日本は安全意識が高い
ネットニュースでは、海外でEVが燃えたことがときおり話題となる。充電中に白い煙が出てきてEVがあっという間に燃えたとか、走行中に車内が焦げ臭いと思って停車したらEVはあっさり燃えてしまったとか。
さまざまなニュースがある一方で、日本でEVが激しく燃えたというニュースを聞いたことがない。
これはいったい、どういうことなのか? そんな疑問をもつ人もいるだろう。
筆者は、1980年代から世界各地で定常的にEV関連の取材をしてきた。そのなかで、時代が大きく変わったと感じたのは、1990年にZEV(ゼロエミッション)規制が始まったときだ。
アメリカのカリフォルニア州環境局が大気汚染に関する会議体であるCARBを組織し、その一環としてZEV規制が生まれた。当時、日米からアメリカ市場向けにさまざまなEVが登場したが、燃焼という観点の話題はまだあまりなかった。
それが、2000年代半ばになると、リチウムイオン電池を大量に搭載するEVの発想が広がってきた。これに伴い、アメリカでは大型リチウムイオン電池に関するカンファレンスが定期的に開催されるようになり、筆者も参加してきた。
ここでは、アメリカDOE(連邦エネルギー省)直轄の研究所関係者らが講演する機会が多かったが、彼らは必ずといってよいほど、「リチウムイオン電池は正しく使わないと燃えることを大前提に考えるべき」という基本理念を強調した。
リチウムイオン電池の発火事故は、いわゆるパソコンの電池が燃焼した事例が取り上げられることが多く、「EVとして利用する場合のリスクをいかに下げるかが、当面の課題」という説明だった。リスクを下げるためには、電池の内部構造の設計、材料の選定方法、製造時の各工程における適格な作業と安全対策などが挙げられた。
また、台湾で小型電動車に関するカンファレンスに数度参加したが、その際には、中国における充電環境の悪さから発生した小型電動バイクの発火事故事例などが報告された。
その後、初代「フィスカー」の発火事例がアメリカで何度か発生し、アメリカDOT(運輸省)とDOE(エネルギー省)では原因調査を進めた。直近では、韓国でドイツ系メーカーのEVが燃焼した話題があるが、先日韓国で業界関係者に話を聞いたところ、当該事案の詳細はいまだに公開されていないという。
いずれにしても、2010年代半ば以降、グローバルでEVを製造するメーカーが一気に増えており、全体としてリチウムイオン電池の安全性は上がっている。
だが、メーカーによって、安全性の担保のレベルには当然違いがあり、また国や地域で充電環境にも違いがあるため、最悪のケースとしてEVが燃えることが起こり得る。国や地域によっては、国などによる情報統制によって、EV燃焼事案が表沙汰にならないことも考えられる。
その上で日本では、EVの企画、設計、製造、そして充電インフラへの安全性に対する意識が高いことで、EV燃焼事例がほぼ報告されていないのではないだろうか。
むろん、情報統制もないはずだ。
ただし、今後は海外からさらに多くの種類と量のEVが日本に輸入されることが予想されるほか、出力350kWの急速充電の普及が進むことを考慮すると、EVに対するさらなる安全性の確保が必須となる。