全固体電池で遅れをとる中国が固体電池で逆襲
そして、このL6に関してそれ以上に注目するべきは、SAICが独自開発した固体電池をL6に初搭載してくるという点です。
この固体電池に関する詳細はいまだに発表されていないものの、IMモーターが事前に小出ししてきた情報によれば、ハイニッケル正極材とシリコンベースの負極材を採用。とくに固体電解質によって正極側をコーティングすることによって、エネルギー密度を左右するニッケルの含有比率を高めることでの問題となっていた構造安定性、並びに寿命問題を解決したと主張しています。
また、固体電解質を採用することによって、正極と電解質間の抵抗値を大幅に低減することが可能となり、超急速充電についても安全性との両立が可能となったと説明しています。
よって、LS6にも採用されている準900Vシステムと掛け合わせることによって、業界でも最速クラスの航続距離と超急速充電、そして安全性と耐久性を高い次元で両立することができると主張してきているわけです。
具体的には、L6の航続距離に関しては、AWDグレードにおいてもCLTCサイクルベースで1000kmを超えてくる見込みです。現在の中国市場で発売されている、航続距離1000km越えのEVについては、Zeekr 001の1032km、GAC Aion LXの1008kmなどが存在するものの、どちらもより効率性で有利となるシングルモーター仕様であることから、L6の航続距離の長さが見て取れるでしょう。
他方で、この固体電池の詳細と比較したいのが、NIOがすでに展開している150kWhの半固体電池の存在です。NIOに関しては、この半固体電池を搭載することによって、ミッドサイズセダンであるET5の航続距離が1055kmを実現しています。
このET5については、AWDグレードであることから、IMモーターの個体電池は、まさにこのNIOの半固体電池の競合となるわけです。
このグラフは、2024年3月時点で発売されている主要なAWDグレードのEVの航続距離を示したものになります。この通り、半固体電池を搭載したET5とET7、そして今回の固体電池を搭載するL6が、競合を大きく凌駕する航続距離を実現していることが見て取れます。
また、パックレベルでの、バッテリーのエネルギー密度を比較したグラフを見てみましょう。CATLのQilin Batteryに関しては、Zeekrに採用されている140kWhバッテリーにおいて200Wh/kgという驚異的なエネルギー密度を実現しています。
他方で、じつは現在LS6に搭載されている100kWhバッテリーについては、すでに195Wh/kgという高密度化を実現済みです。
L6に導入される固体電池によって、このエネルギー密度がどれだけ高まるのか。NIOが採用する半固体電池に関しては260.9Wh/kgという、やはり頭ひとつ抜けたエネルギー密度を実現していることから、このNIOの半固体電池の実現するエネルギー密度と比較すると、IMモーターの固体電池の実力も見えてくるはずです。
また、NIOに関してはバッテリー交換に対応していることで、急速充電性能にはそこまで比重を置いていないはずであるものの、L6に採用される固体電池は超急速充電という点も売りにしています。よって、実際にどれほどの急速充電性能を実現することができているのか。LS6ですでに充電残量80%までたったの17分という驚異的な急速充電性能を実現していたものの、固体電池ではどれほどの充電時間短縮を見込めるのかに期待できそうです。
もしかしたら、AWDグレードで航続距離1000km以上を実現するEVが、充電時間15分程度で完了するなんていう時代の扉を、L6が初めて開放するかもしれません。
そして、2024年シーズンにおける中国市場については、間違いなくEVセダンセグメントがもっともホットなセグメントになるという点が重要です。具体的には、ファーウェイのLuxeed S7、その兄弟車であるExeed Sterra ES、航続距離870kmを実現するZeekr 007、その兄弟車であるGalaxy E8という2023年末から2024年冒頭に発売された4車種の存在によって、EVセダンセグメントの競争が激化。
さらに、BYDに関してもフラグシップセダンであるHanのモデルチェンジを行って大幅値下げも断行。日本でも発売予定のSealに対してもモデルチェンジを行なっており、最大で3万元、日本円で65万円程度もの大幅値下げを断行しています。
そのうえ、テスラもモデル3のモデルチェンジバージョン(いわゆるハイランド)を展開しながら、間もなくパフォーマンスグレードにもモデルチェンジが適用される見通しです。
そして、3月28日に正式発売がスタートしたのがシャオミのSU7の存在です。CATL製のQilin Batteryを採用することで、AWDグレードでも航続距離810kmを実現。エントリーグレードについてもBYD製のBlade Batteryを搭載することで700kmという航続距離を確保しています。
0-100km/h加速についても、AWDグレードの場合で2.78秒と、驚異的な動力性能を実現していることから、やはり2秒台という指標を、シャオミもしっかりとクリアしてきていることが見て取れます。
このグラフは、主要なEVセダンの、航続距離と値段設定との相関関係を示したものです。左上に行けば行くほど航続距離に対するコスパが高いことを示すわけであり、やはりシャオミSU7が驚異的なコスト競争力を実現していることがみて取れます。
※水色がベンチマークのモデル3。黄色で示されたシャオミSU7が左上に位置=コスト競争力が高いことが見て取れます。
よって、今回取り上げたIMモーターのL6がどのような値段設定を行ってくるのか。ブランド力で劣るL6については、少なくともSU7よりもグラフの左上に位置することは必須であり、20万元で700kmというラインが、価格設定におけるベンチマークとなることは間違いありません。
いずれにしても2024年については、このEVセダンセグメントがレッドオーシャンとなるわけであり、とくにシャオミSU7の存在によって、さらに一段、競争のハードルが引き上がりました。
とくに後発となるL6に関しては、固体電池を搭載することで、航続距離1000km以上、および超急速充電を両立して、電気自動車におけるネガティブ要素となっている航続距離と充電時間の問題をさらに解消することで、どれほど中国国内で訴求できるのかに注目が集まります。
その固体電池の詳細についてもわかり次第リポートしていきたいと思います。