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EVで「大は小を兼ねる」の考えは損する可能性アリ! 航続距離2倍を求めるとバッテリー容量は2倍じゃ足りないワケ


TEXT:御堀直嗣 PHOTO:日産/写真AC/TET 編集部
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自分のEVの使い方に合ったモデルを選ぶべき

理由は、次のとおりだ。説明のため、一充電走行距離と車載のリチウムイオンバッテリー容量を比べやすい日産自動車のEVを例にする。

日産サクラの一充電走行距離は180kmで、車載バッテリー容量は20kWh(キロ・ワット・アワー)だ。日産リーフは40 kWhのバッテリーで322km、60kWhのバッテリーを積むリーフe+では450kmとなる。アリアB9の2輪駆動(2WD)は、91kWhのバッテリーを積んで640km走れる。これは、700km級のメルセデス・ベンツやテスラに近い一充電走行距離だ。

日産アリア

そのうえで、サクラの20kWhを基準とすると、リーフは2倍、リーフe+は3倍、アリアB9は4.5倍以上のバッテリー容量となる。

それらバッテリー容量に対する走行距離はというと、これもサクラを基準にすると、リーフが1.78倍、リーフe+が2.5倍、アリアB9が3.55倍だ。つまり、バッテリー容量を2倍、3倍、4.5倍と増やしても、走行距離はその容量増加分より少ない、1.7倍、2.5倍、3.5倍しか増えないのである。

日産リーフ

理由は、バッテリー容量を増やしたぶん、車両重量が増加し、電力消費の効率が落ちるからだ。重さだけでなく車格も上がるので、車体寸法が大きくなり空気抵抗も増える。同じ車体のリーフ同士で比較しても、リーフe+は1.5倍のバッテリーを積んでいるが、一充電走行距離の伸びはリーフの1.4倍である。

バッテリー容量の増大は、購入価格にも影響する。

リーフe+は同じGグレード比較でリーフに比べ138.6万円高く、1.3倍以上だ。リーフとサクラの比較では、やはりGグレード同士で136.62万円リーフが高く、サクラの1.4倍以上となる。ちなみに、アリアとリーフe+の比較では、154.77万円アリアが高く、リーフe+の1.26倍になる。

日産リーフ

一充電走行距離が長くなる一方、大容量のバッテリーを車載するEVは、電力利用の効率は悪くなり、割高となる購入費用に応じた価値があるかどうか、そこはバッテリー容量や一充電走行距離に対する回答へのひとつの検討材料となる。

結論として、普段あまり遠出をしないのであれば、無闇に長い一充電走行距離のEVを購入しても、高額な割に実用性の面で無駄が出やすくなる。

日産サクラ

もちろん、アリアのような、あるいはテスラのモデルYのような3ナンバーのSUVがほしいのであれば、それを選ぶことを否定するわけではない。ほしいEVを買うべきだ。ただ、一充電走行距離という諸元数値の安心感で選んでも、必ずしも得にならないということを知ってほしい。

当然ながら、大容量バッテリーのEVは、電気を使い切ったあとの充電により長い時間を要する。

ところで、万一の停電などに対し、VtoHなどを活用した外部への電力供給能力への期待はどう判断すればいいのだろう。

VtoHのイメージ

一般家庭で1日の消費電力は、およそ10kWhといわれている。サクラの20kWhを満充電から使い切るなら、2日分の電力を期待できる。ただし、それではクルマとしての利用ができなくなるため、半分だけ使うとするなら、約1日分だ。

それを足りると感じるか、不足と感じるか?

東日本大震災では、約80%が3日で停電を解消できたという。一方で、3カ月以上かかった地域もあった。能登半島地震では、9割の復旧まで約1カ月を要した。地震の様子や、地域の事情で、系統電力の復旧にかかる時間は幅がありそうだ。

また、地震では家屋の損傷や倒壊といったことも起こりえるので、自宅に泊まれず、避難所への移動が余儀なくされることもあるだろう。

避難所のイメージ

東日本大震災のおり、東京では節電を目的に計画停電の措置が取られた。24時間のうちある一定時間帯を地域ごとに順に停電とすることで、電力消費を抑える措置だ。この例でいえば、電気が通じている間に毎日充電し、停電したらVtoHで電力を供給できることになる。ならば、基本的にサクラの20kWhでも停電する時間帯を含め毎日電気を使い続けられる。

最悪の事態を考えるときりがない。また、それはあくまで想定であって、想像の域を出ない。

しかし、計画停電の措置や落雷などでの一時的停電への対処であれば、1日分は供給できそうなサクラのバッテリー容量でも、スマートフォンへの充電や家電製品などの待機電力の確保などには使えるだろう。

日産サクラ

ほかに、1日の家庭での電力消費が10kWh程度とするなら、日常的な太陽光発電の有効活用にも、サクラの容量で対処できるに違いない。

EVのバッテリー容量選びは、自分が日々利用する機会の多い走行距離を基準に考え、EV購入費用を含め、割安な合理性を優先すればいいと思う。そこから生まれたゆとり(予算的残り)を、VtoHや太陽光発電の設備投資に割り当てるのが望ましいのではないか。

そして遠出をするなら、経路充電をすれば足を延ばせるし、充電の待ち時間も旅の出会いのひとつと考えるのが、豊かな人生の過ごし方につながると思う。

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