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数字だけ高スペックでも実際の充電は遅い! EVの進化についていけない急速充電器の現状


TEXT:高橋 優 PHOTO:EV NATIVE/THE EV TIMES
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クルマだけでなく充電器も高性能になることが重要

とくに日産やトヨタに関しては、2028年度までに全個体電池を搭載したEVを発売するとアナウンスしながら、その充電時間が3分の1になると発表済み。つまり、少なくとも、300kWを超えるような充電出力に対応しているものと推測可能ですが、その高速道路上に設置されている急速充電器は、基本的には最大でも90kW、しかも15分しか持続しないとなると、10年先を見据えた先行投資という観点で、極めてスペック不足感が否めません。したがって私自身、その急速充電器のスペックの低さを指摘し続けてきたわけです。

そして、そのような背景において、今回新たに明らかになってきたことというのが、そのeMPが新型急速充電器を発表してきたという点です。それが、新型マルチコネクタ充電器、通称「赤いマルチ」の存在となります。ちなみに今回の発表から、すでに設置されている200kW急速充電器については、「青いマルチ」と命名されています。

その名のとおり、今回の赤いマルチについては、塗装が赤オレンジを採用してきており、すでに設置されている150kW急速充電器と同じ配色であることで、より高性能な充電器であることを表現しています。

そして実際に、すでに設置済みの青いマルチにおいて懸念されていた充電性能の低さを改善してきました。具体的には、電源盤を追加することによって、合計400kWと青いマルチと比較して倍の総出力に対応しています。

よって、4台のEVが同時に充電した場合でも最大90kWという充電出力を持続できるようになり、これまでの懸念点でもあった、同時充電による、先着のEVの充電スピードが極端に低下するという不満を大きく解消することができるとアピールされています。

イーモビリティパワーの急速充電器

その上、これまで最大90kWという充電出力が上限であったところを、一口あたり最大150kWの充電出力にまで対応可能となったことで、単純に最低限の充電性能をキープできるようになっただけではなく、最大の充電性能についても150kW級にまで引き上げられた格好です。いずれにしても青いマルチにおいて問題視されていた点を大幅に改善してきたわけです。

また、この2024年度から設置が進んでいく赤いマルチの発表とともに、さらに既設の青いマルチについてもアップデートを行う方針も表明しています。

具体的には、ダイナミックコントロールに車両側が対応していない三菱アイミーブやステランティス系のEVなどに対して、現状では最大20kWしか割り振ることができていない状況から、それらのEVに対しても最大60kWを割り振るようにアップデートすることで、より多くのEVに対する利便性を確保します。

そして、現在の200kWに対応する電源盤に、さらに電源盤を拡張することによって、赤いマルチと同様に総出力を400kWに倍増。よって、一口あたり最大90kW、15分間で50kWに制限されるという仕様は変わらないものの、それこそ4台同時充電までは、15分間最大90kWが持続することになり、先着のEVが割を食う可能性が低くなります。

それでは、今回の新型急速充電器である赤いマルチ、および青いマルチのアップデート内容に関する個人的見解についてですが、結論から申し上げて、EVユーザーの声を拾い上げて改善してきた点は賞賛に値するものの、やはり、なぜこれを最初からできなかったのか、イーモビの経営陣についてはしっかりと考え直す必要があると思います。

私は2020年の青いマルチ発表時点から一貫して指摘し続けてきた懸念点ですが、いまから青いマルチに対して電源盤を拡張すれば、当然工事費などコストが嵩むわけであり、やはり最初の仕様設計が、充電器の耐用年数である8-10年先でもなく、数年先すらも見据えることができない、あまりにも低スペックすぎたことは明らかなわけです。

その2020年当時でも、充電出力150kW級を許容できるEVが数年後に急増することもわかっていたはずなのに、将来の冗長性を無視したかのような仕様設計は、端的に申し上げて残念であると感じます。

なんといっても、このeMPの設置する急速充電器には、我々の納めている多額の税金が投入されているわけで、最初から赤いマルチ程度のスペックの充電器を開発できていれば、青いマルチによるスペック不足による不満を被ることすらなかったわけです。

いずれにしても、私のようなど素人一般EVユーザーでさえ4年前から指摘していた内容くらいは、せめて織り込んで仕様設計を行なってほしかったと感じます。今回の反省を活かして、今後の充電ネットワークの構築計画、および次世代充電器の仕様設計に関しては、現時点のスペックではなく、数年先を見据えた冗長性をしっかりと考えるべきです。

