2022年の自動車総生産台数は約2,700万台で世界首位。新車販売に占めるEV比率は20%に達した。今や中国が世界の自動車業界を牽引していると言っても過言ではない状況だ。その理由について、中国自動車業界に精通する加藤ヒロト氏にレポートしてもらった。
中国で高評価される「先進性」はEVとのマッチングが良い?
中国メーカーのクルマを評価するポイントのひとつとして、よく「先進性」という言葉が用いられる。非常に曖昧なこの表現は人によって解釈が分かれるものだし、私もできれば使いたくない。だが、実際に中国の消費者、とりわけ90年代以降に生まれた「90後」や00年代以降に生まれた「00後」はクルマを選ぶポイントのひとつとして「先進性」を重視しているという。
もちろんメーカー側が消費者にそういう提案をしているからとも言えるし、「卵が先かニワトリが先か」ジレンマの一例に例えられるかもしれない。とはいえ、実際問題として昔からある日本や欧州、米国のメーカーが中国メーカーに遅れを取り、販売台数でも圧倒されているのは事実だ。その要因のひとつに、多くの人は「先進性の違い」を挙げている。
最近の中国車を見てみると、インテリアはたくさんのディスプレイに溢れている。日本車や欧州車でも最近はインストルメントパネルのディスプレイ化、そしてセンターディスプレイの搭載はもはや当たり前となっている。
だが、中国メーカーはそれだけで飽き足らず、「助手席用ディスプレイ」がデファクトスタンダードになりつつある。そしてこれはBEVやPHEVなどの新エネルギー車だけでなく、通常のガソリン車やHEVでも見られる風潮だ。助手席用ディスプレイの形式はさまざまで、運転席側ディスプレイからセンターディスプレイを介して継ぎ目のない一枚の画面にしているメーカーもいれば、助手席側のサンバイザーにディスプレイを埋め込むスタイルも見られる。
ディーパルS7に見る中国の「理想像」
長安汽車が2022年に立ち上げた電動ブランド「ディーパル(深藍)」のSUV「S7」に試乗した際も、最初は助手席用ディスプレイが見当たらなかったので不思議に思っていたのだが……。サンバイザーを下ろしたら12.3インチディスプレイが出現して度肝を抜かれた記憶がある。
ディーパル S7では最下位グレードを除く全グレードでオプション装備として設定しており、これが装備されないと内装のディスプレイは15.6インチのセンターディスプレイのみとなる。運転席側に位置するディスプレイは元から存在せず、通常のクルマではメーター周りに表示されていた速度や警告灯、車両状態はセンターディスプレイ左側に表示する形式となる。
これ以外にも、「左前の窓を開けて音楽を再生して」といった複数のコマンドに対応できる音声認識機能や、手で作るジェスチャーでメディアの操作や車内の写真撮影など、いかに車内で過ごす時間を充実させられるかにメーカーは重点を置いている。
この傾向は日本や欧州、米国といった昔ながらの市場で想定されるクルマの「理想像」とは大きく異なるもので、これこそが日米欧メーカーが中国メーカーに遅れを取っている一因と言われている。見方を変えれば、中国はクルマを所有できるようになってまだ日が浅く、自家用車に対する消費者の眼もまだ成熟していないことの証左でもある。
そのため、「ディスプレイだらけの内装」「音声やジェスチャーコマンド」といった「スマートフォンの延長線上」のようなわかりやすい要素でクルマを判断してしまうのだ。乗り心地やハンドリング、ブレーキタッチ、そして長期的なアフターサポートや伝統的なブランドイメージや信頼性などは二の次で、ある意味「玩具」「ガジェット」みたいなクルマが好まれる傾向にある。