これはEV維新というべき発表ではないだろうか。中国のEV大手BYDが日本に本格上陸。12月5日、BYDの日本法人であるBYDオートジャパンは、日本導入の第1弾のモデル「ATTO 3(アットスリー)」の価格を発表。同時に2023年からのBYDの日本展開についても語られた。それは日本市場に革命を起こしそうな規模である。
アット 3の価格は税込440万円(税抜400万円)、補助金を入れるとさらに手頃に
日本導入第1弾となる「アット 3」は、現在世界中のメーカーのドル箱であるSUVだ。価格は税込440万円。補助金の対象となるため、多くのケースでもっと手頃に購入できる。5日に行われたBYDオートジャパンによる発表会で、東福寺厚樹代表取締役社長は価格についてこう述べた。
「400万円という数字は、Eモビリティをみんなのものに、という我々が目指す姿の現れ。日本のどのクルマをベンチマークにしたというわけではないが、BEVとPHEVの総合的な価格帯から検討した結果、税抜400万円に決定した」
また現在は日本全体が値上げラッシュである。今後値上げの可能性があるかについては、このように答えた。
「価格は中長期的な視点で設定した。発表した以上は当面この価格で勝負したいと思っている」
この発言から、BYDの日本進出は流行を追った一過性のものではない、ということが窺える。
高級ブランドのエキスパートが手がけたデザイン
アット3のボディサイズは全長4,455×全幅1,875×全高1,615mm。このサイズは国産のSUVと比較すると、「トヨタ・ハリアー」(4,740×1,855×1,660)や「日産エクストレイル」(4,660×1,840×1,720)、「マツダCX-5」(4,575×1,845×1,690)と同格と捉えられる。日本のユーザーでも馴染みやすいサイズではないだろうか。
滑らかな曲線とキャラクターラインを組み合わせたバランスは、欧州のプレミアムブランドと並べても見劣りしない。ホイールは車体の四隅に配置。ボンネットからキャラクターラインを経てテールランプに至るラインにSUVらしい腰高さを感じるものの、グリーンハウスの高さが抑えられていることで全体的にスポーティな印象だ。
インテリアはクルマらしい操作系が残されているのが特徴。全体としては、フィットネスジムをイメージしてデザインされたとのことだが、例えば細く感じるドアトリムやその上のホワイトのパネル、そこから前方のダッシュボード下部に至るラインからはデザインに対する意識の高さを感じる。
ダッシュボード中央にある12.8インチのタッチ式インフォメーションパネルは、「Apple CarPlay」「Android Auto」に対応し、その他車体の設定もつかさどる。ユニークなのは画面を回転することができ、スマートフォンやタブレット端末のようにフレキシブルな表示が可能であること。例えばナビ使用時は、縦画面にすると見やすさが格段に向上するだろう。
またインフォメーションパネル下のセンターコンソールには、馴染みのあるシフトレバーが備わる。レバーの周りにはハザードスイッチやエアコンなどのボタン類も配置されている。他のモデルでは、エアコンスイッチなどをタッチパネルにしているものもあるとはいえ、ブラインドタッチでの操作性は物理的なボタンに敵わない。シフトレバーも、電子制御であることを考えるとハンドル周辺に小さいレバーとして配置しても良いが、馴染んだ位置にあるほうが高齢者を含めた幅広い年代層に訴求しやすい。アット3の操作系の設計は、扱いやすさも考慮した結果だろう。
続いてパワートレインのスペックを見てみよう。モーターの最高出力は150kW(204ps)、最大トルクは310Nm。性能的には申し分ない。トルクが素早く立ち上がるEVならではの特性によって、市街地での発進や幹線道路への合流がしやすいだろう。
アット3の低重心設計はEVならではの特徴だ。自社製の薄型「ブレードバッテリー」を採用し、それが床下1面に搭載されている。ボンネットの下にある電動パワートレインも小型で、それら全てがタイヤの全高よりも低い位置に搭載されている。
バッテリー容量は58.56kWhで航続距離は485km(WLTCモード)。この数値であれば、冬にバッテリーの消費が激しい暖房を使用しても安心だ。購入開始から8年もしくは15万km以内にバッテリーの性能が新品比較で70%以下になった場合は無償交換の対象となる。
設計陣が欧州で鍛え抜かれたエキスパートであることは注目に値する。アルファ・ロメオのチーフデザイナー経験者であるウォルフガング・エガー氏をはじめ、メルセデス・ベンツでインテリアデザインを手がけたミケーレ・パーネティ氏、そして同じくメルセデスでシャシーチューニングを担当したハインツ・ケック氏を起用。簡単に言えば、アット3はアウトバーンを走るクルマを手がけた人々がデザインしたものだ。
ボディパネルのプレス成形品は、日本のタテバヤシモールディングが手がけている。衝突安全性についても、ユーロNCAPで最高水準である5つ星の評価を獲得している。アット3は中国のクルマだが、実は先進国の知恵と技術を取り入れたプレミアムカーと言える。
市場が覆るほど充実した販売とサービス体制
今回の発表でもっとも驚いたのは販売体制とアフターサービス等の充実ぶりである。購入の敷居を下げるため、月額4万400円のサブスクリプション型のリースプランも用意している(任意保険は付帯しない)。もちろん従来型ローンや残価設定型もあるので、どの支払い方式を選ぶかは自由だ。
手頃な価格設定であっても、そもそも買いに行く場所がないと購入も何もない。BYDオートジャパンは、2023年1月下旬以降に15都道府県で22箇所の「開業準備室」を順次オープンし、そこで新車の販売や試乗、アフターサービスを受けられる。もちろんこれ以降も全国にBYDの正規ディーラーをオープンさせる予定で、その数は2025年末までに100を超える計画だという。
各店舗には50kW級の急速充電器を備えるほか、故障時には購入店か否かに関係なく相談と対応が可能。電欠などに対応できるコールセンターも24時間365日で稼働させる。BYDオートジャパンは横浜の大黒埠頭に大規模な物流倉庫を設け、そこには新車はもちろん車体パーツも保管される。修理に長期間を要する心配もないだろう。
冒頭で「革命が起きそう」と言った理由は、この販売・アフターサービス体制の充実ぶりにある。近年、最初からこれほどの体制を持って日本に上陸した輸入車メーカーはあっただろうか。よほどの自信と普及への意気込みがなければ、大規模な体制を構築することはできない。うかうかしていると、既存のメーカーは市場をあっという間にBYDに明け渡してしまうのではないだろうか。