ホンダが島根県松江市の遊覧観光船「堀川遊覧船(堀川めぐり)」を使ってEV化の実証実験を行っている、小型船舶用の電動推進機プロトタイプについて運営事業者や利用者などから好評である。なぜ、ホンダは小型船舶のEV化を進めているのか?
有名観光スポットを次世代化
山陰を巡る中で、定番の観光スポットとして松江市の「堀川遊覧船(堀川めぐり)」が挙げられる。
松江市は、日本海、宍道湖、中海に囲われた地形が特徴だ。
そうした中に、国宝の松江城があり、また自然豊かな松江を感じる自然区、市街地、そして歴史的な建造物がある歴史区などのエリアが隣接している。
さらに、その周囲には四十間掘川、京橋川、米子川、北田川、城山内堀川などが流れているという、特徴的な街の風景がある。
このような、街中の川を小舟に乗って遊覧するのが「堀川めぐり」だ。運営するのは、公益財団法人 松江市観光振興公社。
営業時間は、3月1日から10月10日までは午前9時から午後5時まで、また10月11日から2月末までは午前9時から午後4時までと、春夏秋冬の松江の街の雰囲気を楽しめる。
船の定員は10人から12人で、料金は大人1600円。遊覧時間は約50分である。
乗船中は、船頭さんの名調子で、松江の歴史や観光スポットについての話を聞く。
カーボンニュートラルに対する考え方が一致
今回の実証実験は、ホンダと松江市のカーボンニュートラルに対する考え方が一致したことで実施している。
ホンダは、四輪車については2040年までにグローバルで全ての新車販売モデルをEV化、またはFCEV(燃料電池車)化することを経営方針として打ち出している。
さらにその先、2050年にはホンダが手がける四輪車事業以外の、二輪車と船舶(船外機等)を含めた全ての事業でカーボンニュートラルを目指すとしている。
一方で、松江市の場合、脱炭素先行地域としてカーボンニュートラル観光という指針を掲げて、地方創生に取り組んでいるところだ。
そうした中で、松江市の主要な観光アイテムである「堀川めぐり」を、ホンダの先端技術によってカーボンニュートラル化する試みを始めたというわけだ。
搭載する動力系機器は、ホンダが、出力4kWの電動パワーユニットと、着脱式可搬リチウムイオン電池の「モバイル・パワー・パック(MPP)」を、またギアケースとロワーユニットなどのフレーム領域をトーハツが開発を担当した。
静粛性高く、ノントラブル
これまでの実証実験について、ホンダの小型電動推進機機の開発責任者である高橋能大氏は「電動化の価値の検討としては、かなりの手応えを感じている」とポジティブな感想を持っている。
8月の実証開始から、関係者の試乗会を中心に100人以上が乗船しているが「不快な振動が全くない」「水面を滑るように進む」といった、振動や音に関する高い評価の声が多いという。
実証期間中、機器の不具合はなく、引き続き長期的な観点での各部の劣化などの評価をしていく予定だという。
今後については、バッテリーの交換作業を含めて、運営サイドの運航の効率化の検討を進める。
10月下旬からは、松江市民を対象としたモニター運航も実施される。
近い将来、「堀川めぐり」の船が全てEV化する日が来るかもしれない。