤサイズを装着している。
加えて、モーターやインバーターといったパワートレインの効率化も見逃せない。たとえば、インバーターに従来のシリコン(Si)ではなく、シリコンカーバイド(SiC)半導体を採用することで、電力変換効率が向上し、発熱が抑えられる。この結果、冷却に要するエネルギーを削減でき、走行効率が向上するのである。