フィアット 記事一覧

TEXT:岡崎 宏司
岡崎宏司の「EVは楽しい!」第14回:フィアット 500eは気になる存在です

フィアット 500eのドライブでは『ローマの休日』へ岡崎さんは思いを馳せたそう。上質で知的な印象の一台に、そうとう心が動かされたご様子です。 e-208GTに満足する一方で 何度も繰り返しているが、現在の愛車、プジョー e-208GTには満足している。 デザイン、ブランド、サイズ、走り味……みんな気に入っている。不満があるのは不整路面での乗り心地くらいのもの。 わが家に来てから2年半経つが、他車に買い替えたいと思ったことはない。車検を取って乗り続けようとさえ思っている。 けっこう移り気!?で、車検を取って乗り続けるなど滅多にない僕には、かなり珍しいこと……なのだが、どうもそうなりそうだ。 まぁ、今までのところ、コンパクトサイズBEVの選択肢が少ないこともあるのだが。 500eには、心動かされる その少ない選択肢の中で、心を動かされたクルマが1台だけある。僕の好みを知る人なら、たぶん言い当てるだろうが……そう、フィアット 500eには心を動かされた。 ちょっぴりヤンチャでチャーミングな500のルックスは基本的に受け継ぎ、サイズを一回り大きくして、上質さ、プレミアム度をグンと高めたデザインは見事だ。 そう……上質さ、プレミアム度という点では、わがプジョー e-208GTを大きく上回っている。内外装ともに……。 「電動開閉式ソフトトップ」があることにも心を動かされた。全開にすると、ほとんどフルオープンに近い開放感が得られる。 それでいながら、すべてを周囲に晒してしまうことがない。スモークの入った窓ガラスを閉めれば、ほぼプライバシーは保たれる。 風の巻き込みもよく抑えられている。少なくとも80km/h 辺りまでなら、「髪の乱れ」も気にならない。女性には喜ばれるはずだ。 走行中のソフトトップからの音も低い。精度の高い造り込みの証といっていい。 そんなことで、フィアット500e コンバーチブルの日常性は非常に高い。大きなチャームポイントのひとつといっていい。

TAG: #500e #e-208GT #EVは楽しい!
TEXT:嶋田 智之
「らしさ」に溢れるフィアットの走りは健在![フィアット500e試乗記:その5(最終回)]

前回に続く、フィアット500eの試乗記もいよいよ最終回。’70年式のチンクエチェントを普段アシとして乗っているモータージャーナリスト嶋田智之氏は、500eにも連綿と受け継がれるfunな乗り味を感じるという。 70年代のチンクエチェントから受け継ぐ乗り味 ここまであれこれ書き連ねておいて何だが、僕は日頃、1970年式フィアット500L、つまり2代目500をアシにしている。そのクルマもそうなのだけど、2代目500はステアリングを操作して前輪が反応した瞬間に後輪まで反応して、全身で旋回に入っていくかのような、曲がる楽しさを持っている。タイヤは糸のように細いしサスペンションもヤワといえばヤワだから、コツを要するのも確かだけど、とにかく楽しい。普通の感覚からすれば目が醒めるほど遅いのだけど、意外やスポーティなところがあるのだ。 そのおもしろさは3代目500、つまり現行の内燃エンジンの500にもちゃんと受け継がれていて、エンジンの搭載位置も駆動レイアウトもサスペンション形式も変わっているにも関わらず、さらに爽快なコーナリングを楽しむことができる。いうまでもなく現代的に進化してるしコツを要するクセなども綺麗に払拭されてるから、それを誰もが味わえる。 BEV版の500eもその3代目と同じように、長きにわたって愛された2代目500のテイストをちゃんと受け継いでいるのだ。それも、さらにいいかたちで。ここが鈍いと“らしさ”に欠けるよな、なんて500ファンの一人として思っていたのだけど、いやいや、とんでもない。最初にコーナーを曲がった瞬間からその“らしさ”がちゃんと感じられて、思わずニンマリした。 しかもバッテリーをフロアに敷いたことによる重心の低さがしっかり活かされていて、そのコーナリングの感覚、コーナリングスピードともに間違いなく歴代ナンバーワン、と断言してもいいくらい。BEVであることが、ここでも大きなメリットになってるのである。そういえば直進安定性も乗り心地のよさもエンジン版をしのいでると感じられたものだが、それはエンジン版より300kg+α余分に重いことを見事に活かしたシャシーのチューニングが行われてるからにほかならない。 >>>次ページ 充電環境さえあれば真剣に欲しい

