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ブレーキダストを封じ込めて環境対策! メルセデス・ベンツが開発したEVならではの技術「インドライブ・ブレーキ」ってどんなもの?


TEXT:大内明彦 PHOTO:大内明彦/メルセデス・ベンツUSA/TET 編集部
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インドライブ・ブレーキはエネルギー効率に優れる

その特徴とメリットを挙げてみよう。まず、EV用のブレーキシステムであるという点だ。EV(HVも含む)は、減速時(制動時)に駆動輪でモーターをまわし、モーターを発電機として使う回生という働きをもっている。これは内燃機関車のエンジンブレーキと同じ動き方だが、電気モーターを使うEV(HV)の場合は、減速の動きを発電として利用し、駆動用バッテリーに充電できることから、エネルギー効率に優れることになる。

逆にいえば、駆動輪によってモーターをまわす力は想像以上に大きなもので、EV(HV)の場合、減速に対するメカニカルブレーキへの依存度はかなり低くなり、補助制動と見なせるレベルに達している。もちろん、使用するモーター容量(出力=発電力)によって減速/制動効果は異なってくるが、ひとつ興味深い例があるので紹介しておこう。

HVのリードランナーといえばトヨタだが、トヨタが2012年に始まったWEC=世界耐久選手権(ル・マン24時間も同規定)にHVプロトのTS050(8MJ規格時)を登場させた際「回生力が大きくメカニカルブレーキなしでも走れるほど(ル・マン参戦時)」とコメントを述べていた。300km/h超のスピード域からメカニカルブレーキに頼らず減速が可能というHV(事実上はEV領域だが)の制動(回生)能力の大きさには驚かされた。

TS050

EVの制動性能が、メカニカルブレーキに対する依存がきわめて小さいことに着目したメルセデス・ベンツは、駆動輪用ブレーキとして密封構造が可能なインボード式を選択。わざわざインボードブレーキ用のハウジングを設ける必要はなく、モーター(駆動系)ユニットと一体化したハウジング構造とすればそれで事足りる。さらに、ブレーキのインボード化には、ほかにもメリットがあった。

インボード化によってバネ下重量が軽くなることだ。バネ下重量の軽減は、接地性能の向上、乗り心地の良化などに効果が大きく、かつてはバネ下1kgの軽量化がバネ上10kgの軽量化に匹敵する、とまでいわれたこともあった。車両の運動性能向上にもプラスに作用するためインボード化は必須。ただ、ブレーキユニットを密封構造とすれば放熱性能が悪くなったり、ブレーキダストの処理をどうするのか、という問題があった。

放熱性能に関しては、EVの主たる減速機能は回生作用にありメカニカルブレーキはそれの補助と考えれば、発熱量自体もそれほど大きなものではない、と考えることができる。放熱作用に関して何らかの対策は必要だが、密閉式の構造でも十分対応可能という結論が得られたのだろう。

インドライブ・ブレーキのイメージ

一方、パッドでローターを挟み込み制動力を生み出すブレーキ自体の構造は変わらず、その際生じるブレーキダストはどうするのか、という問題は残るが、これも減速に対するメカニカルブレーキの役割は副次的と考えれば、耐摩耗性に強い材質のパッドを用いることで(制動のための摩擦力は大きくないが、対摩耗性に強い=高硬度のパッド材質)ブレーキダストの発生量を抑え、かつブレーキのメンテナンスサイクルをきわめて長くできることから、メンテナンスフリーと見なすことができるシステムのようだ。

事実上の二酸化炭素排出ゼロを目指すためのEV化だが、パワーユニットが電気モーターになることで、これまで必要不可欠と考えられてきた自動車の基本構造が、根底から覆ることにもなりそうだ。充電システムなどインフラの整備は別問題として、どうやらEV化によって自動車の概念が大きく変わることは確実なようである。

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