EVでも生き残るラジエターグリル いうまでもなく自動車において、スタイリングなどのデザインは商品性として重要な要素に違いない。電気自動車(EV)の造形として象徴的なのが、米国のテスラだろう。同社は、EVしか開発・製造・販売していない。従来のクルマの形にとらわれることなく、新車を創造することができる。 クルマの姿形は、機能を覆う皮膚のように、その造形が発展してきた。エンジン車は、ガソリンを燃焼することで高温になるエンジンを冷やすため、ラジエターが不可欠だ。冷却を効率的に行うため、車体の先端にラジエターグリルが設けられている。ドイツのBMWは、“キドニーグリル”と呼んで、同社のクルマの外観的特徴としてラジエターグリルを位置づけている。その昔、空冷エンジンを使ったフォルクスワーゲンの「タイプ1」(通称“ビートル”)は、ラジエターを必要としなかった。そこでエンジン車にもかかわらず、グリルレスであることが外観の特徴になった。同様に、当初はビートルの部品を流用したスポーツカーのポルシェもグリルレスで、現在は水冷エンジンを使うが、グリルレス的な表現を継承している。 クルマの外観は、中身の機能によって影響を受ける。EVになれば、モーターやバッテリーがある程度の熱を持つが、エンジンほど高温ではないので、大きなラジエターは必要ない。テスラのようなグリルレスの顔つきは、機能を形で表現したひとつの姿といえる。 一方、永年にわたりエンジン車を販売してきた自動車メーカーは、キドニーグリルを特徴としてきたBMWのように、EV専用車種でもその造形を外観の特徴としていまは残している。メルセデス・ベンツの「EQS」や「EQE」、アウディの「e-tron」などもEV専用車種だが、メルセデスではマスコットの“スリーポインテッド・スター”を配したグリルや、近年のアウディを象徴してきた“シングルフレームグリル”は残したままだ。ただし、ラジエターグリルのように空気が通り抜ける機能はなく、蓋をしたようなつくりだ。 クルマの顔つきは、各社の象徴である。簡単に変更できないかもしれない。だが、この先ある時点で、EV時代にふさわしい顔つきがもっと広がっていくのではないか。テスラは、グリルレスとはいえ光の陰影を活かした顔つきを生み出した。 オーバーハングの短さはEVの特徴 EVらしさの表現は、ラジエターの有無などによる顔つきに留まらない。 背景にあるのは、機能をもたらす部品である。床下一面に駆動用バッテリーを敷き詰めるEVは、駆動系や充電系の機器をその前後に配置する。ここから、ホイールベースが長く、前後のオーバーハングは短い姿になる傾向にある。 英国ジャガーの初のEVである「I-ペイス」は、エンジン車のSUVと同様の姿に一見思えるが、オーバーハングがかなり短い。ラジエターが不要なだけでなく、駆動用モーターがエンジンに比べ小さいためにショートノーズだ。広々として見える客室の前方に鼻さきが少し出っ張るといった、独特の姿になっている。そうしたわずかな違いで、エンジン車と並べてみたときの存在感はずいぶん違う。 メルセデス・ベンツ「EQS」や「EQE」も、客室部分が長く見え、前後のオーバーハングは短い。車体全長はエンジン車の「Sクラス」とあまり変わらないが、長いホイールベースと短いオーバーハングによって、独特な存在感を備えている。 テスラの各車種が路上で目立つのも、グリルレスな顔つきだけでなく、短いオーバーハングやロングホイールベースが、個性を引き立たせているだろう。駆け抜けていくテスラは、一目でほかと違うことを意識させ、目を引く。