TAG: #500e #BEV #フィアット
TEXT:嶋田 智之
気持ちいい。速さで攻めるのでなく、情感に訴える走りっぷり。[フィアット500e試乗記:その4]

前回までで500eのデザインや歴代から受け継いだヘリテージなどを紹介したが、このクルマの最大の魅力は走りかもしれない。驚くような速さではないのに、運転がとても楽しいのだ。モータージャーナリスト嶋田智之氏がレポート。 ボディが小さく、何より軽い 見てニンマリ、室内に収まってみてニンマリ。だけど走り出してみると、もっとニンマリしてしまう。フィアット500eは、2代目や3代目と同じく、そういうキャラクターを持ったバッテリーEV(BEV)だった。 このクルマは御先祖さまが庶民の日常を支えるシティカーとしての要素が強いクルマであったように、僕たちのような“普通の人”の新しい日常を見据えて作られたクルマなのだと思う。それは成り立ちからも一目瞭然だ。車体をもっとググッと大きく設計してバッテリーの搭載スペースを広く採れば航続距離もさらに稼げるだろうけど、それをしてはいない。 42kWhのバッテリーをフロア下に敷きつめ、118ps(87kW)と220Nmを発揮するモーターでフロントタイヤを駆動するレイアウトだが、機構図を見ると、この車体にシステム全体を収めるのはそう容易なことじゃなかったということが察せられる。 全長3630mm×全幅1685mm×全高1530mm。姉妹ブランドとなったプジョーのe-208よりも、キャラクターが近いといえば近いホンダeよりもコンパクトなのだ。サイズには徹底的にこだわってる。それに500eは軽い。プジョーe-208が1490〜1510kg、ホンダeが1540kg。対する500eはクローズドルーフが1320〜1330kg、オープントップで1360kgに過ぎないのだ。 その小ささと軽さは、あらゆる場面で活きてくる。走りはじめた直後から“楽しいな”、“気持ちいいな”と感じられるのだ。BEVによくあるいきなりドーン! とトルクを立ち上げるような制御はしてないようだが、ゼロ発進から高速道路の巡航まで、パワーとトルクのデリバリーが絶妙に行き届いていて、微速域でも高速域でも扱いやすい。いかなるときも滑らかだし、反応も素直。そして何よりクルマが伝えてくるフィーリングが、軽やかでとってもいい。 おもしろいのは走行モードを切り換えることで、クルマが激変といえるくらい変わること。「ノーマル」モードでは内燃エンジン版の現行チンクエチェントを走らせてるのと同じように、加減速も含めてとても自然な感覚で走れる。アクセルペダルをオフにしても、BEVっぽい減速感はほとんどやってこない。BEVっぽさが苦手な人にはこのモードはものすごく有効だし、高速道路などをクルーズするときにはこれを選ぶ方が疲れも少ないだろう。 「レンジ」モードに切り換えると、アクセルペダルだけで発進から停止までをまかなえるようになる。より強力な回生を得ることができるようになり、一気に“BEVに乗ってる”という感覚が強くなる。慣れてしまうとペダルひとつ、右足ひとつで走るこのモードが楽しくなって、こればかりを多用するようになる人が多いようだ。何人かの500eオーナーさんに訊ねてみたが、皆一様に同じ見解を語ってくださった。僕も高速巡航以外はずっとレンジモードに入れっぱなしだった。内燃エンジンのクルマでは決して味わうことのできない、BEVならではのドライビングプレジャーといっていいだろう。 >>>次ページ 0-100km/h加速は歴代チンクチェントで最速

