エンジン車から乗り換えても違和感が少ない
結論からいえば、上記3車は、多少の違いはあっても、いま市販されているFCVのなかで世界的にも標準といえる車格や性能を備えているといえるだろう。そのなかで、SUVと4ドアセダンの違いが、用途に応じた選択肢をもたらしている。
ネッソを試乗すると、走行性能に不満はない。とはいえ、同じヒョンデのEVであるIONIQ 5やコナに比べると、やや前時代的印象があるのも事実だ。そこをヒョンデに問うと、ネッソでの電動車両の経験を踏まえ、IONIQ 5以降のEVが生まれており、より電動車両ならではの特徴を活かした独創性が盛り込まれたという。その意味で、ネッソはエンジン車から電動車両へ移行していく過程の試行錯誤が感じられるFCVといえそうだ。よくいえば、エンジン車から乗り換えても違和感の少ない作りである。
ヒョンデによれば、ネッソはミライより多くの台数を世界で販売しているとのことだ。トヨタと同様、ヒョンデも世界でFCVを普及させたい意向があり、それを牽引するのがネッソとなる。
しかしながら、FCVは、世界の趨勢からすると少数派にとどまる。EVは、充電基盤整備がまだ完全ではないとの声はあるが、少なくとも、先進国において系統電力の整備は国の隅々まで及んでいる。それに比べ、水素供給網はまったく足りていない。
実際、国内において153拠点(トヨタMIRAIウェブサイト)にとどまる。一方、急速充電口数は約9100口(e-Mobility Power)、ガソリンスタンドの件数は2万8000軒弱(日本石油連盟、2022年度末時点)というように、格段の差だ。FCVがなかなか進展しない背景に、水素充填の社会基盤整備の難しさがある。
ただし、乗用車以外で、長距離移動が主体となる物流の商用車では、検討の余地があるかもしれない。ヒョンデは、今年9月、米国のゼネラル・モーターズ(GM)と、覚書を交わした。共同での開発や製造、クリーンエネルギー技術調査などについてである。
GMは、1960年代に宇宙技術を活かした燃料電池車を世界で初めて試作した。これまで提携関係にあったホンダの技術者は、GMの燃料電池技術について、かなり高い水準にあると述べている。
ヒョンデは、来年以降に発売予定の新型FCVの行方を示すコンセプトカー、INITIUM(イニシウム=はじまり、または最初という意味)を10月に発表した。
ネッソでの実績を踏まえ、同社のFCVの動向を探るうえで注目すべき一台だろう。