充電インフラの現実とBEV普及の壁
日本政府は2035年までに新車販売のすべてを電動車(BEV、PHEV、FCVを含む)にするという目標を掲げている。これは、カーボンニュートラルの実現に向けた国家的な方針で、乗用車に関しては「新車販売で電動車100%」を目指すと明言されている。しかし、現実的には、「本当にBEV(バッテリーのみの電気自動車)を無理に普及させる必要があるのか?」という疑問が浮かぶ。
CO2削減という観点から見れば、BEVの製造過程でもCO2は排出される。そのため、燃費性能に優れたHEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)の普及だけでも十分な効果が期待できるのではないだろうか。むしろ、充電インフラの現状を考えると、BEVはその走りや静粛性、加速感といった特性を本当に愛する人だけが乗ればよいという考え方の人がいてもおかしくはない。
国内のBEV充電インフラは、近年急速に整備が進んでいるものの、依然として課題が多い。経済産業省の調査では、2024年3月時点で、国内のEV急速充電の設置数1万128基、普通充電(200V)3万195基という状況である。EV充電スタンドは上記の数にテスラ専用のスーパーチャージャー(SC)のステーション数128の急速充電器数が加わるが、いずれにしても普及率や設置数の面で、利用者の利便性を十分に支える水準には達していない。
また、都市部では急速充電器の設置スペースの確保が難しく、駐車料金が別途かかるケースも多い。地方では自宅充電がしやすい一方、公共充電スポットの利用頻度は限定的となる。さらに、長距離移動時の経路充電、とくに高速道路のサービスエリアでは混雑や台数不足が問題となっており、繁忙期には「充電渋滞」が発生することもある。
設置から8~10年が経過して老朽化する充電器も増えており、更新や維持のためのコスト負担が事業者の重荷となっている。一部の古いCHAdeMO充電器は故障や老朽化が進み、設置場所に行ってみると利用困難なケースがあったり、採算が合わず撤去されたりしているケースも少なくない。
以上のことを考えると、家庭用充電設備の設置ができない集合住宅住まいのユーザーや長距離移動が多いユーザーにとって、BEVの選択は依然としてハードルが高い。
一方、ガソリンスタンドの数は2023年度末で2万7414カ所。政府は、2030年までに「公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置する」との目標を掲げているが、給油時間と充電時間の違いもあり、利便性としてBEVの充電環境は厳しいといわざるをえない。