もうちょっと快適性が上がれば文句なし
充電の話が先立ってしまったが、ID.4 Proを走らせた印象も述べておきたい。
フォルクスワーゲンといえば、始動すると実用車然とした振動とともに元気に目覚めるのが通例だが、電気自動車であるID.4はまるで高級車のように静かに走り出す。20インチ・タイヤに支えられた乗り心地は終始ファームと言っていいだろう。末永く使われることを前提にあらゆる部分がしっかりと作られている反面、日本の地方に多い継ぎ接ぎの補修をした路面では硬めの衝撃を直接的に伝えてくる。
こうしたSUVタイプ、しかもタイヤがフロント235幅、リヤ255幅というスーパースポーツカーのようなサイズでは、ロードノイズが気になるのが当然だが、静粛性にかなり気を遣ったと思しきブリヂストンのトレッドパターンも奏功してか、室内に伝わる騒音は十分に抑えられている。欲を言えば、フロント側の遮音がもう少し入念だと完璧だけれども、前方に何もコンポーネンツやフランク(前側トランク)の備わらないID.4でこれ以上を望むのは酷というものだろう。
150kW(204ps)のシングルモーター、77kWhというバッテリー容量、2,140kgという車両重量の組み合わせは現在の電気自動車で許されたコンポーネンツの組み合わせとしてはベスト・バランスに思える。加速は必要にして十分、車両後方に重心のある重量配分で前輪が駆動を負担しないため、ハンドリングはとても軽快である。
ただしリヤシートに座ってみると、ここまでスポーツカー的でなくてもよかったのでは? と思わなくもない。シートの形状や表面素材、想定した乗員重量の兼ね合いか、常に上下左右に身体が動いて落ち着かない印象を受けた。フットブレーキの踏力とストロークが比例せず、コントロールしにくいことも指摘しておきたい。粗い路面における乗り心地は、18インチ・タイヤを履く「ID.4 Lite」ではかなり改善されているのではないだろうか。
まだ細かい部分に成長の余地があるとはいえ、フォルクスワーゲンID.4 Pro Launch Editionはこれまで筆者が走らせたいくつかのEVの中でもベスト・バイと表現して間違いのないモデルである。移り変わりの早いEVの世界を、まずこのモデルから定点観測し始めるのは妙案だろう。