TAG: #500e #BEV #フィアット
TEXT:加納亨介
フィアットの新しい超小型EVシティコミューターは、その名も「トポリーノ」

フィアットは5月31日、超小型のEVシティコミューター「トポリーノ」を発表した。ハツカネズミを意味するこのネーミングは、初代フィアット500の愛称を継承したものだ。1936年から1955年まで販売された初代“トポリーノ”は、小さいながらも発売当時としては先進的なメカニズムを持ち、大きな商業的成功を収めたモデルだった。新しい超小型EVに与える名としてこれに勝るものもないだろう。 一方で顔つきは、今も世界中にファンの多い2代目フィアット500をオマージュしている。発売前から成功を約束された生まれつきといえる。 公式発表では触れられていないが、同じステランティスグループの一員であるシトロエンの「アミ」やオペルの「ロックスe」の兄弟車と思われる。参考までにアミのスペックを拾うと、全長2,410mm、全幅1,390mm、全高1,520mm、ホイールベース1,728mmで乗車定員は2名。日本の軽自動車と比べて全長で約1m短く、全幅も約10cm狭い(軽自動車規格:全長3.4m以下、全幅1.48m以下、全高2.0m以下)。2人乗りシティコミューターとして思い出すスズキ・ツインと比べても30cm以上短い。 (シトロエン・アミ) 車量485kgを走らせるモーターは最高出力8.2hp、リチウムイオン・バッテリーの容量は5.5kWhで航続距離は75kmとされる。充電は交流の普通充電のみで、欧州規格の220Vのコンセントを用いてほぼ空の状態から約4時間で満充電となる。おそらくトポリーノもこれに準ずるはずだ。 欧州のクワドリシクル規格 石材主体の街並みは戦禍に強く、中世そのままのような細い街路が多く残ることと関係しているのだろう、欧州ではこうした超小型車のジャンルが確立されており「クワドリシクル」という規格も定められている。彼の地には小さなクルマを道路の進行方向と直角に駐車する習慣があるが、その主役たちである。クワドリシクルはフランスなら14歳以上、他のヨーロッパの多くの国でも16歳以上(77歳以下)であれば運転免許を必要としないない(講習は必要)。ただし最高速度は45km/h以下と規定され、高速道路を走ることはできない。必然的にこのジャンルのクルマは若者が主なターゲットとなり、シトロエン・アミでもスマートフォンとの連携が強化されている。 気になる価格は発表されていないが、ステランティス製クワドリシクル兄弟の価格はエントリーグレードでおおむね1万ユーロがスタートライン。昨今の円安のせいもあるが邦貨だと150万円に迫り、激安というわけではない。それでもアミは2020年4月の発売以来、欧州11ヵ国で販売されており、この3年ほどで3万5000台以上を販売しているという。 日本でも便利なはずだが…… フィアットはトポリーノについて「新鮮なモビリティ・ソリューションを求める人々に最適で、誰もが利用できる都市型の持続可能なモビリティ・ソリューションを提供する」と表現する。エアコン装着可否など懸念点はあるが、日本市場への導入も期待したいところだ。 最小回転半径3.6mの取り回し性は街中で魅力的だし、そもそも世の自動車の多くは1人で乗られ、平均乗車人数は2人に遠く及ばないという集計もある。2人乗り超小型シティコミューターは、地球環境保護が叫ばれる現代にとても有望なジャンルと思われる。 しかしこれが、日本においてはテイクオフしそうでしない。2003年に登場したスズキ・ツインは3年余りで約1万台の販売に留まり、後継モデルは出なかった。近年ではトヨタC+podがあるが、企業・自治体向け限定ということもあり見かけることは少ない。 規格体系のほうはすでに出来ている。国土交通省は「超小型モビリティ」の規格を制定済みで、少なくともサイズやパワー、最高速度の限りにおいてフィアット・トポリーノは合致している。果たしてその日は来るだろうか。やっぱり高速に乗れないとダメだろうか。

TAG: #コンパクトカー #トポリーノ
TEXT:嶋田 智之
モダンでありながら、ノスタルジーをくすぐるディテール。老若男女を問わない500eはインテリアがいい[フィアット500e試乗記:その3]

