まごうことなきアルファロメオ感満載!
プレミアムコンパクトカー「ジュニア」誕生の背景
アルファロメオは自動車業界の再編が進むなかでFCA(フィアット・クライスラー・オートモービル)グループ入りを経て、現在はマセラティを頂点としプジョーやDS、フィアットが属する巨大グループのステランティスの1ブランドになっている。アルファロメオに課されたタスクは、マセラティのすぐ直下に位置し、スポーティかつラグジュアリーなC・Dセグメントの車両を、その伝統のブランドアイデンティティをもって世に送り出すことだ。
しかし、それは直近10年前後に同社の顧客となったユーザーからすれば、メーカーだけが上級へと移行し、自身は置き去られたと感じたのではないだろうか。現在のラインアップを見渡しても、そこにあるのはDセグに位置するラグジュアリースポーツセダンのジュリアとプレミアムSUVのステルヴィオだ。かろうじてトナーレが全長4.5m程度に収まり、旧来のアルフィスタの視野にも入ってきそうなものだが、どうしたって全長4.2mほどのCセグハッチバックであるジュリエッタやBセグのミト、さらに遡れば147や156といった、比較的コンパクトなボディに弾けるエンジンを搭載し、ヒラヒラと舞うように駆け抜けるアルファロメオに魅了されたファンにとっては、いくらアルファロメオに忠誠を誓ってみたとしても、やや大型過ぎて食指が動かないのではなかろうかと不安を感じていた。
しかしそのことはどうやらアルファ自身も理解していたらしい。
アルフィスタの皆様「おかえりなさい」
2023年12月に登場が予告され、にわかに色めきだっていた新型車がついに、2024年4月4日イタリア本国でベールを脱いだ。
その名も「ジュニア」。当初は、1910年にアルファロメオが創業した地である「ミラノ」を名乗っていたが、イタリア政府から物言いがついたようだ。
ジュニアは、ハイブリットとアルファロメオ初となるBEV、ふたつの異なるパワートレインをラインアップする「二刀流」で、アルファロメオが如何に「ジュニア」を重視しているかそれだけでもわかるというもの。
ボディサイズはジュリエッタとミトの中間に位置する、いわゆるBセグメント車両だ。メーカー自身がそれらオーナーの乗り換え需要を狙っているとリリース内でも明言し、「おかえりなさい」とまで言っている。もちろんライバルメーカーからの乗り換えは喉から手が出るほど欲しいだろうが、アルファロメオはエンブレムに創業の地であるミラノ市の紋章「赤十字」と、ミラノの貴族ヴィスコンティ家の紋章である「人間をくわえた大蛇」のふたつを組み合わせた、伝統と格式を重んじるメーカーだ。だからブランド再構築のなかでその立ち位置が変化しようとも、旧来のユーザーを見捨てることなどせず、再びコンパクトな「ベビーアルファ」をラインアップすることで期待に応えようというのだろう。だからこその「おかえりなさい」なのだ。
それら従来のB/Cセグ車両と異なるのはボディ形状だ。全長4170mm、全幅1780mmは一般的なBセグ車の範疇だが、全高は1500mmに達するからやや背高に構えたクロスオーバーSUV風のシルエットといえるだろう。イメージしにくければ、トヨタ・ヤリスクロスやレクサスLBXを思い出していただければいい。ほぼそのサイズ感のクルマがジュニアである。
しかし、まごうことなきジュニアはアルファロメオ伝統のスタイルをこの寸法のなかで成立させ、同時に最新テクノロジーと融合したモダナイズを施し、スポーティで「Made in Italy」らしいクルマであることを隠さない。
短いオーバーハング、力強いホイールアーチ、ジュリアTZを彷彿とさせる「削ぎ落としたテール」のデザイン、1980年代末のSZを思い起こさせる横3連のLEDヘッドライト、そして忘れてはならない盾形のグリルが織りなすデザインは、まさにアルファロメオのそれである。
インテリアに目を移しても同様だ。イタリアン家具がそうであるように、このジュニアも素材やデザイン、ドライビングに集中させてくれる操作系のレイアウトなど、これでもかとイタリア伝統のブランドであることを主張している。インストルメントパネルとそのヒストリックな「テレスコープ(望遠鏡)」デザインが、ダイレクトで視覚的なつながりを生み出し、ドライバーに運転を楽しむよう促してくる。むろんメータークラスターの中央とダッシュボード中央の10.25インチのスクリーンで、現代に求められるあらゆるインフォテイメント機能とコネクティングサービスをカバーし、快適性と安全性の向上もおざなりにしていない。
それでもエアコンの吹き出し口が四葉のクローバー、つまりクアドリフォリオを模した形状であったり、ドライビングシートがサベルト製のスポーツシートであったりと、要所にスポーティな演出が施され、徹底したアルファの世界観づくりが為されているのだから、もはや脱帽するしかない。