急速充電中のテスラ

そして、今回の赤いマルチ、並びにeMPの運営する急速充電サービスに対して期待していきたい点について列挙していきたいと思います。

第一に、赤いマルチに関する懸念点というのが、おそらく空冷式の充電ケーブルを採用していることで、最大150kWという充電出力は最長15分間しか発揮できない可能性です。これでは15分経過すると充電出力が70-80kWに低下するため、充電時間が延長されます。

他方で気になっているのは、将来の冗長性として、今後さらに高性能なEVが増えてきた際に、150kW級の充電出力を流し続けることが可能な液冷式の充電ケーブルと交換することが可能なのかという点です。仮に充電ケーブルを交換可能な冗長性を確保していれば、30分間150kWを流し続けることが可能となり、それこそ2-3年後に発売される、さらなる大容量バッテリー搭載EV、もしくは3C以上という超急速充電に対応するEVについても、ある程度満足な充電スピードを得られるでしょう。

いずれにしても、150kWの15分制限については数年のうちに時代遅れになり、いまの青いマルチと同じ運命を辿ることになることから、せめて需要が大きくなれば、液冷式の充電ケーブルに交換して、150kWを流し続けることが可能となるというような余地を残しておくべきなのではないかと感じます。

次に気になる懸念点というのが、800Vシステムへの対応について、現状の認識が気になります。というのも、現時点においては、ポルシェタイカン、アウディe-tron GT、ヒョンデIONIQ5、そしてBYD Sealくらいしか800Vシステムに対応していないものの、今後ドイツ御三家については800Vシステムを全面採用してくる見込みです。その上、既存メーカーについても、同様に800Vシステムを徐々に採用するはずです。なんといっても、すでにテスラやEQSをはじめとする一部車種については、システム電圧の高さによって充電エラーが発生するケースも出てきている状況です。新規プレイヤーも含めて、この450V規制によって新型EVの導入を断念する、もしくはその性能を大幅にデチューニングする可能性があるわけです。

いずれにしても、充電器側についても800Vシステムに対応させないと、数年後までの冗長性を担保できない可能性が高いわけです。

急速充電中のヒョンデ・アイオニック5

※IONIQ5については日本以外では235kWもの充電出力に対応可能。日本では800Vの恩恵を活かせないために最大101kWに制限

 

そして、その充電器のスペック以上に改善するべきなのが、やはり充電時間制限、および充電料金の課金方法です。

まずは、1回30分間という充電時間制限であり、確かにこれまでは、充電器の数が少ない、とくに1カ所あたりの口数が少なかったことで、充電時間に制限をかけないと充電待ちが頻発していたわけです。

ところが、とくに高速道路上に関しては、口数が相当に拡充されることによって、充電待ち問題を解消するために充電時間を制限するのではなく、さらなる利便性の改善のために充電時間の制限を撤廃するべきです。いよいよ1回30分の充電時間制限を撤廃するときが来ているのではないかと感じます。

そして、それとともに重要となるのが充電課金方式です。これは時間課金システムではなく、従量課金システムを導入するべきであるということです。ただし、全面的な従量課金システムというよりは、たとえばテスラのように充電出力を何段階かに分けて、その充電出力ごとに時間課金システムを導入するのが、もっとも公平な料金徴収システムであるとは感じます。

いずれにしても、より高出力な充電器を導入すればするだけ充電サービス運営のコストが嵩むことから、より早い充電を行って、より快適に長距離移動を行いたいユーザーには、やはりそれだけの充電料金を徴収するという、公平な充電料金徴収システムを構築するべきときなのではないでしょうか?

急速充電中のBMW iX

いずれにしても、今回eMPが発表してきた新型急速充電器、通称「赤いマルチ」については、これまでの青いマルチと比較しても、その不満点を大きく改善してきている様子が見て取れます。他方で、この赤いマルチについても、15分間しか150kWを発揮できないということ、そしてそれ以上に、結局数年後に新たな充電器を開発して、しかも既設の充電器に対してコストをかけることでアップグレードするというのは、もう少し将来の冗長性を確保するという配慮が足りなかったのではないかと感じます。

その上で、充電器のスペックとともにEV充電のUX改善のために重要となる、充電時間制限の撤廃、およびプラグアンドチャージも含めた、その充電料金の課金システムについても、同時に考える時期に来ているのではないかと思います。

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