フィアット500eは、親しみ感のある外観に負けないほど、インテリアもいい。ただオシャレなだけでなく、’50年代に誕生した2代目500を知る人をも納得させる、チンクエチェントらしいデザインが採用されているのだ。 2代目を知る人ならピンとくるデザイン 500eのインテリアは、これもまた歴史的名車のイメージを巧みに織り込みながら、完全に新しくデザインされている。過去の作品を再解釈したところはあっても、コピーしたところはない。 例えば水平方向に長い楕円を描き中央下側にトレイを配したダッシュパネルのアウトラインや、単眼の丸いメーターナセル。これらは2代目500の鉄板剝き出しのダッシュパネルのまろやかな形状とその下に設けられた棚方のトレイ、目覚まし時計のような独立型スピードメーターの雰囲気を象徴的に描き出したものといえるだろう。またフロントシート間のアームレストの先端には2つのローラー式スイッチが平行に並べられているが、2代目500はそこにスターターとチョークのレバーが配されていた。 では、同じ場所に配される500eのオーディオボリュームスイッチやEVモードセレクターは、2代目の時代には存在しなかった現代ならではのもの。丸いメーターナセル内の7インチフルデジタル式メーターには、スピードのほかパワー/チャージ、バッテリー残量、航続可能距離、ADASのカメラが読み取った道路標識の情報などが表示される。 ダッシュ中央には横に長い10.25インチのディスプレイが配置され、ナビやオーディオなどがタッチ操作できる。その下のトレイは、上位グレードではスマートフォンの非接触型充電を行うための場所。その上部にはエアコン類の物理スイッチ、その下には左からP、R、N、Dのシフトセレクターボタンがレイアウトされている。 実際に使ってみた印象では、メーター類の視認性はいいし、情報量も少なすぎず過剰でもなく、ちょうどいい。スイッチ類はよく使うものが、慣れればブラインドタッチできる物理スイッチとされていて、操作性も良好。インターフェイスはよく考えられてるな、と感じた。 >>>次ページ 細部にまでこだわったクオリティ

TAG: #500e #BEV #フィアット
TEXT:嶋田 智之
コピー&ペーストじゃないのに従来モデルにソックリ。スタイリングは芸術の極み[フィアット500e試乗記:その2]

フィアット500eの大きな魅力はそのデザイン。1950年代のチンクエチェントから続くフォルムを踏襲しながら、コピーは一切なしの新規に描かれたスタイリングをまとう。フィアット・チェントロ・スティーレの卓越したデザインノウハウを、モータージャーナリスト嶋田智之氏が解説。 96%が新設計のブランニューEV 現在のフィアット500のラインナップには、バッテリーEV(BEV)であるこの500eと並んで、内燃エンジンを積む500が存在している。歴史上では3代目となる内燃エンジンの方の500は、2007年のデビュー。トリノで行われたその発表会と試乗会で、2代目500の持つキャラクターや世界観を根本的なところから解釈しなおして時代にマッチした新世代のフィアット500像を入念に創造した、と聞かされた。そして15年以上が経過して今でもフルモデルチェンジなしに生産され、世界中で愛されている。 内燃エンジン版の500とBEVの500eのスタイリングは、たしかによく似てる。なので内燃エンジン版をベースに開発されたBEVモデルだと見られることもあるようだが、それはぜんぜん違う。3代目のときと同じように、1950年代の当時まで遡って、長く愛される新たなBEV版フィアット500というものを模索した結果、生まれてきたクルマだ。 なので、500eはほとんどすべてが新しい。パワートレインはもちろんのこと、プラットフォームもこのために旧FCA時代から着々と開発が進められてきたものだ。全体の96%が新規設計されたもので構成されている。もちろんスタイリングデザインもゼロから線を引き直したもので、フィアット500以外には思えないというのに、かつての名車からそのままコピーしたところはひとつたりとも存在しない。クルマのデザインに従事してる人に訊ねるとほとんどクチを揃えるように似た答えが返ってくるのだが、実はそれ、デザインとしては極めて高度なスキルを要求されるものだったりするそうだ。 全体的にまろやかさを感じられる角のいっさいないフォルム。正面や真後ろから見るとちょっとオニギリっぽい台形のシルエット。1本のラインで車体全体が上下に分割される線構成。どこか笑ってるような顔つき。そのあたりは2代目500も3代目500も、それにこの500eも共通している。 >>>次ページ BEV用プラットフォームだから実現できたデザイン

