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充電時間への影響は限定的
<コスト効率を重視した設計思想>
そもそも急速充電器を設置するためには、充電器本体の費用に加えて、受電設備や工事費用など、多額の投資が必要となる。たとえば、150kW対応の急速充電器の場合、本体価格だけでも数百万円が必要で、非常に高額だ。
仮に、同時に充電を行う際も150kWを維持しようとすれば、より大容量の受電設備が必要となり、設置コストが大幅に上昇する。一方で、実際の利用シーンにおいては、つねに2台の車両が同時に最大出力で充電されることはまれだ。このため、設備容量を抑えることで初期投資を抑制し、充電インフラの普及を促進しようとする狙いがあるのである。
<充電時間への実質的な影響は限定的>
90kWまでの出力制限は、一見すると大きな性能低下のように思えるが、実際の充電時間への影響は限定的である。これは、EVのバッテリー特性に起因している。
リチウムイオンバッテリーは、充電残量が80%を超えると急速に充電速度が低下する特性をもつ。そのため、多くのEVユーザーは、長距離移動の際であっても、バッテリーを80%程度まで充電して次の目的地に向かうことが多い。つまり、高出力が必要となるのは、充電開始直後から中盤にかけてであり、90kWであっても十分な充電速度を確保できるのである。
さらに、最新のEVは充電効率の改善が進み、実際の充電時間は数年前のモデルと比較して大幅に短縮されている。適切な条件下であれば、5分程度で100km以上走行可能な充電量を確保できるEVも登場している。
今後、充電インフラの整備がさらに進むにつれて、より高出力な充電器や、出力制限のない充電設備も増えていくことが予想される。しかし、現状の仕様は、コストと利便性のバランスを考慮した合理的な選択といえるだろう。インフラ整備のスピードを維持しながら、徐々に高性能化を図っていく。このような段階的なアプローチが、EVの普及促進には不可欠なのである。