コラム
share:

トランスミッションを装備したEVは今後増えるか……現役EVエンジニアが解説するギヤ付きEVの意外な難点[THE視点]


TEXT:福田 雅敏 PHOTO:ABT werke
TAG:

EVとトランスミッションが相容れない意外な理由

このように現在では、小型車からトラクターヘッドに至るまでトランスミッションを採用するEVが増えつつある。しかしこれから爆発的にトランスミッション装備のEVが増えるかというと、話はそう単純ではない。

トランスミッションはギアの塊なので、ノイズや振動が当然発生する。その箇所に十分な対策を施さないと、EVの車内にノイズが響いてしまうのだ。内燃エンジン車であればエンジン自体のノイズや排気音で目立たなかった部分が、EVの「圧倒的な静粛性」のおかげで問題になってしまうわけだ。

またEVの加減速は非常にスムーズである。トランスミッションを載せた場合、ショックがなくスムーズに変速が行われるようにしなければ、滑らかな加速などの特性を損ねる可能性もある。

さらに現在は、モーター一体型駆動装置(イー・アクスル)の採用が進んでいる。イー・アクスルは、インバーターとモーターなどをコンパクトにまとめた装置だが、ここにトランスミッションを組み込めば、逆に大型化してしまい本末転倒となる。

それよりもモーターの性能を上げてより小型化する方が良いのは明白だ。もちろんトランスミッションを組み込めばコストも上がってしまう。自動車メーカーは首を縦に振らないだろう。

EVからトランスミッションはなくならない

ここまでEVのトランスミッションを搭載する上での課題や問題点を書いてしまったが、もちろんメリットも多くある。

先にも挙げたが、オンロードとオフロード、高速と低速など違ったシーンを1台でこなすような場合ではトランスミッションは有用だ。「マグニトー」の場合は強力な登坂能力、「タイカン」の場合はアウトバーンを走行できる高速性能を電費とともに両立できる。

またトランスミッションによって、モーターの効率の良い回転域を幅広い速度で維持できるようになれば、電費が良くなり航続距離の延伸やバッテリー容量を少なくすることも可能だ。重量物かつ高価なバッテリーを小さくできれば、軽量化やコストダウンが可能になるのだ。

筆者もこれまでに多くのEVを制作してきたが、コンバージョンEVのようにエンジン車のトランスミッションをそのまま流用したことで、改造費も低く抑えることができた。

ここまでEVのトランスミッションのメリットとデメリット双方を書いてきたが、今後EVには、トランスミッション搭載車も非搭載車も両方存続していくだろう。ただ、トランスミッション搭載車は、大きなトルクや高速度走行が必要といった特別な車に搭載されると思う。「マグニトー」のようなMTはかなり特殊な例だが存続はするはずだ。

特にトヨタが「AE86」で体現した「クラッチやシフト操作が残るファンなクルマ」をEVでも残すことは、車好きを守り育てる意味でも重要ではないだろうか。

TAG:

PHOTO GALLERY

NEWS TOPICS

EVヘッドライン
ブレーキダストを封じ込めて環境対策! メルセデス・ベンツが開発したEVならではの技術「インドライブ・ブレーキ」ってどんなもの?
ヒョンデの魅力を日本に伝える新たな拠点! 「ヒョンデ みなとみらい 本社ショールーム」がグランドオープン
中国から地球上最強コスパの新星EV現る! IMモーターL6の驚くべきスペックとは
more
ニュース
ロングホイールベース化で後席が7シリーズ並! BMW 5シリーズ 「i5 eDrive35L」と「525Li」に「Exclusive M Sport」を追加
中国専売EV第2弾はクロスオーバーSUV! スポーティなクーペ風スタイリングがマツダらしい「EZ-60」を上海モータショーで発表
上海モーターショーで見えたトヨタのマルチパスウェイ! フラッグシップEV「bZ7」とレクサス新型「ES」を同時発表
more
コラム
やっぱりEVの値落ちは激しい! エンジン車と残価率を比べるとEVを買いづらい理由が見えてくる
バッテリー容量が変わらないのに航続距離が伸びる謎! エンジン車とは違うEVならではの「持続進化」とは
水素燃料電池車は大型トラックでこそ活きる? FCVトラックのいまの立ち位置と立ちはだかる課題
more
インタビュー
電動化でもジーリー傘下でも「ロータスらしさ」は消えない? アジア太平洋地区CEOが語るロータスの現在と未来
「EX30」に組み込まれたBEVの動的性能とは。テクニカルリーダーが語る「ボルボらしさ」
「EX30」には、さまざまな可能性を。ボルボのテクニカルリーダーが話す、初の小型BEVにあるもの
more
試乗
【試乗】5台の輸入EVに一気乗り! エンジン車に勝るとも劣らない「個性」が爆発していた
【試乗】CR-Vに中身を乗っけただけのプロトなのにもう凄い! ホンダの次世代BEV「0シリーズ」に期待しかない
【試乗】二度見必至の存在感は普通のコナとはまるで別モノ! イメージを大きく変えたヒョンデ・コナ「N Line」に乗って感じたマルとバツ
more
イベント
公道レース「フォーミュラE東京」が帰って来る! チケットを持っていなくとも無料で1日遊び尽くせる2日間
災害に備えて未来を楽しむ! 「AWAJI EV MEET 2025」の参加はまだまだ受付中
災害時にも活躍できるEVの可能性を淡路島で体験! 「AWAJI EV MEET 2025 from OUTDOOR FEELS」開催決定
more

PIC UP CONTENTS

デイリーランキング

過去記事一覧

月を選択