TAG: #500e #BEV #フィアット
TEXT:嶋田 智之
偉大なるイタリア国民車の精神を受け継いだ、“響く”電気自動車[フィアット500e試乗記:その1]

イタリアの国民車として誕生し、おしゃれコンパクトとして世界的に人気を誇る「フィアット500」シリーズ。4代目はEV専用車として登場した。そんな「500e」の魅力を探るべく、モータージャーナリスト嶋田智之氏が試乗。まずはその歩みを振り返る。 “欲しいかも”と思った唯一のEV 原動機が内燃エンジンなのか、バッテリー+モーターなのか、あるいは内燃エンジン+バッテリー+モーターなのか。それは確かに重要な問題だ。けれど、僕はもっと重要なことがあるんじゃないか? と思ってる。それは1台のクルマとしてどうなのか、ということ。今どきはダメなクルマというのがほとんど存在しないから、ものすごく出来映えがいいか、フツーに出来映えがいいか。ドライビングプレジャーは濃厚なのか、淡白なのか。デザインは印象的か、無味無臭的か。一緒にいて気持ちが上がるのか、逆に平静になれるのか?……と、細かく見ていけばキリもないのだけど、いってみればそれらを踏まえてどう感じるか、ということだ。そこに好みに合ってるか、あまり響かないか、が加わると欲しいか欲しくないかにつながってきたりする。 ここ1〜2年に国内デビューした中にも1台のクルマとして素晴らしい魅力を放ってるモデルがいくつかあったわけだが、その中で唯一“欲しいかも”と感じたバッテリーEV(BEV)がひとつあった。それがフィアット500eだ。 僕もこんな仕事をやってるので、バッテリーとモーターで動くクルマが楽しいし気持ちいいってことは、身体でわかってるつもりだ。内燃エンジンで走るクルマには内燃エンジンで走るクルマの、電気で走るクルマには電気で走るクルマの、それぞれの楽しさと気持ちよさがある。 ただ、個人的なことで恐縮だけど、一発で500kmとか700kmとかの移動が必要になることも少なくない僕のライフスタイルにはBEVはマッチしないし、集合住宅住まいで自宅に充電環境もないからBEV本来のメリットのひとつを活かすこともできない。だからなのか、“いいな”と感じたBEVは過去にもあったけど、“欲しいかも”と感じることはなかった。それだけ強力な求心力や実力やテイストが、フィアット500eにはあるということだろう。 そもそもフィアット500という名前は、1936年から続く歴史のあるものだ。初代の500はコンパクトな車体と機敏な走りっぷりからトポリーノ(=ハツカネズミ)と呼ばれ、現在のように自動車が当たり前となる遥か前の時代に、約20年間で55万台近くが売れたヒット作となった。 けれど、多くの人たちによく知られてるのは、間違いなく1957年にデビューした2代目500の方だ。クルマにそれほど関心がない人でも、「ルパン三世の愛車の丸いヤツだよ」なんて聞けば「あっ、あれ!」と連想できちゃうほどなのだから。 >>>次ページ クルマと楽しさと移動の自由を広めたイタリアの国民車

