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急速充電の多用は避けるべき
しかしながら、調査結果のなかで気になる点が2点存在します。1点目として、その7000台以上のBEVのモデル別内訳という観点です。このなかにバッテリー劣化のコントロールが優れているといわれるテスラ車がどれだけ含まれていたのか。さらに三元系やLFPといったバッテリーの種類による違いはあったのかなど、より詳細な電池劣化率に関するデータ分析が必要かと思います。
また、ごく一部の標準偏差から大きく外れてしまっている、バッテリー劣化の激しい車両の詳細も重要でしょう。工業製品であることから100%はなく、どうしてもまれにバッテリー劣化が激しい「不良車両」が一部存在してしまうわけです。この車両がなぜこれほどまでにバッテリーが劣化してしまったのかは原因を調査する価値があると思います。
その一方で、自動車メーカー各社は最低でも8年16万kmまでは、バッテリー残存率70%を保証するというバッテリー保証を付帯しているのでバッテリー交換が可能となります。
そのうえで、レクサスやメルセデス・ベンツ、テスラなどは、業界標準となる8年16万kmを上まわるバッテリー保証を提供。いずれにしても、保証内容も含めてほとんどの場合において、バッテリー不良の心配をする必要がないといえるのではないでしょうか?
バッテリー劣化を最小化するために我々ユーザーができることとして、
・駐車時において、バッテリー温度を25度以下に押さえ、充電残量を10%から50%の間で保管(とくに充電残量80%以上で長期保管するのはバッテリーへの負担増)
・急速充電の多用、急加速急減速の乱用を控える
以上2点を心がけるといいでしょう。
とくに2点目の理由を理解するうえで押さえたいのがCレートという概念です。これは、バッテリー容量に対してバッテリーに対する入出力がどれほど大きいのかを示す指標です。たとえばアリアのバッテリー容量は91kWhであるのに対して、最大充電対応出力は130kW。よって、充電における最大充電Cレートは約1.43Cであると算出します。また、アリアの最高出力は320kWであることから、瞬間的に対応可能な最大放電Cレートは3.5C程度であると算出します。
ちなみに、中国Zeekrが発売中のGoldenバッテリーを搭載するZeekr 007の場合、最大充電Cレートは5.5Cに到達。さらに、シャオミが2025年3月に発売するSU7 Ultraでは、最大放電Cレートは16Cに到達します。
そして、Cレートが高いということは、その分バッテリーに負荷をかけていることを意味し、急激なバッテリー温度の上昇にも影響してしまうことから、Cレートの高い急速充電や急加速は控えたほうがいいということになるのです。
とはいうものの、急速充電と急加速におけるCレートを比較すると、急加速のほうが瞬間的なCレートは何倍にも達しています。よって、自宅に設置した普通充電を使用しながら、1〜2カ月に1回の旅行において急速充電を使用するという程度の運用方法であれば、バッテリーの劣化に大きな影響を与えることはありません。
むしろCレートのより高い急加速、およびヒョンデIONIQ5 Nやポルシェ・タイカンなどのハイパフォーマンスEVに採用される強力な回生ブレーキの多用のほうが負荷が大きいという点も忘れてはならないのです。
ちなみに、テスラやBYDはLFPバッテリー搭載車両に対して充電残量100%状態を保つようにアナウンスしています。充電残量80%以上での車両保管の非推奨と相反するように見えますが、結論としてはLFPの場合充電残量100%を優先するべきです。
というのもLFPは耐久性が高く、たとえばBYDのBladeバッテリーの場合、充放電サイクルは3000回以上に対応しており、これは走行距離にして100万kmというレベルです。
他方でLFPの弱点は、充電残量の違いによる電圧差が低いことによって、厳密な充電残量把握が難しいという点です。EVのバッテリーマネージメントシステムが充電残量を把握する際、その電池セルごとの電圧差から充電残量を予測するため、定期的に充電残量を100%にしてリセットをかけないと、正確な充電残量把握に悪影響が出る可能性があるのです。
いずれにしても、今回の第三者機関によるVの大規模なバッテリー劣化の調査結果から、すでにEVを購入する際の大きな懸念点ともなっていたバッテリー劣化問題は、一般ユーザーが大きく心配する必要のないレベルにまで進歩しているといえるのかもしれません。