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小さな心がけの積み重ねで電費は伸ばせる
<走り方の習慣や設定も電費に響く>
もうひとつ、空調や電装品と異なる角度で考えたいのが、ドライバーの走行習慣である。EVはモーター駆動ゆえに、発進加速は滑らかで力強いが、逆に急加速を繰り返すと、当然ながら消費電力は跳ね上がる。高速道路での速度も重要だ。時速100kmを超えると空気抵抗の影響で電費は急に悪化する。これはICE車でも同じ理屈だが、EVでは数値に現れやすいため、オーナーにとっては敏感になるポイントである。
ドライブモードの選択も影響が大きい。多くのEVには、俊敏な加速が楽しめる「スポーツモード」や「パフォーマンスモード」が設定されている。これらのモードはアクセル操作に対するモーターの応答性を最大化するため、走行時の電力消費が増える傾向がある。穏やかな市街地走行では、「エコモード」や「コンフォートモード」を選ぶだけでも、電費を着実に改善できる。
タイヤの空気圧管理も、ICE車以上に重要だ。空気圧が低いと転がり抵抗が増大し、電費を悪化させるだけでなく、EVの生命線である回生ブレーキの効率にも影響を及ぼす。定期的なチェックを怠らないようにしたい。
<EVならではの「賢い走り方」と思わぬ落とし穴>
EVの運転の醍醐味であり、電費向上の要となるのが「回生ブレーキ」である。アクセルペダルを離すだけでモーターが発電機となって運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、バッテリーを充電する。この回生を最大限に活用する「ワンペダルドライブ」に慣れれば、フットブレーキをほとんど踏むことなく、スムースで効率的な走行が可能だ。しかし、この回生ブレーキも万能ではない。
意外な落とし穴として、バッテリーが満充電に近い状態では回生がほとんど利かなくなる、あるいは意図的に制限されるという特性がある。バッテリーを保護するため、それ以上充電できない状態では、エネルギーの回収が行えないのだ。100%まで充電した直後の下り坂などでは、普段通りの感覚でアクセルを離しても期待した減速が得られず、ヒヤリとすることがある。
また、自宅充電環境が整っている方はぜひとも出発前の「プレコンディショニング」を行ってほしい。これは、充電ケーブルを接続した状態で、出発時刻に合わせて事前に車内の空調を作動させておく機能だ。走行用のバッテリーではなく、家庭からの電力で車内を快適な温度にしておけるため、走り出しからの電力消費を大幅に抑えることができる。とくに冬場は、車内だけでなくバッテリー自体もある程度暖められるため、走行性能や回生効率の向上にも繋がり、一石二鳥の効果がある。
最後に、駐車場所を選ぶという、ごく基本的な工夫も馬鹿にはできない。夏は日陰、冬は日当たりの良い場所を選ぶだけで、乗り込む際のエアコン負荷は大きく変わる。EVの電費は、最先端のテクノロジーだけでなく、こうしたアナログな知恵の積み重ねによっても向上させることができるのだ。
EVとともにある生活は、エネルギーを常に意識する生活でもある。それは決して窮屈なものではなく、クルマの特性を深く理解し、対話しながら走るという、新しい運転の楽しみを与えてくれる。
今回紹介した内容は、数ある電費向上のヒントのほんの一部に過ぎない。自身の愛車と向き合い、試行錯誤を繰り返すなかで、あなただけの「最適解」を見つけ出すことこそ、EVを乗りこなす真の喜びといえるだろう。