TAG: #500e #BEV #インプレッション
TEXT:烏山 大輔
電気自動車のアバルトが誕生!ステランティスがアバルト500eを発表

アバルトは、アバルト500eのローンチエディションである「スコーピオニッシマ(Scorpionissima)」に続き、スコーピオンファミリーにアバルト500eとアバルト500eツーリズモを加えたことを発表した。両車ともにハッチバックとカブリオを用意する。 効率よりも走りや楽しさに振った個性派BEV(バッテリー電気自動車) アバルト版の500eが発表された。正確にはローンチエディションのスコーピオニッシマに続く、「量産型」の発表となった。 リリースから数字を拾うと42kWhのバッテリーで、“たった”265kmの航続距離となっており、電費(※)は6.31km/kWhと計算できる。ノーマルの「500e」は7.98km/kWh、ライバルとなりそうな同じステランティス・グループのプジョーe-208 GTはノーマル500eとほぼ同値の7.90km/kWhとなる。 この電費数値からも「より航続距離を」というよりも「より楽しい走りを」に振ったクルマであることが読み取れる。 ※電費に関しては、以下の数値から算出した。 アバルト500e:バッテリー42kWh、航続距離265km、電費6.31km/kWh、パワー155ps ノーマル500e:バッテリー42kWh、航続距離335km、電費7.98km/kWh、パワー118ps e-208 GT:バッテリー50kWh、航続距離395km、電費7.90km/kWh、パワー136ps ノーマル500eと写真を見比べてもヘッドライト上辺の“眉毛”の部分が光っていないこともあり、より睨みをきかせた顔となっており、ノーマルのかわいさにカッコ良さがプラスされている印象だ。室内もアルカンターラを多用したレーシーな雰囲気にまとめられ、フロントシートの黄色と青のステッチや「サソリ」のエンボス加工がマニア心をくすぐる。 アバルト500eの価格の発表はなかったが、ノーマル500eの日本(アイコングレードが522万円)と欧州(34,990ユーロ、約525万円)での価格差やローンチエディションのスコーピオニッシマ(ハッチバックが43,000ユーロ、約645万円)から推測すると、600万円を超えてくるのではないだろうか。 ただし、ライバル(例えばe-208 GTは512.4万円)よりも多少価格が高かろうが、電費が悪かろうが、アバルト500eにとっては大した問題ではないかもしれない。 それは類稀なる個性を持っていることに加えて、現状のICE(内燃機関)のアバルトが、同じイタリアの“跳ね馬”や“闘牛”のオーナーのセカンドカー(あるいはサードカーかもしれない)としての需要が一定数読めるからだ。近所への買い物など日常の移動にはこれまでのICEアバルトと同様に重宝されることだろう。 イタリア車に限らずともドイツやアメリカ製のBEVのオーナーが普段使いのセカンドカーにコンパクトなアバルト500eを選ぶこともあり得るだろう。 刺激的なコンパクトEVは唯一無二の存在で、BEVの世界に多様性をもたらしてくれそうなアバルト500eの日本での正式発表を楽しみに待ちたい。 ※リリースによる車両詳細については次の通り。

TAG: #500e #スコーピオニッシマ
TEXT:嶋田 智之
自動車ライター嶋田智之さんのイベントリポート、EV:LIFE FUTAKOTAMAGAWA 2023、その2

