横浜ゴム(株)は、LEXUSが2023年3月より日本および欧州・アジアなどの海外各国で発売したLEXUS初のBEV専用モデルとなる新型「RZ」の新車装着(OE)用タイヤとして、「ADVAN V61(アドバン・ブイ・ロクイチ)」の納入を開始した。装着サイズはフロント用が235/60R18 103H、リア用が255/55R18 105V。
「RZ」のポテンシャルを引き出すタイヤ
「ADVAN V61」は横浜ゴムの最高峰ブランド「ADVANシリーズ」のハイパフォーマンスタイヤだ。レクサス「RZ」がもたらす人とクルマが一体となった気持ちの良いドライビングフィールを足元から支えるべく、操縦安定性と乗り心地に加え、耐摩耗性、耐ハイドロプレーニング性能を達成した上で、パターンによるノイズを抑えた高い静粛性と転がり抵抗の大幅な低減を両立させたという。
なお、一般にバッテリー電気自動車(BEV)は巨大なバッテリーを搭載している分、ガソリン車に比べ重量が大きく、そして、電気モーターによって瞬時にトルクを発生するため、荷重移動が激しくなり、タイヤに大きな負担となりやすい。それらの課題を含め、「RZ」の良さを最大限に引き出すためのタイヤと言えるだろう。
ところで、次章で紹介するが、本タイヤの開発にあたり、独自のAI利活用フレームワーク「ハイコラボ(HAICoLab)」を活用している。
タイヤ開発にAI活用?
「ハイコラボ」は、横浜ゴムが2020年に策定したデジタル革新のためのAI利活用構想だ。それ以前でも「マルチスケール・シミュレーション」などのシミュレーション技術や「マテリアルズ・インフォマティクス」というAIを活用した材料開発技術を開発してきた。「ハイコラボ」は、それらのシミュレーション技術とAI技術を組み合わせ、人の特性にも着目した独自のAI利活用フレームワークとなっている。
ところで、タイヤの開発にあたっては、フィラーの構成、サイズ、量、配合量で定まる複雑な高次構造として入念に設計する必要がある。ただ、考慮すべき要因が膨大であるため、分子動力学や量子化学のようなコンピューターシミュレーションが必要とされている。
そのような状況下で、AIのソフトウェアが膨大なデータを使って学習し、認識や判断をコンピューターで実現する技術である機械学習は、過去の計測データと計算科学シミュレーション・データに基づいて、タイヤ特性を迅速かつ正確に予想することが可能だ。それによって、開発プロセスが大幅にスピードアップしイノベーションが促進される。
ただし、AIは学習データに依存しているため、学習データが不足している未開拓領域には容易に適用できないため、急進的イノベーションには適していない。
よって、計測装置やシミュレーションで生成する膨大なデータの処理はAIが、次に人が定めた仮説に基づいて、技術向上のための予測、分析および探索を行う。このプロセスで、エンジニアが技術革新や仮説再設定に利用する新たな知識を生成するのだ。
足元を支え続ける横浜ゴムの戦略
横浜ゴムは2021年度から2023年度までの中期経営計画「Yokohama Transformation 2023」のタイヤ消費財事業において高付加価値商品の販売構成比率最大化を掲げ、「ADVAN」および「GEOLANDAR(ジオランダー)」の新車装着拡大に取り組んでいる。プレミアムEVへの新車装着は、確かな技術がなければ実現しえない戦略のコアとしている。
ところで、タイヤは、電動化や自動運転といった、自動車業界のトレンドが変わったとしても、需要が途絶えることは考えにくい。ただ、格安タイヤを販売する新興メーカーも勃興する中、長い歴史と確かな技術を持ったメーカーは、今回紹介したような、トレンドを先導するような商品の開発が必要となるのだろう。タイヤ業界の流れをキャッチアップすることで、足元から自動車業界を俯瞰するのも良いかもしれない。