いずれBEVをイジるのが当たり前になる時代がくる
──走りのチューニングに関してはいかがですか?
小林 サスペンションは、ベース車のものが意外と硬いんですよ。ですから「ダンパーZZ-R」でローダウンしつつ、乗り心地をソフトに仕上げていますが、「ダンパーZZ-R」は車高も減衰力もユーザーの好みに合わせて調整できます。そういうアフターパーツでなければできないことを提案していますね。
容量の大きい駆動用バッテリーを搭載している分だけ車重が重いので、ハードウェアの耐久性を確保しつつ、セッティングも単純に柔らかくすればいいというわけでもありませんので、その辺りのバランスを取っています。
タイヤもベース車の235/55R19から255/45R20にサイズアップしていますので、電費は悪くなるんですね。ですが、そこは「格好良いほうがいいでしょ?」と、我々の昔ながらのテイストを入れています(笑)。
ユーザーは我々が思っているより、乗り心地よりも車高を下げたりホイールをツライチにしたりなど見た目に興味が行きがちです。ですのでこのアリアは、一見ドレスアップ志向なんですが、サスペンションはしっかり走れるようセッティングしていますね。今後はアクセルレスポンスの調整や、ゆくゆくはシステム制御に介入してトルクの出方の調整もしてみたいと思っています。
なお、スロットルコントローラーは「スロコン」としてすでに設定していて、アクセルレスポンスを選べるようにしているのですが、車両側のシステムに入り込んで制御を調整するのはまだまだ先が見えない印象ですね。
──BEVのチューニングはどんな所が難しいですか?
小林 モーター自体の制御はエンジンよりもむしろ簡単ですが、バッテリーの温度管理やセルごとの電圧、劣化時の制御が難しいですね。
それに内燃機関であれば、どういうことをしたらどう壊れる、あるいは大丈夫という経験と実績があるんですが、BEVに関しては「チューニングして走れているけど本当に大丈夫なのか?」と。トラブルに関しては実際に出し尽くして、ユーザーさんの不安を払拭してからでないと、なかなかデリバリーできませんので。
ですのでまずは、手軽にお使いいただける外装パーツからスタートして、その間にいろいろ開発を進めていく計画です。5〜10年後にはBEVの新車もどんどん納車されて、インフラもある程度整って、チューニングをしたいというニーズが必ず増えるでしょうから。
初代トヨタ・プリウスが発売された際も、当社は車高を下げてターボを装着してみたんですが、「そんなヤツいない」と笑われましたね。でも蓋を開けてみれば、3代目の頃には改造するのが当たり前になりました。
ですからBEVも、悪い表現ですが「チューニングするならなんでBEV買ったんだよ」というような変わった人が、必ず一定数現れます(笑)。現時点でも引き合いが強く、「本当に発売するんですか?」というお問い合わせをいただいています。BEVのチューニングに関してはパーツも情報もまだまだ少ないですからね。そういう人たちに提案するには、いま開発しておかないと、5〜10年後に製品としてデリバリーできませんから。
正直な所、現時点では開発費がかさんでしまい、まったく儲かっていませんが(笑)、先行投資の意味は大きいと思っています。
──今後の展開がとても楽しみですね。ありがとうございました!