最新技術導入でベース車両とは別物に
では、実際の走りはどうなのか。
道幅もコーナーのRもタイトなうえ、アップダウンや凹凸にも富んだ、ごく短い試乗コースは、市販モデルでも全幅が1865mmに達し、それをさらにワイド化した試作車のCR-Vにとって、有り体にいってあまりにも狭すぎる。そのため走り始めた直後は、「世界に1台しかないかもしれない試作車を絶対にコースアウト、スピン、クラッシュさせまい」と、ゆっくり慎重に走らざるを得なかった。
だが、最初の左コーナーに進入した瞬間、それがまったくの杞憂だったことに気付かされる。全高約1700mmのSUVスタイルながら、重心はその数値よりも遥かに低く感じられ、ターンイン直後から立ち上がりまでまったく不安を覚えない。
しかも、イン側の大きな凹凸に乗り上げても、路面からの入力を綺麗にいなしてくれるため、挙動が乱れる予兆はまったく見られず、突き上げも極めて軽微で、快適な乗り心地だった。
同乗したホンダの説明員によれば、この試作車の乗り心地は「新型CR-Vの市販モデルよりも遥かに快適」なのだという。何度も繰り返すが、これは試作車。にもかかわらず、である。
試乗コースの中間ほどでは、左25R→右20Rの非常にタイトな複合コーナーが現れるものの、この試作車はステアリングをもち替えることなく軽快に、かつ穏やかなロールを伴いながら揺り戻しもなく、抜群の安定感でクリアすることができる。これならば一般道の交差点でもステアリングをもち替えず、かつ同乗者がいても身体を車体外側に大きく揺さぶることなく左折できるだろう。
その後は比較的緩いS字コーナーが続いたが、わずかな舵角とアクセルのコントロールだけでスムースに通過。モーターのトルクの出方はアクセルペダルの踏力に対しリニアでレスポンスもよく、かつアクセルオフ後の回生ブレーキも強すぎず弱すぎず唐突感もない、非常に扱いやすいものだった。
この走りを実現するために、ボディをしならせるのみならず、前後モーターのトルク、前輪の舵角、サスペンションやブレーキなどを統合制御していると思われる。しかし、そのボディのしなりは非常にリニアで、かつモーターとシャシーの統合制御は極めて緻密なのか、どれほど全身の神経を研ぎ澄ませながら運転しても、いかにも制御している感のある、唐突で不自然な挙動ないし操作感覚の変化は、まったくといっていいほど感じられない。
だからクルマの車両感覚をつかみ、走行コースを覚えてしまえば、自信をもってストレートでしっかり加速・減速し、コーナーを攻めることができる。そのため、2周目以降は純粋に、その軽快で意のままに操れる走りを楽しみ、運転に集中することができた。
現時点でこれほどまでの完成度に仕上がっているのであれば、CES 2024で公開された2台のコンセプトカーのうちの1台「サルーン」の市販モデルを遅くとも2年後、2026年内に発売するという計画が、極めて現実的なものに思えてくる。
果たして公道ではどのような走りを見せてくれるのか、それを試せる日が来るのが今から楽しみで仕方がない。