商品化に向け必要不可欠な連邦航空局の型式認定手続きを開始
インホイール・モーターの採用で公道も走れる名実を伴った「空飛ぶクルマ」
【THE 視点】米国カリフォルニアに本社を置くASKA社は8月2日、空飛ぶクルマ「ASKA A5」が初飛行に成功したと発表した。テザーケーブルで地上に繋がれた状態で垂直離陸をし、30秒間の安定したホバリングに成功したという。
「ASKA A5」は、垂直離陸に加えて滑走路を利用した離着陸、そして公道を自走可能な空陸両用の空飛ぶクルマである。7月21日に、連邦航空局(FAA)の認証書(COA)と特別耐空証明を取得し、FAAの型式証明手続きを正式に開始したとも発表している。また、米国自動車管理局(DMV)より公道用のナンバープレートも取得済みだ。価格は1機78万9,000ドル(約1億1,300万円)で、2026年の商業化を目指している。
日本で一般的に認知されている空飛ぶクルマは、ドローンの大型版のようなもので、機構はヘリコプターに近い。
しかし「A5」は、飛行機に近い機構を持つ。浮上後は、推進用のプロペラと「主翼」の揚力を使用し飛行する。翼自体の浮き上がる力を利用するので、エネルギーの節約になる。この機構は、アメリカ海兵隊の輸送機「MV-22 オスプレイ」の仕組みに近い。
飛行航続距離は250マイル(約400km)で、飛行最高速度は時速150マイル(約240km)。パイロットを含めた4人乗りで、ボディの大きさは「SUVサイズ」と公表しているが、写真から推測するに大型の商用バンの方が近いだろう。
飛行のための機構もユニークだが、一般車に混じって公道走行可能なことも大きな特徴だ。駆動系にはインホイール・モーターを採用し、地元シリコンバレーの公道において、300マイル以上(約480km)の走行に成功している。ちなみに駆動系は全てモーターだが、発電用に内燃エンジン(レンジエクステンダー)も搭載している。自家発電機能があれば飛行中の安心感も高くなる。もちろん、エンジンを駆動せずとも家庭用電源や公共の設備を利用して充電が可能だ。
現在、一般認知されている「空飛ぶクルマ」は自走不可の(タイヤ自体がない)電動の航空機である。しかし「A5」は、公道を自走可能というクルマ本来の能力を備えている“本当の空飛ぶクルマ”と言える。
実は筆者の知人がこのASKA社のボードメンバーにおり、5月に会った際に話は聞いていた。三菱重工の小型ジェット機「MRJ」が商業化から撤退した理由は、型式認証の影響もあったようで、「A5」はこの関門をクリアしての発表である。ASKA社内の雰囲気は、失敗に対しては「良い経験を積んだ」と寛容なようで、長距離飛行テストもじきに開始されるだろう。
日本でも、2025年の「大阪・関西万博」でのデビューに向けて空飛ぶクルマの開発が加速している。しかし名実を伴う空飛ぶクルマは、ASKAが先を飛んでいるように思う。やはり地を走れてこその「クルマ」ではないだろうか。
アメリカ本国では、「A5」のプレオーダーが始まっている。日常は陸路で子どもの通学の送迎ができ、休日には空を飛んで隣県の大型スーパーに買い物に行けるような“スーパーカー”のお値段は、なんとハイパー・スポーツカー「パガーニ」などよりも安い。2026年の発売が待ち遠しい。
(福田雅敏-EV開発エンジニア、THE EV TIMES エグゼクティブ・アドバイザー)
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デイリーEVヘッドライン[2023.08.04]