日本にはないトヨタの商用バン トヨタ自動車が英国をはじめとする欧州市場で展開している「プロエース」シリーズをご存じだろうか。トヨタといえば「プリウス」をはじめハイブリッドカーのパイオニアとして知られるが、近年は欧州を中心に純粋な電気自動車(EV)の展開も進めている。このシリーズでは電動化を積極的に推進しており、とくに英国市場では電動商用バン「プロエースEV」が高い評価を獲得している。日本国内では正規導入されていないため知る人は少ないが、欧州の商用車市場においてトヨタの存在感を示す重要なモデルだ。 <プロエースEVとはなにか? 英国で活躍する商用バンの正体> プロエースは、トヨタがヨーロッパで販売する全長5mクラスのLCV(Light Commercial Vehicle:小型商用車)だ。その歴史を振り返ると、2012年にトヨタとPSAプジョー・シトロエン(現ステランティス)が提携し、PSAからのOEM供給という形でスタートした。しかし、2016年のジュネーブショーで発表された2代目モデルでは、トヨタ・プジョー・シトロエンの共同開発となり、トヨタの技術やノウハウがより深く反映されるようになった。 プロエースEVは、シトロエンe-ディスパッチ、プジョーe-エキスパート、オペル/ヴォクスホール・ヴィヴァーロ-eと兄弟車関係にある。つまり、これらの車両はすべて同じプラットフォームを共有しているが、トヨタならではの品質管理や顧客サービスが加わることで差別化が図られている。イギリスでは2021年から本格的な販売が開始され、英国商用車市場において着実にシェアを拡大している。 <実用性の高さが光る! プロエースEVの優れた性能と特徴> プロエースEVの最大の魅力は、商用車として求められる実用性を妥協なく追求している点にある。モーター出力は100kW(136馬力)でトルクは260Nmと、ディーゼルエンジン車に引けを取らない力強さを発揮する。加えて、EVならではの静粛性と即時応答の加速がドライバーの疲労を軽減する。トヨタはこのモデルを通じて、商用車の電動化が単なる環境対策ではなく、業務効率の向上にもつながることを示している。 バッテリーは50kWhと75kWhの2種類が用意されており、それぞれWLTP基準で142マイル(約228km)と205マイル(約330km)の航続距離を実現。とくに興味深いのは積載量との関係で、軽量な50kWhバッテリー搭載車は最大1253kgの積載量を誇る一方、大容量75kWhバッテリー搭載車でも1000kgの積載量を確保している。これは、多くの電動商用車の課題である積載量の制約を克服した設計といえる。 充電性能も実用的で、DC急速充電では約45分で80%まで充電可能だ。これは、ビジネスユースで重要なダウンタイムを最小限に抑える工夫である。さらに、トヨタのMyToyotaアプリを活用すれば、遠隔でバッテリー残量を確認したり、プリコンディショニング(事前空調)を行ったりすることも可能だ。こうしたデジタル機能は、現代の商用車に求められるスマートさを体現している。