ヘリティッジを活かし、あたらしい世代を創造
もうひとつ、デザイナーとして印象ぶかかったのは、キャビンの造型だったとワイル氏は言う。
「後席乗員の存在がことのほか大事なのです。そこで、まず考えなくてはならなかったのは、後席における乗り降りの容易性です。そこでキャビンは比較的に立ちぎみにして、動線を確保しました」
M70をはじめとする7シリーズは、たんに他のクルマと違っていればいい、というわけではなかったそうだ。後席を重視したことがわかるキャビンの造型をはじめ、ある種のステータス性を感じさせるデザインを追求したという。
「そのためディテールにも凝りました。一例は、後席用ドアのリアクォーターウィンドウをチェックしてみてください。ガラスにパターンを入れることで、後席乗員が誰なのか、外から容易にわからないようにしています。乗員のプライバシーを考慮したデザインなのです」
もちろん、後席用ドアのウインドウフレームは、BMWが伝統的に大事にしている「ホフマイスターキンク」デザインが適用されている。
ホフマイスターは、1955年から70年までBMWデザインスタジオのシェフ(統括)だったウィルヘルム・ホフマイスターのことで、後席用ウインドウが弧を描いている独特のデザイン処理は、彼の指揮下で61年に初採用されたものだ。
ホフマイスターキンクは、4ライト(リアクォーターパネルにウインドウをもたないデザイン)か、クーペでないと、活きてこないデザインだ。
7シリーズは後席をここまで重視して開発したなら、リアクォーターパネルにウインドウを開けた6ライトデザインを採用する可能性だってあったのではないだろうか。
「初期のデザインプロセスでは、その可能性も考えました。でも結論は、私たちがデザインしているのはBMWなのだから、BMWの特徴を取り除いて成立しない、というものでした」
ワイル氏はそう説明するのだった。
ダッシュボードには、大きなカーブドディスプレイが採用されている。車両のドライブモード選択をはじめ、ナビゲーションも空調も音楽も、つまりインフォテイメント全般が操作可能だ。
デジタライゼーションに早くから注目していたBMWならではの装備だ。ここでも、BMW独自の、コクピット全体がドライバーのほうに向いているセントラルテーマが採用されている。
ヘリティッジを活かしながら、あたらしい世代を創造していく。それがBMWのデザイナーであることの醍醐味だと、ワイル氏は言う。そのとおりの世界観が実現されていると私も感じた。
BMW i7 M70 xDrive