竹岡 圭さんが案内する各ブランド・イチオシのEVたち 僕がイベントにお邪魔した18日の土曜日は、モータージャーナリストの竹岡 圭さんが会場を訪れていて、マイクを持って各ブースを回るという催しも行われた。圭さんがフィアットのブランドマネージャーである熊崎陽子さん、ジープのブランドマネージャーである新海宏樹さん、プジョーのプロダクトマネージャーである八木亮祐さんというマーケティング部のお三方それぞれに質問をし、マーケティング部の方々が答えていくというかたちでトークが進められた。 が、興味深い内容は多々あれど、それを連ねはじめると絵巻物のような長文になってしまう。ここではそれぞれについて圭さんからコメントをいただいたので、そちらを紹介することにしよう。 フィアット 500e 「フィアット500eは、パッと見だとこれまでの500のガソリンエンジンを電気モーターにすげ替えただけのクルマに思えるという人も多いと思うけど、実はイチからちゃんと設計もデザインもしていて、95%くらい違う部品でできているんですよね。なのに、スタイリングから受ける雰囲気も乗り味も、エンジンの500とほとんど同じ。そこがすごいと思います。展示されていたのはオープンモデルなんですけど、オープンカーはトップを開けると見えちゃうから、インテリアもエクステリアのようなもの。そこにもものすごくこだわって作っているところがまた素晴らしい。顔がチコちゃんみたいで(笑)、名前をつけたいくなるくらいかわいいです。“かわいい”は正義、でしょう? そのかわいさを活かしつつ、500に乗ったときの独特の楽しさを、低重心による安定感とともに再現しているんですよね。とってもよくできていると思います。EVがどうっていう以前に、クルマとして楽しいですよね」 ジープ・ラングラー・ルビコン4×e 「実はラングラーのPHEVは未試乗なんです。なので、最初にジープのPHEVとして日本に入ってきたレネゲード4×eのお話になっちゃうんですけど、電気モーターってすごく細かく制御ができるので、岩場とかの悪路であと1cm動かしたいようなときに、そういうことができちゃうんですよ。悪路を走るジープと電気モーターの組み合わせは、ものすごく相性がいいと思うんですよ。でも完全なBEVだと、山の奥とか砂漠とかでは充電できないから、そうなるとお手上げ。PHEVというのは、最良の選択でもあるんです。それに重いバッテリーを積んでいるから、その分だけ乗り味にしっとり感が出る。普段使いの乗り味もいいんですよ。おそらくラングラーもそういうクルマに仕上がっていると思います。しかもルビコンといえば、階段登れちゃうヤツ(笑)でしょ。それがモーター駆動になったのだから、さらにパフォーマンスが上がっていることが期待できますね。アドベンチャーなところでぜひ乗ってみたいです」 プジョー e-208 「e-208だけに限ったことじゃないんですけど、プジョーのBEVやPHEVは、同じモデルのガソリン車とかディーゼル車とかほかのパワートレーンンのクルマと並べても、それどころか乗り換えても、違和感がないのがいいところだと思うんですよ。BEVって普通は乗り味が独特でしょう? 同じモデルでパワートレーンがいくつか用意されている場合、BEVはわざとBEVっぽくして乗り味を変えているメーカーが多いんだけど、プジョーはそうしていないんですよ。そこが独特というか、乗り味というものへの考え方に1本しっかり筋が通っている感じ。そうなると、うちは充電できるからBEVにしようとか、うちはダメだからガソリンかなという感じで、ルックスと使い勝手が好きなモデルの中から選んでいける。自分のライフスタイルに合わせてパワートレインを選べるのって、なかなかないですよ。プジョーが提唱している“パワー・オブ・チョイス”って、非常によいと思います。もちろんe-208も、ほかの208と同じような乗り味で、そこにBEVならではのよさが加わっているから、1台のコンパクトハッチとしてはかなり素晴らしいクルマになっていますよ」 今回ここで紹介したのはわずか3モデルだけど、語られていることはそれぞれまったく違っていて、ときどきまことしやかにいわれる“電気自動車なんて何に乗ってもほとんど似たようなもの”というのは、真実なんかじゃないことがおわかりいただけるだろう。 内燃エンジンのクルマがそうであるように、ブランドによって、車種によって、乗り味も個性もまったく違っている。今や自分のライフスタイルに合わせて、クルマの原動力をチョイスできるどころか、その中から乗り味や個性だって選べるわけだ。何とも充実した時代になったものだな、と感じた1日だった。

