EV事業からの撤退を表明したダイソン
あのダイソンがEV参入という話があったが、あれからどうなったのか? そんなふうに思っている人がいるかもしれない。
ダイソンは、英国人の発明家であるジェームス・ダイソンが考案したデュアルサイクロン方式の掃除機のメーカーだ。企業としては1993年に設立され、現在の本社はシンガポールにある。日本でも量販店やテレビショッピングでダイソンの各種掃除機を見かけることが多い。それまで掃除機といえば、日本の家電メーカー製品が主体であり、ダイソンのような海外ブランドを庶民が手にすることは珍しかった。
そうしたカルチャー変革を成し遂げたダイソンが、2017年に「EV参入」を発表したとき、自動車産業界からは事業性に対して懐疑的な見方があった一方で、一般消費者からは、掃除機革命を起こした企業ならば今度はEV革命に成功しても不思議でないという声も出てきた。
では、なぜダイソンはEVに注目したのか。
海外メディア各社でのリチャード・ダイソン氏のコメントを見ると、技術的には掃除機で培った最新デジタルモーターの技術がEVに応用できると考えたという。
また、EVの将来性については自動車産業界でさまざまな声があるとした上で、ベンチャー精神を軸にダイソンとして挑戦しがいがあるビジネス領域だという考えを示している。
当初は2021年にシンガポールでのEV生産を始めるとの目標を掲げていたが、2019年にEV事業からの撤退を表明した。主な理由は、事業の採算性が見通せないからだ。撤退の時期としては、2021年量産からバックキャストすれば、基礎的な研究開発のステージから量産に向けた本格的な投資のステージに入る直前だったといえるだろう。
この2019年というのはグローバルでEVシフトが急加速し始めた時期でもある。つまり、ダイソンとしてはライバルが急速に増える状況が見えたはずだ。計画を発表した2017年の時点では、テスラが「モデル3」の受注をなんとかさばき始めていたものの、大手自動車メーカーでは独VWグループを除き、EVシフトにはまだ懐疑的な見方をしていた。
ところが、2018〜2019年頃になるとグローバルで、財務情報だけではなく環境・企業の社会性・ガバナンスを重んじるESG投資の嵐が吹き始め、多様な企業がEVシフトに対する資金調達がやりやすくなった。あわせて、中国政府の後押しにより中国でEVブランドが一気に拡大した時期でもある。
こうしたなか、プレミアムEV市場を狙うダイソンとしては、市場の競争激化による投資リスクの高さを実感し撤退を発表したものと推測される。