それぞれの寸評
田中誠司
直線基調のファストバック・スタイルに、なんとなくかわいらしいインテリア、そしてふんわりした乗り心地。なんだろうこのデジャヴュな感覚は……と、しばらく考えて思い出したのは「シトロエンBX」だ。あのランボルギーニ・カウンタックを生み出したマルチェロ・ガンディーニがBXをデザインした。そのガンディーニのカロッツェリア・ベルトーネにおける後輩がジョルジェット・ジウジアーロで、彼が手がけたヒョンデ・ポニーがアイオニック5のデザインのエレメントになった……という流れとか関連性を感じる。ドイツ車みたいな合理性や堅牢さを求めるならむしろテスラに行くべきで、このヒョンデにはイタリアやフランスの刹那的な楽しさを感じる。このポップなテイストを気に入れば乗り続ければいいし、そうでなければまた次のトレンドを追えばいいのだ。
曽宮岳大
カッコイイと思うし、所有感を満たすいいデザインだと思う。EVに先進性や、従来のクルマと違った雰囲気をBEVに求めるなら、候補の1台に挙げるべきクルマだと思う。数年前にソウルに行ったとき、名前もわからないカッコイイクルマがたくさん走っていた。もはや日本は、アジアの他メーカーのクルマを見下せる立場にはないと実感した。インテリアデザインも凝っていて、“いいクルマ感”が印象に残った。
走らせた印象は、見た目ほどの革新性はなく、普通によく走る。そんな印象を抱いた。ボディ剛性やハンドリング、乗り心地など、どれも悪くもないが、特段光った特徴もない。少し気になったのは、フロアからヒップポイントまでの高さが少なめなこと。スポーツカーのようにヒップポイントが地面に近い感覚とは異なり、着座位置自体は低くないのに床面が近く、足を投げ出す姿勢を強いられる。バッテリーがあるがゆえの上げ底な印象を受けた。ドライビングポジションにこだわるユーザーは、自分にしっくりくるポジションが取れるか、確認することをお勧めしたい。
烏山大輔
日本市場撤退前に「ヒュンダイi30」に少し乗ったことがあるのだが、その時に「日本車よりもお手頃な価格で品質の良いクルマ」という印象を持ったことを覚えている。
13年ぶりに接したのはICEではなくBEVのアイオニック5。Lounge AWDグレードは599万円とお手頃な価格ではないが、作りの良さ、品質の高さは健在だと思った。
そして走るスマホと言われるモデルYと比べると、初めてBEVを買う人でもすぐに馴染むクルマだとも思う。それは日本車と同じように右側にウインカーレバーを設置したり、何か操作で分からないことがあれば、きちんと日本車のような詳細な取扱説明書も備わっているからだ。
ただし気になる点もある。グローバルでの展開を意識した作りなのか、全幅が1,890mmとメルセデスでいうとEクラスとSクラスの間のサイズ、かつ最小回転半径が5.99m(どうしても6m台にしたくなかったヒョンデの意図が感じられる)というのも大きい。幹線道路から一本入った幅の狭いところの運転には気を使う。
そんな声が上がるのを予測してか、ヒョンデは間もなくアイオニック5より全長が280mm、全幅が65mm小さい「コナ」を導入予定だ。コナはアイオニック5と同様にバッテリーが容量違いで2種類(スタンダードとロングレンジ)ある。スタンダードのエントリーグレードが400万円台前半、もしくは400万円を切ってきて、補助金をフル活用して200万円台も見えてくれば、新生ヒョンデのヒット車になりそうな気がする。
アイオニック5