TAG: #EVイベント
TEXT:嶋田 智之
自動車ライター嶋田智之さんのイベントリポート、EV:LIFE FUTAKOTAMAGAWA 2023、その1

3月18日〜19日に開催されたBEVとPHEVのみの展示イベントを訪れた、自動車ジャーナリストの嶋田智之さんが抱いた実感とは。 徐々に浸透してきたBEVの存在 日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会のデータを基に日本自動車会議所が取りまとめた数値によると、2022年に新車として販売された乗用車の中でマイルドハイブリッドやFCEVを含めた電動化モデルが占めた割合は、45.4%だった。ところがモーター駆動もしくはモーター駆動がメインとなるBEVやPHEVは合わせても、その中の2.8%を担っているに過ぎない。販売面ではまだまだ少数派なのだ。 けれど、あくまでも感覚的なものではあるものの、近頃では電気自動車という乗り物が普通に受け入れられるようになってきている。まだ購入には至っていないし、ためらいもあれば迷いもあるのかもしれないが、展示されているクルマたちを眺める人々の視線がうがった感じではなく、何だかとっても自然だったのだ。3月18日〜19日に開催された『EV:LIFE FUTAKOTAMAGAWA 2023』の会場で、僕はそんなふうに感じていた。 このイベントは自動車雑誌『LE VOLANT』が2021年から開催している、BEVにPHEVというモーター駆動もしくはモーター駆動をメインとして走行するクルマのみを集めて展示する催しだ。東京・世田谷区の二子玉川ライズショッピングセンターの真ん中を貫く通路や広場に国内外の17ブランドのクルマがズラリと並べられて、買い物に来たり映画を見に来たりした人たちも、間近でクルマを見たり実車に触れたりすることができるのが、まず素晴らしい。 発売前のプロトタイプや導入が期待されている国内未導入のクルマなどもいくつか並べられ、事情通のクルマ好きたちの期待にも応えていた。 また古いフィアット500やフォルクスワーゲン・ビートルなどの歴史的名車をBEVにコンバートしたクルマが並ぶコーナーが用意されていたり、給電機能のあるBEVのバッテリーを利用して電子ピアノのライヴが行われたり、会場に面した蔦屋家電の協力で家電製品を使ったキャンプを提案するコーナーが作られていたりと見どころも多かった。 ただ環境意識に訴えかけるのではなく、EVがある暮らしはこんなふうに明るく楽しいという提案がそこここにあって、EVという古くて新しい乗り物に対する精神的な距離感を上手に縮めてくれていた。一般の人にとってはショールームにEVを見に行く、試乗しに行くというのは、ちょっとばかり特別なこと。その敷居を上手に下げていた印象だ。 特に人気のあったステランティスの3台 会場のどのブランドのブースでもお客さんが楽しそうな笑顔でクルマのそばにいるのを見ることができた中で、最も印象的だったひとつがステランティスのブースだった。 なかなか手に入れることがむずかしいノベルティがもらえるキャンペーンを展開していたこともあるのだけど、やっぱり大きいのは展示されていたクルマたちだろう。 キャラクターがはっきりとしていて人目を引くモデルが3台、それらを前にクルマの説明を受けている人や室内に乗り込んで細かなところをチェックしたりする人が後を絶たなかったのだ。 女性やお子さん、それに意外や40〜50代の男性などに人気が高かったのが、「フィアット500e」。ブランド初の量産BEVモデルで、1957年に誕生した歴史的な名車、ヌォーヴァ500が持つ独特の世界観を、電動化時代を前に新たに解釈しなおしてゼロから設計・開発したモデルだ。 古くから知られた500ならではの明るさと楽しさ、それにEVならではのメリットや味わいが無理なく融合したクルマである。ちなみに展示されていたのは目下のところBEVでは世界で唯一のオープントップモデルだ。 20代から50代と幅広い年齢層の男性が取り囲んでいたのは、「ジープ・ラングラー・ルビコン4×e」。こちらはBEVではなくPHEVの4WDモデルだが、モーターだけで42kmの距離を走行することができる。 ルビコンのネーミングが与えられていることからも想像できるとおり、緻密な電子制御と相性が抜群なモーター駆動を武器に、シリーズ最強=ジープ・ブランド最強の悪路走破性を誇っている。大自然が生み出す美しい音と静寂を耳で楽しみながら道なき道を走ることもできる、というわけだ。 お洒落なカップルやファッショニスタたちに注目されていたのは、「プジョーe-208」。パリジャン&パリジェンヌそのものといった小粋な雰囲気を醸し出すルックスは、ディテールを除くと内燃エンジン搭載モデルとほぼ一緒。その埋もれることはないけれど決して悪目立ちもしないさりげなさこそが、大きな魅力といえる小粋な5ドアハッチバックだ。とはいえ乗り味は非凡で、スポーティなハンドリングも上質な乗り心地も、もちろん力強さも、BEVモデルの方が一枚上手と評価する人も少なくない。

TAG: #EVイベント
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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