ヤマハ・ディアパソンC580開発の真の狙いとは?
━━この車両はどんな目的の車両で、公道は走れるものなのでしょうか?
千賀氏:公道は走れます。今回は農家さんで使ってもらうようなイメージで作っていますが、(C580というモビリティ自体は)高齢者の免許返納の問題をどうにかしたいなという風に考えて作っています。免許を返納してしまうと、畑に行きたくても行けなくなってしまい、何もできなくなってしまう。それはマズいなということで経産省にうかがったら、申請が必要なものの「普通免許を返納しても、小型特殊と原付の免許は手元に残せますよ」と教えてくれたんです。だったら、小型特殊か原付のモデルを作れば高齢者の足になるなと。しかも、農家さんって毎日自分の畑の状況を見に行くそうで、なおさら足となる乗り物は必要だと。
そういう話を農家さんから聞いていると、出てくる意見というのが「ふたり乗り」を希望する声です。その要望を実現しようとすると、おのずと小型特殊になるわけで、このC580は小型特殊規格で開発しています。ただし、公道を走るためには小型特殊は最高速度が15km/hになりますので、そこは我慢いただくしかないと思っています。
━━ミニカー登録じゃダメなんですか?
千賀氏:ミニカー登録だと普通免許が必要になっちゃうんですよ。だから小型特殊なんですが、15km/hというと自転車ぐらいの速さなんですが、そもそも畑までの移動にそんなにスピードは必要じゃないし、畑のなかの利用と考えたら15km/hは十分速い。
それで、小型特殊のもうひとつのメリットは、高校生でも乗れてしまうということなんですよ。免許さえ取得してもらえば、おばあちゃんの畑を孫が手伝えるという、高齢者も若者も1台をシェアできるというメリットが生まれます。
━━展示されている「C580 Fork 1」はトレーラーが付いていますが
千賀氏:小型特殊にも牽引という枠があって、それに合わせて作っています。重さは350㎏まで対応します。モーターとバッテリーの出力は余裕がありますので、小型特殊の枠に収めるとかなり高トルク型の特性になりますから、こういった牽引という提案もできます。トラクターはアタッチメント部分が規格化されているので、ヤマハとしても(小型モビリティ用に)規格化して、後ろ(トレーラー部)は各農機具メーカーさんなりで思い思いに作っていただくのが理想だと考えています。だからC580はトラクターみたいなものですね。
━━市販化のご予定は? 満充電状態での航続距離は?
千賀氏:来年中(2026年)にはなんとかしたいと思ってます。2時間の充電で航続距離は30kmぐらいです。電動アシスト付き自転車と同じで、車体からバッテリーを外して自宅の専用充電器で充電するだけなので、ガソリンスタンドが減少している過疎部でも気軽に使ってもらえます。
そして、このC580、じつは軽トラの荷台に載せられるんですよ。だから万一充電が切れて立ち往生しても、軽トラで迎えに行って救出できるんです。
━━ということは、レジャー用途に積んで行くこともできるということですね
千賀氏:電動ですから排気ガスが出ませんし、静かですから森に入って行ってバードウォッチングに使うなんていうことも想定しています。
━━(C580 Fork 1に)尾林ファクトリーさんと組んでスピーカーを付けたのはなぜですか?
千賀氏:山形にスイカを買いに行ったら、そこの畑で高校生がイヤホンを耳にさしながら農作業していたんですよ。だったら、これ(C580)にも音楽が聞ける環境が欲しいよね、っていうことで付けてます(笑)。
それと、カスタマイズの楽しさってあると思うので、オプション扱いで好きなようにオーナーの好みで付けてくださいっていうクルマにしたいと思っています。だから、フロントにドーザーを付けたり、後ろにトレーラーを付けたりってことをしています。
━━ところでこのディアパソン C580の価格はいくらぐらいを想定されていますか?
千賀氏:軽自動車以下に抑えたいなと思っています。100万円っていうのは厳しくて、もうちょっと高めになると思うのですが、例えば電池を別売りやリースにするなどして、価格を抑えていきたいと考えています。
とにかく、ディアパソン C580を出すことで、これまでの農家のイメージが変わってくれることを期待しています。農家の方々と話していても「俺たちだってカッコイイのに乗りたいんだ!」って仰るんですよ。
老人はこれに乗っておきましょうという、押しつけがましい従来のイメージから脱却したい。「おじいちゃんが買ったやつカッコイイ」っていわれたいんだと。お孫さんと一緒に乗りたいんだと。とくに団塊の世代の方々にその傾向がすごく強くて、やはり年は重ねても皆さん本音はそこ(カッコイイのに乗りたい)なんだなと分かって、それにこたえる形で開発しています。
この類の車両は、一般的にATVと呼ばれるカテゴリーとなる。米国では需要があるものの日本国内ではやや特殊な乗り物とみられがちだ。しかし、電動モーターとホンダの汎用タイプのバッテリーを組み合わせ、さらに車体サイズを特殊小型の枠内に収めることで、高齢者の足としての活路が見出された。
カスタマイズの余地もあらかじめ残しておくことで、若い世代ではレジャー用途としてファッション感覚でウケる可能性も秘めている。
市販化もそう遠くないということだし、ヤマハ・ディアパソンの今後の展開に注目していきたい。