製造戦略のカギとなるバッテリーの現地調達
そもそも、バッテリーはワッセナー条約(通常兵器および関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント)の対象品で、国家間の輸出入を禁じられる製品だ。ワッセナー条約とは、かつてのココム(対共産圏輸出統制委員会)と同様の規制である。
したがって、EVは基本的にバッテリー製造工場のある地域で完成車を生産し、商品として市場へ運ばなければならない。世界各地にバッテリー工場があることにより、完成車の輸送費用がさがり、新車価格を抑えることにつながる。
自動車メーカーが自らバッテリー生産工場を持つだけでなく、EVを売りたい地域に生産工場を持つバッテリーメーカーとの契約が新車価格を左右する。単にバッテリーをどれだけ仕入れられるかといった量の確保のための投資や契約だけでなく、現地生産化のためのバッテリー入手が、価格競争において不可欠になるのだ。
仕入れ先と生産工場の地理的関係性という点において、EVはエンジン車と違った製造戦略が求められる。ここに出遅れれば、販売台数の確保はもとより、販売価格で商品力を失うことになる。
EVの新車価格を抑える難しさ
もうひとつは、生産工場での製造効率だ。
eKクロスEVとサクラがかつてのi-MiEVの半額近くで売り出せた理由のひとつは、i-MiEVを製造してきた三菱自動車工業の水島工場で生産していることが貢献している。
水島工場では、エンジン車の「i(アイ)」とi-MiEVを同じ生産ラインで混流生産してきた経験を10年以上持つ。その知見を活かし、限られた設備の改良でeKクロスEVとサクラを生産できるようにした。つまり、生産工場への新たな投資を抑えて市販できているのである。
製造効率の点においても、従来、エンジン車での車種違いによる混流生産の経験はあっても、車載部品の異なるEVとエンジン車やハイブリッド車との混流生産をしようとするなら、そう簡単に生産ラインの調整はできないのである。そのための投資が余計にかかれば、製造原価という点で新車価格を下げるのが難しくなる。いち早くEV生産への着手が望まれるのは、このためだ。
テスラが、新車価格をそのときに応じて自在に上下できるのは、EVしか生産していないからだけではなく、世界各地でバッテリー生産のギガファクトリー建設に投資してきたからだ。中国のBYDが、高い商品性を持ちながら競合他社に比べ身近な価格で販売できているのは、元々バッテリー企業であり、加えて半導体を含め電装部品を自社生産しているので、自ら原価の調整ができるのが競争力ある価格での販売につながっている。
以上のように、EVを開発してつくることはできたとしても、競争力ある新車価格を達成するのは一朝一夕にはいかない。日本がEV戦略で後手に回っていると指摘される理由がそこにある。